一年浪人をして、祇園のホテルに1週間連泊して三校を受験した。最初がいわゆる滑り止めとして考えていた大学で、中二日置いて二校目が本命と目していたところ、それが済んで中一日置いて本命よりもボーダーランクの低めの大学を受けることになっていた。第一志望に考えていた大学には高校時分に親しかった同級生が現役で合格しており、そこの入試の翌日ホテルに電話をかけてきた。今にして思えばお疲れさんという言葉にほだされて一緒にのこのこ出かけて行ったのが運の尽きだったのであるが、後悔とは先に立たないものなのである。単なる食事にとどまらず、何軒かの居酒屋とショットバーを引き回され、ホテルに帰らずそいつの下宿で数時間泥のように眠りこけた挙句風邪気味になって半ばふらつきながら三校目の受験会場へ向かうという仕儀に立ち至る。結果は推してしるべし、まことに面目ないことになってしまった。後悔とは先に立たないのみならず何の役にも立たないものなのであるからして、これから入試に向かわれる受験生の諸嬢諸兄におかれましてはくれぐれもこういうことのないよう十分注意せられんことをここにご忠告申しておく。
ともあれだ、本命校に合格したので終わりよければすべて好し、浪人生活については「心にかかる雲ひとつだになし」と、実に晴れ晴れとして結果オーライな大学生活のスタートを切ったのである。
大学に入学しておよそ1ト月半、5月の終わりに気に入らないからという理由で突然ある男がある男に殴りかかった。中坊かお前は、というのが一人。夜中に恋人の下宿のベッドの中から電話をかけてきて、自分たちがしていることを喋ろうとする。
知ったこっちゃねぇ。
バカじゃねぇのか、というのが一人。それを聞いていた横の女も女で、電話を代わって「なんで怒ってんのー?」って、こいつもバカだ、呆れかえって鼻から笑いが漏れた。
「おまえらほんんっまにお似合いやなぁ」
「でしょー?」
ぞくっ、とした。それだけでも相当頓馬な自分の宿酔い受験はしれっと棚に上げておくとして、仮にも20年近く生きてきた人間がだな、と懇懇と言って聞かせてやりたいような、どっか間違うてへんか? と問いかけたくなるような、情操に関わる教育を丸ごとどこかに忘れてきたのではないかと思われる上記のようなのに幾人か出会った。
「大学までくるともう年齢じゃないね」
と、鞍多は言った。いくつであろうと、ついでに言うとどこの大学に在籍していようとバカはバカだというのである。至極ごもっともな指摘であって、実は同じことを石地さん、会津さん、佐宗さん、栄地からも聞いたことがある。いずれも世知弁な、というかいわゆるストリート・ワイズな面面なのであるが、その全員が何らかの棚上げをおこなったうえでの発言であることは言うまでもない。大学生が世間知らずの怖いもの知らずであるのは当然なのだけど、願わくは皆さんも後者のような「自覚を持ったバカ」であられますように。
それではしっかり、頑張っておいで。