元々(大ベテラン選手の多さ故)断層が出来てしまっているような選手編成なうえ、トップスコアラーの松尾(7得点)が故障で長期離脱と、苦労が絶えない横浜FC。
そんなチームの指揮を執るのは下平隆宏監督で、柏OBの経歴通り監督業を柏でスタートさせ、紆余曲折を経て再びJ1の監督としてピッチ脇に立っている今季。
現状は下位に佇んでいますが、降格の無いこの1年間をどう有意義に使うか試行錯誤を重ねている事でしょう。
一方の大分、順位的には中位の一番下ぐらいの立ち位置に居ます。
それでも横浜FC同様、2年間のスパンでJ1定着を図るべくの手法を獲らなければならない立場。
前年に旋風を巻き起こした事で、説明不要の高評価を得た片野坂知宏監督も既に5年目。
大分OBなのは間違い無いのですが、選手時代最も長く在籍していたのは柏。(Jリーグ発足前の歴史も含めればマツダ→広島なのだがそれは置いておく)
つまり下平氏・片野坂氏の元同僚対決という側面も持つこのカードで、クラブの立場的にも似た者同士。
そしてポゼッション重視の組織力溢れるサッカーを展開するものの、得点力不足で中々上に行けず、というピッチレベルでも酷似しています。
鏡に写したかのような相手との対戦。
ただしフォーメーションの面ではミラーマッチとはいかず、大分の3-4-2-1に対し、横浜FCは4-2-3-1の登録。
さらに試合が始まると、手塚がアンカーの立ち位置で、4-1-4-1のような形を採っていました。
前半はそんな微妙な変化を醸し出す横浜FCがボールを握る展開を描きます。
それでも中々フィニッシュまではいけず、対する大分も、相手のプレスを避けるようにロングパスが多めの入り。
そのため嫌がうえでも、横浜FCのビルドアップの観察に神経を使う前半となりました。(自分だけか?)
ボランチ1人の通称「1アンカー」の配置。
そのため相手側は、そのアンカーへのパスコースを消す事が第一に求められるので、FWがプレスを掛ける際はそこに気を遣う事となります。
この日の大分は最終ラインへのプレスは控え目で、手塚へのチェックを重視する立ち回り。
その分他の場所を使わなければならず、アンカーがボールに触るのは、横や前方からのパスとなりがちです。
故にサイドバックはあまり上がらず、インサイドハーフ(以下、IH)と協力しつつビルドアップの出口を作っていく。
この日の横浜FCの振る舞いを簡単に言えば、そんな所でしょうか。
マークされる手塚が拘われない分、IHの安永・齊藤功佑が降りて来てパスコースを増やすという図式に。
そうして前進出来た所で、初めて手塚の能力を活かす事が出来る。
前半10分に初シュート(手塚の遠目からのシュート・枠外)を放ってからも、慎重にボールを繋ぎ、バックパスで作り直す事が多かった横浜FC。
どちらかといえば、サイドハーフの中山・斉藤光毅の突破力に賭けている節が感じられました。
大分も同じ立ち回りながら中々好機を掴めず、飲水タイム直前に野村のパスを活かしてようやく攻め込む場面を演出。
そして飲水タイムが明けた後の26分、横浜FCは左サイドでボールを繋ぎ、小林の裏へのロングパスにSBの袴田が上がって受けての好機。(その後大分・岩田に奪われる)
SBが前線まで上がるというペースアップが感じられた場面で、その通りに先制点を得るのですが、あまり関係の無いセットプレーからでした。
28分のエリアからかなり手前の右からのフリーキック、キッカー・手塚はエリア内中央へクロス。
そこに多数の選手が雪崩れ込む中、センターバック・田代が左足で合わせてシュート。
混戦を制し、横浜FCが攻撃権を支配していた通りに得点を奪いました。
ビハインドとなった大分、以降はFWが最終ラインまでプレスを掛ける場面が目立ち始めます。
いかにも追い掛ける展開、といった感じでしたが、報われるどころか逆に窮地に立たされる事に。
32分、左からのスローインで横浜FCが攻撃を展開、瀬沼が落としたのち中央→右へとパスを繋いでサイドチェンジ。
そして右SB・瀬古からクロスが上がると、齊藤功が後方から走り込んでのヘディングシュート。
強烈なシュートがゴール右へと突き刺さり、短い間隔で追加点を得る事に成功します。
これで背水の陣を強いられた大分、以降は攻撃権を支配し点差を縮める事に集中します。
ようやく意識が前にいくようになったのか、両サイドともにスルーパスを多めにして押し込む事に成功。
コーナーキックを得る機会も多くなっていき、そして結果に繋げます。
44分、2点差とされて以降3度目のCK、左からキッカー・野村のクロスがニアサイドに。
これに鈴木・島川の2人が走り込み、ゾーンで守る横浜FCは鈴木の方に釣られたのか、島川のヘディングシュートが炸裂。
GK六反の上を抜いてゴールに突き刺さり、前半のうちに1点を返した大分。
その直後(45分)も、長谷川右へロングパス→小出落とす→田中グラウンダーでクロスと繋ぎ、野村が跳び込むも僅かに合わず。
アディショナルタイムにも2本CKを得る等押し込み続け、前半を終えます。
流れを継続したい大分、ハーフタイムで星雄次→高澤に交代。
田中が右シャドー→左ウイングバックへとシフトと動いてきました。
いきなり中山が右サイドでボール奪取、安永とのパス交換ののちドリブルで奥に切り込み、クロス気味にゴールを狙います。(枠外)
