仁和寺街道から千本通を南に下って丸太町通へ。千本丸太町のあたりを一時期やたらと歩き回った。千本丸太町から少し離れたところに大正時代創業の、コーヒーが美味しくて時間帯によってはバアにもなるカフェーがあると話に聞いていた。女給さんは和服にサロンエプロンをつけていてBGMには蓄音機を使っているのだという。噂に聞くその大正浪漫を髣髴させるレトロモダーンな雰囲気に浸ってみたいと思っていたのである。とはいうもののどちらの方角に離れているのか聞いてはいなかったので千本丸太町の交差点を中心に東西南北くまなく探索範囲を広げていった。
京都で暮らし始めた当初から仁和寺街道沿いにある銭湯に通っていたのだが、そのカフェー探しの途上で千本通の西側、出水通の少し上に銭湯があるのに気づいた。普段通っている銭湯のサウナは湿式で、温度が低く設定してあり湿度が高い。人が二人並んですわればそれで一杯の小さなボックスの中に蒸気がもうもうと立ち込めている分体感はかなり暑く、10分と経たないうちに呼吸のたびに新しい蒸気に触れる鼻孔の周りが熱いやら痛いやら、しまいには鼻腔から喉の奥から胸の中まで熱く感じて呼吸がしづらくなって、出た後はかなり草臥れたようになった。千本通沿いの銭湯のものは乾式で、室温は摂氏100度前後に設定してあるがまだいくらか過ごし易い。その上サウナルームはかなり広く取ってあるので数人が寝そべっていることもできる。授業が早く終わって暇な午後はそこで時間を過ごすことも多くなった。そんな或午後のこと、サウナに入ると直ぐにもうひとり入ってきたが、おっさんが入ってきたところでどうということはない。10分ほど経って何の気なしに室を出ようとすると、肩越しに小さな声が聞こえた。
「勝った」
なにをぅ! とは思ったがもう暑い。水風呂に浸かってどうにか見返す方法はないものかと考えていたらそのおっさんも入ってきた。
「ほぉっ!」「だー」「うずぅーい…」
最初が水風呂に腰まで浸かったとき、次が肩まで沈んだとき、最後が水温に慣れてゆるんだと思しきとき、にそれぞれおっさんの発したオノマトペである。その後も頭から水をかぶりながら「だぁっしゃぁっしゃぁ」と意味のわからない大声をあげている。
『うるっせぇな』
無論、思っただけで声には出さない。ひとまず水から出て軽く体を拭き、冷水でタオルを絞ってからもう一度サウナに入った。サウナルームに入った正面は番台に向かう格好でガラスの嵌められた窓になっていて、窓を右手にする位置に座る場所が2段になってしつらえてある。上段の一番奥に胡坐をかいて、窓の桟に置いてある5分計の砂時計をひっくり返したところでまたもやおっさんも入ってきた。おっさんは頭からタオルを被って、下段入り口側に燃え尽きた矢吹丈のような格好で座っている。どちらかが何かを言う訳ではなく、こういう5分はやたらと長い。いじいじしながら待っているとようやく砂が落ちきって、砂時計をひっくり返す。チリチリと砂の落ちる音まで聞こえそうな静かな時間がゆっくりと流れていって、半分ほど砂が落ちたあたりで双方が大きく息をついたり上体を捻ったり伸びをしたり、要はそろそろ我慢しきれなくなり始めているらしい。お互い「まだかい!」という視線をちらちらと送りながらそっぽを向いているうちにぼんやりとしてきたようである。
「ほぅ」
と聞こえたので目を開けてみると5分経っていた。大仰に伸びをしながら欠伸をして見せて、なんでもない風を装いつつ砂時計をひっくり返す。四半分ほど落ちたあたりで小さな声が聞こえた。
「まいった」
「あぁっつぅー!たぁまらんなぁ」という声とともに扉を潜っていくおっさんを見送りながらこぶしを握る。なんでもないことはないのだけれど砂が落ちきるまで居座ることにした。扉の向こうで激しい水音と「おー!どぅえーい」という意味のわからないオノマトペが遠くの音に聞こえる。ようやく5分経ってサウナを出るとすでにおっさんの姿はなく、静かにゆったりと水に浸かることができた。体も冷めてサテ帰ろうかと脱衣場に出るとおっさんは正面から扇風機の風に当たりながら「あー」。大丈夫かこの親父、と思っていたら「にぃちゃん、あっついのぉー!」
…話しかけられてしまった。しかもこちらに向かって牛乳を差し出している。なんスかこれ?
