理想国家日本の条件 さんより転載です。
北朝鮮の新型ミサイルが日本に脅威であり、イージス・アショアではどうにもならない5つの理由
HARBOR BUSINESS Online / 2019年9月4日
島根原子力発電所3号炉原子炉建屋と半数必中界の関係 外周から 黄 200m ノドンの最近の値とされる 青 50mシャハブ3B(ノドン改良型) 紫 10m KN-23(実際には5〜7mとされる) ※地図に円を描く Yahoo! JavaScriptマップ API版よりhttps://news.infoseek.co.jp/article/harborbusinessonline_20190904_00200703/
前回、北朝鮮(D.P.R.K.)による新型SRBM、NATOコードKN-23の実験とその日本にとっての意味について簡単にご紹介しました。
既述のようにこのKN-23は、旧ソ連邦から継続してロシアが開発した9K720イスカンデルの派生とされています。またこれまでの実験成功率の高さから、北朝鮮が得意とするリバースエンジニアリングによる複製とその改良ではなく、ロシアによる技術協力があった可能性も考えられます*。
<*Experts See Russia Fingerprints on North Korea’s New Missile | Voice of America – English”2019/05/10 Voice Of America(VOA)(※筆者注:この報道はロシアからの直接供与については懐疑的である)、北の新型弾道ミサイル、露が技術支援の可能性2019/08/07 wowKorea(ワウコリア)(※2019/08/06 VOA報という韓国News1の配信記事である。但し、VOAのWebsiteで同内容の記事は見当たらない)VOAは、合衆国の国際宣伝放送である。また、wowKoreaは、韓流芸能情報サイトであるが、一般記事は硬派な記事の配信が多く見られる>
Contents1 KN-23の特徴とその日本への影響2 KN-23の飛行軌道は、迎撃困難な可能性3 西日本の主要地点が射程に入る可能性4 命中精度も驚異的で数発で標的破壊可能5 核弾頭搭載せずとも充分な破壊力
◆KN-23の特徴とその日本への影響
KN-23は、これまでの試射による実績値として射程600kmであり合衆国による推定では射程690kmとなっており、西日本の北西部をその射程圏内に納めます。
特筆すべきは、次の五点と言えます。
1) 一段式固体燃料ロケットモーターを推進機関とする
2) 飛程が単なる弾道軌道ではなくミッドコース後半から「低高度滑降・跳躍型飛行軌道」に移行する
3)射程距離は600km(実績)、690km(合衆国推定)とされ、更に延伸できる可能性がある*
4)半数必中界(CEP: Circular Error Probability)が5〜7mと推測されている
5)弾頭として480kgの生物、化学、通常弾頭、ロシア版バンカーバスターを搭載できるとされる。また合衆国は、核弾頭を搭載しうるとして警戒している*
<*KN-23の原型となる9K720イスカンデルは、INF全廃条約(中距離核戦力全廃条約)に準拠するために射程距離を500km以内(INF全廃条約でのSRBMの定義)とし、更に核弾頭搭載能力を削除したとされる。一方で、デチューンした性能の復元は可能であると考えられる>
ここで各項について解説します。
◆KN-23の飛行軌道は、迎撃困難な可能性
1) 一段式固体燃料ロケットモーターを推進機関とする
北朝鮮の弾道ミサイルは、もともとソ連邦のR-17(NATOコードSS-1c Scud-B)をエジプトから1979〜80年に導入したものが原点となっている。北朝鮮では、これのリバースエンジニアリングによって火星5号,6号,7号(ノドン-1),9号(Scud-ER)と発展させており兵器輸出の主力商品である*。
火星シリーズは、液体燃料ロケットであり、ハイパーゴリック推進剤(Hypergolic propellant, 自己着火性推進剤)である非対称ジメチルヒドラジンと抑制赤煙硝酸を用いている。これは常温で貯蔵でき、ミサイルへの充填後数ヶ月は運用可能である一方で、きわめて有毒であり、腐食性が強くミサイル内のタンクを腐食する。実際、ソ連邦ではこれにより、作戦中の核弾頭搭載弾道ミサイルの自爆事故が幾度も発生している。また運用時には、兵士は化学防護服を着用せねばならない。