横浜FCの攻撃で入った後半でしたが、以降は前半の終盤そのままに大分のペース。
攻撃力豊かな田中が左WBに回った事で、サイド突破も容易になり主に左サイドから攻撃。
その分左CBの三竿も果敢に前へ出る場面が目立ち、前半よりも一層押し込みを見せていく大分。
それでも、シュートが増えていくのは後半15分頃まで待つ事となります。
15分、左サイドで野村のスルーパスに走り込んだのは三竿で、マイナスのクロスに島川が走り込んでシュートするも枠を捉えられず。
21分にはGK高木からの攻撃、高木→岩田縦パス→高澤ポストプレイの体勢で前へ→野村右へミドルパスとダイレクトで繋げていき、小出が手前から低いクロス。
野村のスルーを経て高澤に渡りますが、高澤はキープするも撃てず。(その後横パス→田中左からシュートもブロック)
22分は左CK、サインプレイだったのか野村のクロスはエリア手前へと向かい、岩田がボレーシュートにいったもののミートせず。
押し込んでいる割には少ない頻度ですが、ゴールを脅かしていきます。
リードを守る展開を強いられる横浜FC。
飲水タイムを挟み、明ける際(24分)に瀬沼・齊藤功→一美・志知へと2枚替えを敢行。
するとフォーメーションも3バックへとシフトし、ミラーマッチの様相となります。
しかし大分の跳梁は止まず、28分には左サイド奥からのFK。
野村のグラウンダーのクロスから、こぼれたボールを高澤がポストプレイ、そこに岩田が走り込んでシュートするもGK六反がセーブ。(尚も長谷川ミドルシュート・枠外)
ブロッカーの間を縫う素晴らしいシュートでしたが防がれた大分。
意気消沈する雰囲気を戻すべく、直後(29分)に伊佐・小出→知念・高山へと交代します。
開幕前は、藤本(現神戸)・オナイウ阿道(現マリノス)の穴を埋めるゴールゲッターとして期待された知念でしたが、ここまで得点は2と不振。
特に開幕節(セレッソ戦)、終了間際のミドルシュートがポストを直撃した場面が記憶に残っていますが、それが今季の苦難の幕開けとなったのでしょうか。
レンタル元の川崎でも、ポストプレイヤーとして上々の働きを見せながら、決定力を欠きレギュラー争いに苦悩していた節がありました。
移籍先で1トップとして押しも押されぬ存在となりたかった所でしたが、思うようにいかないのが勝負事の常。
同じくポストプレイが出来る高澤の躍進もあり、立場的にも危うい状況が続き、今季も既に終盤戦。
過密日程もあり中々継続して出場・結果を出す事が難しい今季ですが、残り試合で違いを見せ付けられるかどうか。
試合も残り15分を切り、大分が得点出来るかどうかに焦点が集まる展開に。
32分、CBと長谷川でパスを繋いだのち三竿が縦パス、知念のポストプレイを経て野村が左サイドでドリブル。
そして田中からクロスが入ると、ニアサイドで知念が合わせヘディングシュート。
しかしゴール上に外れてしまいます。
電光石火の得点とはいかなかった知念。
その後も34分に岩田のクロスからヘディングシュート(枠外)、38分に岩田のスルーパスを受けてクロス気味にシュート(枠外)と、果敢にゴールを狙うも結果に繋がりません。
大分全体としても、ゴール前には迫れるもそこからの攻撃がカギとなる展開です。
それでも知念・高澤とポストプレイヤーが2人揃った事で、中央からの打開も可能になり攻め手が増えた大分。
39分には左サイドからのパスワークでボールを受けた野村、中央へ向かうドリブルを見せた後に縦パスを入れ、高澤のポストプレイからエリア手前で細かく繋ぐ攻撃。
右サイドに展開し高山がクロスを入れるも、精度を欠いてモノに出来ず。
ATも迫りつつあった43分、ここも同様に町田(長谷川と交代で出場・37分)の中央へ縦パスを高澤がポストプレイ、野村が受けてドリブルしたのち左へ展開。
そして三竿のクロスが上がり、クリアされたボールを町田が落としたのち野村→町田→知念と繋がっていき、エリア内で知念が反転してシュート。
横浜FC・小林に当たったのちGK六反の手を弾くという、得点への執念が上回るかのようなゴールが生まれました。
攻め続けた大分、とうとう同点に。
尚も大分の勢いは止まらず、そのままATに。
防戦一方ながらもAT最初の大分のチャンス、知念のシュートを袴田がエリア内で頭でブロックするなど、勝負への執念を見せる横浜FC。
しかしそれを上回らんとする大分、野村がドリブルでエリア内に入ったのち絶妙なヒールパス、これを知念がシュート。
DFに当たり枠を外れて左CKとなり、蹴るのは当然野村。
最初のクロスはGK六反がパンチングで弾き出すも、拾った岩田から逆サイドでクロスが上がり、ファーサイドでヘディングシュートを放ったのは田中。
右サイドネットを揺らし、歓喜を呼ぶ逆転ゴールに辿り着きました。
そして再開後の大分のボールキープを経て、試合終了の笛が鳴り響く事に。
結局このカードは大分のダブル(1戦目は17節・1-0)となり、J1経験の量が差に表れたような今季。
しかし大分のメンバーも、知念を除けばJ2以下のカテゴリから上がってきた選手中心の編成となっています。
昇格したてで同じような状況の横浜FCも、知恵と工夫次第でJ1定着は夢ではないという事でしょう。
来季に向けた……とは未だ気が早いですが、今後の横浜FCの戦いが非常に楽しみになって来ました。