「ホンマはビールがええにゃケド、これから仕事なモンやからこれで乾杯しよかぁ」
負けたから奢る、というのだが。こちらに覚えのない勝負を勝手に挑んできて勝手に敗退していったおっさんが勝手に差し出している牛乳瓶にまぶれついている水滴をみるといかにも冷えていそうである。なにしろ喉が渇いているのでビールでなくとも構わない、遠慮なく頂戴することにした。
聞けばおっさんはタクシーの運転手で、これから乗務するのだという。そらビールではないわな。乗務歴も長いということなのでいろいろ地理にも詳しかろうと件のカフェーについて訊いてみた。
「知ってるよぉ、よぉ通ったわぁ、懐かしいなぁ」
「へぇ、でそれ、どのへんですか?」
「去年閉めはったで」
話に聞いてあくがれていた京都の一端はおっさんのひと言で手の届かない過去のものとなり、なんだかとんでもない徒労感にさいなまれて春宵の涼やかな風に火照った頬をなぶられながら千本通を北へ向かってふらりふらりと。仁和寺街道を通り過ぎ、おっさんの勧めてくれた中華飯店でそのまま中ジョッキを煽って、やはり湯上りには牛乳よりもこっちの方が似つかわしい。タクシーの運転手が勧めるだけあって安くてうまい。煙草を吸おうと思ったら持っていない、そこでハタと気づけば風呂屋で受け取った釣り銭しか持ちあわせていなかったのである。ポケットの中に十円玉を探り当てたのをこれ幸いと、店に備え付けの公衆電話から電話をかけて樽尾を呼び出した。よくもまぁ家に居てくれたものである。電話で頼んでおいた煙草を携えて樽尾が来てからどれだけ呑んだかどれだけ食ったか、夜明けに気づいたら二人して下宿に転がっていた。樽尾は感心なことに中華飯店のレシートを握り締めていたので、その半分の金額を渡しておしまいにした。
すでにご存じの方も多い方と思いますが、先日当学園より「中高一貫校を作る」というプレスリリースをいたしました。
http://www.asahi.com/edu/news/OSK201204120055.html
水面下ではずっと動き続けていた話ですが、もろもろの条件が整い、やっと計画にGOサインがでました!
予備校教員を10年近くやってきて思ったことは
「人が人を作り、育てるのはやっぱり面白い」ということ。
特に予備校では1年で勝負がつきます。(といっても受験に関しての話しだけですが)
1年間で「ロバを鍛えてダービーに出す」のももちろん面白くてやりがいのある仕事なのですが、
できることなら3年、もっと可能ならば6年かけてじっくりと人材を育成するのは、また違った魅力があると思います。
そして育っていった人材が、世界をリードしてくれるような人物に成長するならば、、、と考えると夢は尽きません。
これからは予備校・受験ネタと学校設立ネタと両方でブログを書いていきます!!
あ、それから。
教員志望の卒業生のみなさん、「あすなろ」も候補に入れておいてね!!
いやあ、気が付けばもう新学期だ!!
しばらくブログを更新していなかったことはすっかり忘れて、新学期もがんばっていこう!!えいえいおーーーーー!
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すいません、以後真面目にブログ更新いたします
さてさて、新高校1年生のみなさん!
やっと新学期の第1週が終わりましたね!!
特に今日は雨の中の遠足、お疲れ様でした
来週からいよいよ本格的な高校の授業が始まります。
なめちゃあいないと思うが、気を抜いてはだめですよ!
一気に持って行かれますよ!!
各授業で出される課題を確実にこなすことを中心に、平日は1日2時間、必ず机に向かって勉強してください。
「高校入試も終わった今、そんなことはできっこない!」と思っている人は、勉強する場所を確保してください。
もちろんあすなろで自習、で構いません。
大事なのは、
「わからないことは次の日に持ち込まない」こと!
それをやってたら一気に溜まっていくから、わからないことはきちんと聞こう!!
ここできちんとした勉強習慣を作っておかないとあとあとがツラいから、頑張れ受験生!、じゃなかった、
がんばれ新高校1年生!