白仏
夜寝る前の1冊・・・
やっと辻仁成氏の「白仏」(はくぶつ)を読み終えた。
ぐいぐいと面白く読める本ではなく、テーマが重く随分時間がかかった。
寝る前に日課となったJINSEI STORIES で、
父ちゃんと息子の会話を読んだ後ではどうも・・・。
この小説はフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞外国小説賞」を日本人として唯一受賞。
どんな小説なのか興味があった。
亡き祖父に捧げる・・・
鉄砲屋の息子江口稔7歳。少年時代から物語は始まる。
筑紫平野筑後川最下流の大野島が舞台だ。終始その地方の方言で語られる。
稔の7歳年上の緒永久(おとわ)との初恋。地元幼なじみの4人の仲間。
武骨で無口な鉄砲屋の父。子だくさんで快活な母。
幼くして事故死した兄、初恋の人の死、戦場で戦友やロシア兵の死、
幼なじみの突然の死と自死、幼い息子の死・・・数多くの人の死を経験する。
それは余りにも多くの人の死だった。
仲間のひとりは、村でただ一人の火葬場の息子。
立ち入り禁止の火葬場で人の最後、焼けて煙になっていくところを見る。
稔は常に死とは生きる事とは考える・・・かなり哲学的。
稔が人生最後に行きついたのは、村の亡くなった人たちの骨を集めて「白仏」を作る事だった。
無縁仏も全て仏に。貧しか者も富める者も本来みんな一緒たい。人間の存在は一つちゅうこと。
これは辻氏38歳の作。この若さでこの作品を書いた氏の作家としての力量。
生と死・・・この小説がフランスで受賞したのが分かる。
ずっと方言で語られている。翻訳してこの良さが味わえないのがもったいない。
後書きを読んで、祖父村上豊氏が実際に島の人々の遺骨で「白仏」を建立されたことを知った。
これは祖父をモデルに書いた小説だった。
「白仏」は今も大野島のお寺にある。