leka

この世界のどこかに居る似た者達へ。

とてもやさしいチューでした。

2013-12-23 18:35:54 | お芝居・テレビ
上川隆也さんと浅丘ルリ子さん主演の舞台「渇いた太陽」が全国をまわって、東京へ帰って来ました。

千住での初日とは変わった所がありました・・・あ、行けなかった方、行けない方のために書くので、基本的にネタバレはします。

知りたくない方は引き返して下さいね






チャンスはひっきりなしにタバコを吸ってましたが、なんとなく吸う回数は減った気がします。でも元喫煙者から見ても、ふかすだけだった初日に比べ何度かに一度本当に吸い込んでいる様に見えました

ま、相変らず浅丘さんの方がタバコをくゆらす姿はカッコイイですけどね

この「渇いた太陽」と言うお芝居の前半はずっとホテルの一室での場面です。

ホテルのボーイさんと上川さん演ずるチャンスウェインの知人、スカダー医師が少し出演しますが、殆どがチャンスと浅丘さん演ずるアレクサンドラ二人の会話。

アレクサンドラ・デル・ラーゴと言う女優を演ずる浅丘さんは、お芝居の初めはずっとその部屋のセットの真ん中にある大きなベッドの中で眠っています。服の一部で顔は隠していますが。

年齢と言う逃げられない現実から「現実逃避」して来た年嵩の増した女優です。

前日の夜にしこたまウォッカを呑み、最悪な目覚めを迎える運命にあります。


アタシには初め日本人なのに外国人を演じるお芝居についての違和感がありましたが、舞台上の人々そして舞台に出ない人々もきちんと、細々と気を配って表現していているのが伝わって来て感激しました。

それは部屋に入る日の光りの差し込み方ひとつにしても、説得力と正確に伝えようとする細やかな心に満ちていました。ブラインドを広く開けた時と小さく開けた時の光の違い、カーテンを開けた時と閉めた時の違い。時間によって違う明かりの具合。

正確にその場所を感知する事の出来る、ノックや電話の音。

そう言うプロフェッショナルな物を感じられた瞬間「おぉっ」と言う驚きで、ワクワクしました。

チャンス・ウェインは酷い二日酔いで頭痛がするらしく、ボーイの持って来た薬を飲みます。グラスに入った水が見る見る青い色に変わって行ったので、水に溶かして飲む薬だったんですね。思えばこの人はベッドの隅に腰掛けて頭を抱えてる一番最初のシーンから震えています。すでに追い込まれている状態であり、相当不安定なんですね。

チャンスは自分の暮らした町へかつて大女優として名をはせたアレクサンドラを連れて戻って来たのでした。

スカダー医師が部屋を訪ねて来て、チャンスの母親が亡くなった事を教えてくれました。偽名を使い、定まった住所もない暮らしをしていたチャンスには、伝えようがなかったとも。そしてスカダーは、チャンスのかつての恋人(チャンスはまだ自分の恋人と思っていますが)ヘブンリーと言う女性と自分が結婚すると言って部屋を後にします。

がっくりするチャンスの横で、悲鳴の様な声をあげてアレクサンドラが目を覚まします。

泥酔して眠ってしまったアレクサンドラは、自分が居る場所がどこなのかも、チャンスが誰なのかも分からずパニックに陥り、持ち歩いている酸素をチャンスに持って来させて吸ったり、ウォッカを呑んだりして落ち着きを取り戻します。

チャンス・ウェインと言う男は束の間役者として脚光を浴びた青年でしたが、戦争に出兵した事で人々からは忘れられてしまっていました。

アレクサンドラは美しい女優でしたが、迫り来る年齢に昔の様な美貌がもう自分には無いと嘆き恐れ、映画の世界から逃げて来たのでした。

二人は出逢い、チャンスはアレクサンドラのコネクションを利用して自分の恋人へブンリーと共に華やかな世界へ返り咲こうとします。

チャンスとアレクサンドラはお互いの欲のために相手を攻撃する様な事も言い合うし、二人の間には常に各々の弱さ脆さを回避しようとする計算があります。

アレクサンドラの台詞で

「私達みたいな二人が出会った時は、どちらかが退かなければならない。」

と言う台詞があります。お互いが退かないでいたらお互いが破滅すると言うこと。誰も幸せにはならないし何も残らないと言うこと。

「そして、それは私ではない。」

と彼女は言います。でも、これは物語の後半での台詞です。

前半では現実に疲れ果てたアレクサンドラを、彼女よりも若いチャンスがなんとなく彼のペースに巻き込みます。

彼女の持ってたハシシを一緒に吸ったり、契約の様な取り決めの中でベッドを共にしたり。

しかし、そこには彼の計算が必ずあるわけです。思えば哀しい話ですが、そんなストーリーの中にも客席がクスクス笑いに包まれる瞬間が用意されています。

目覚めた彼女がフラフラと起き上がり、窓のそばに行こうとします。

足元もあぶなっかしい彼女にチャンスが手を貸しますが、この時

「右、左、右、左。」と掛け声を。しかも窓のそばまで来たら

「段差をぴょんっ

と言って二人で揃って可愛く飛び跳ねたり

”段差をぴょん”は千住初日にはなかった気が。


ベッドを共にした後の、アレクサンドラの「そこそこ満足」発言

「完璧ではなく、あくまでそこそこ。」と

”そこそこ”を2回ぐらい言いますね

一人ベッドの上でまったりムードだったりするチャンスがまた笑えました

バスルームから出て来たであろうアレクサンドラはちゃんと口紅が取れちゃったりしてて、色っぽかったですね。



殺伐とした物語の中での笑える場面は客席の息抜きにもなります。

不安定な空気の中で、少しホッとするような。

ほぼ二人だけで沢山の台詞を言い合う前半。

セットには鏡があるんですが、アタシは鏡の中に映るお二人が見える位置に座りました。

鏡の中に映る背中でも、横顔でも二人はチャンス・ウェインとアレクサンドラ・デル・ラーゴであった気がします。一分の隙も無い役者さんの気迫を見た気がしました。

己の360度を観客にさらし、互いに向き合うお二人を改めて凄いなと思います。







自分がもてはやされていた頃の話なんかを楽しそうに、夢みたいな事ばっかし話してるチャンスに彼女はついにはお金をあげます。

心の隙間でチャンスの存在が大きくなってしまったアレクサンドラは、有頂天になって彼女のキャデラックで町へ行くと言う彼に行かないで欲しいと不安に満ちた表情をします。

いつ帰って来るのかと聞く彼女に、彼はもう帰って来ないかもしれないと答えます。


惚れた男が悪かったのさ~ぐらいの態度の上川チャンスに、おまいはまたーなどとアタシは思います。


でも部屋を出て行く時に彼が微笑みながらアレクサンドラにしたチューは、とても平和でやさしいチューでした。





これから二人を待ち受ける運命を考えると、酷く切ない瞬間であったかもしれません。





続きはまた今度。