KN-23ほか近年北朝鮮が開発中である北極星シリーズ弾道ミサイルは、固体燃料ロケットであり、長期保管と即応性にきわめて優れるし、毒性や腐食性がないために取り扱いが圧倒的に楽である。
従って、奇襲攻撃や隠密行動にきわめて適している。
推進機関の種類については、燃焼炎の色や形など映像から特定できる。
<*イランのシャハブ(流星)、パキスタンのブルカン(火山)、イエメン・イランのQiam(蜂起)などが挙げられる。イラン、パキスタンとは共同開発が行われているとみられており、国連安保理決議1695号の抜け穴とされている>
2) 飛程が単なる弾道軌道ではなくミッドコース後半から「低高度滑降・跳躍型飛行軌道」に移行する
これまでの北朝鮮の弾道ミサイルは、古典的な単弾頭かつ弾道軌道(基本的に最小エネルギー軌道)をとるものであった。近年、精密誘導型Scud(Scud MaRV)とされるNATOコードKN-18の試射を2017年5月28日に行ったが、実戦配備されていない。
前回指摘したように、KN-23の「低高度滑降・跳躍型飛行軌道」は、SM-3、THAAD、PAC-3による三段構えミサイル防空の死角を突いており、現状では、迎撃がきわめて困難である。
現在合衆国が開発中であるSM-6弾道弾迎撃対応型や、配備が始まっている能力向上型PAC-3ならば迎撃が可能ではないかと考えられている。
一方でKN-23が、現在未確認の最終段階での急上昇・垂直降下が可能ならば迎撃は難しくなるし、MaRV(機動再突入体)*の機動能力如何では迎撃がきわめて困難となる。
軌道については、試射の観測データから特定できる。7/24の試射では、通常の弾道飛行を予想していた韓国がその想定外の軌道によって一時見失うなど混乱したとされる。
<*KN-23は、弾頭がロケットモーターから分離しないのでMaRVといってもロケット自体が空力フィンなどで軌道変更すると思われる。一方でKN-18(Scud MaRV)は、弾頭が分離して終末軌道で軌道、姿勢制御を行う>
◆西日本の主要地点が射程に入る可能性
3) 射程距離は600km(実績)、690km(合衆国推定)とされ、更に延伸できる可能性がある
前回示したように、KN-23は、九州北部、中国西部、四国北部を射程に収めると考えられる。将来、射程延伸されると西日本全域が射程に収められる可能性がある。
現時点では、隠密行動によって金剛山周辺に展開されると関門海峡連絡橋・隧道、西瀬戸自動車道、玄海原子力発電所、島根原子力発電所、伊方発電所、萩展開予定のイージス・アショア、岩国基地、佐世保基地が射程に収められる。
将来、北朝鮮が得意とする射程延伸改良がなされると、静岡―新潟以西が射程圏内となり得る。
射程距離については、試射の観察記録や、軍事パレードや打ち上げ時の映像から推測、検証が可能である。
◆命中精度も驚異的で数発で標的破壊可能
4) 半数必中界(CEP: Circular Error Probability)が5〜7mと推測されている
これまで火星シリーズのミサイルは、半数必中界(CEP。発射した半数の着弾が見込める範囲を、目標を中心とした半径で表したもの)が千〜数千メートルとされてきた。これは、初期における慣性誘導方式のみの弾道弾の限界とされ、弾頭を核にするなど一発で広域を破壊できなければ見かけ上の派手さに反してたいした戦果は挙げられない。これはドイツによるV2ミサイルによる都市攻撃から一貫した通常弾頭弾道弾の欠点である。
近年、火星7号(ノドン-1)の派生型であるイランのシャハブ-3Bが、慣性誘導(Gyroscope Guidance)の大幅な性能向上(但し、地形照査などを加えた可能性もある)によってCEPを30〜50mと大幅に改善したとされ、当然これは北朝鮮にも持ち帰られていると考えられる。
北朝鮮では、2017年5月28日に射程400kmとされる精密誘導型Scud(Scud MaRV,NATOコードKN-18)の実験を成功させており、これのCEPは50mとされている。
50m前後のCEPでは、例え通常弾頭であっても二発を打ち込めば迎撃などの妨害が無い限り例えば大型商用原子炉といった大型の建築物に致命的打撃を与えられる。従って、例え核弾頭を搭載しなくても目標物を数発で破壊できるため「使いやすく」「こうかはばつぐん」な戦術兵器となる。
5〜7mのCEPでは、動かない目標ならばほぼすべての目標を二発で確実に破壊できる。例えば橋梁、鉄道、石油・ガスタンク、原子炉、放送局、通信設備などあらゆる固定目標が該当する。軍事目標では、陸上固定基地、空港施設、とくに格納庫、港湾施設、ドックなどの重要目標を超音速で飛来する500kgの弾頭で狙い撃ちできる。原子炉と同じで、装甲強化目標であっても通常弾頭や特殊弾頭(バンカーバスターなど)で破壊できる。
但し半数必中界(CEP)は、事実の確認と検証がたいへんに難しい。
◆核弾頭搭載せずとも充分な破壊力
5) 弾頭として480kgの生物、化学、通常弾頭、ロシア版バンカーバスターを搭載できるとされる。また合衆国は、核弾頭を搭載しうるとして警戒している
ノドンなどのCEPが千〜数千メートル級の弾道ミサイルは、弾頭質量(ペイロード)が1t前後である。これは、CEPが大きく、目標を狙い撃ちできないために核弾頭(初期の核弾頭は1t前後となる)を搭載するか、大量の炸薬を搭載して広範囲に被害を及ぼす事を目標とする為である。
一方、CEPが小さくなれば弾頭質量は小さくても十分な効果が期待できる。また、核弾頭の小型化に成功すれば弾頭質量は500kg未満でも問題ない。その分の質量をロケット燃料や誘導・姿勢制御装置に回し、性能向上が出来る。
KN-23は、元となった9K720イスカンデルの高い汎用性を継承していると考えられており、化学、生物、通常弾頭、特殊弾頭が搭載できるとされる。
合衆国は核搭載可能と見做しているが、バンカーバスターの効かない大深度地下の施設や、核ミサイルのサイロを破壊する目的以外ではあまり意味がないであろう。故に北朝鮮にとって外交交渉の上での有力な手札となる*。
<*外交において豚札をジョーカーやスペードのエースのように見せかけるのはイロハのイであり、北朝鮮はこれをきわめて得意としてきている>
このように五つ挙げたKN-23の特徴は、これまでの対日弾道ミサイルの範疇を大きく超え、常識を覆すものです。
高い即応性と隠密性、迎撃困難な機動性、極めて高い命中精度、ペイロードの汎用性によって、固定目標であるならば射程内のあらゆる目標を破壊できると考えて良いです。一方で航行中の艦船など、移動目標の破壊は、きわめて大威力の核弾頭を使うか、まぐれ当たりでない限りまず不可能です。
またSRBMは、弾道弾としてはかなり安価ですが、固体燃料式の場合は取得費用だけでなく運用費用も安くなりますので、KN-23が量産に入った場合、大量配備されることが予想されます。一発あたり数十億円するミッドコース迎撃弾に比して数十分の一の費用で済むでしょう。実際日本が追加購入するSM-3 BlockIIAは、周辺機器を含めて一発あたり約50億円(FMS(対外有償軍事援助)であれば、実際には値段は大幅に上がる可能性が高い)*で、一般的なSRBMに比して五十倍前後から百倍の価格と思われます。また、SM-3では原理的にKN-23を迎撃できません。ここで思い出していただきたいのですが、元々日本政府は、イージス・アショアは、THAADよりずっと安いと説明してTHAADを排してイージス・アショアを導入したことです。
<*米、日本への弾道弾迎撃ミサイル売却を承認 2019/08/28 AFPBB:”弾道弾迎撃ミサイル33億ドル(約3500億円)相当の日本への売却を承認した。米国防総省によると、日本が購入するのは米防衛機器大手レイセオン(Raytheon)製の「SM3ブロック2A(SM-3 Block IIA)」最大73発で、艦載型イージスシステムから発射”(記事抜粋)>
さて、ここまでで事実および推測されることを順序立てて並べてきました。次回は、KN-23配備によってイージス・アショア萩配備計画がどのように影響を受けるか論述します。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア13
※なお、本記事は配信先によっては参照先のリンクが機能しない場合もございますので、その場合はHBOL本体サイトにて御覧ください。本サイト欄外には過去12回分のリンクもまとまっております。
【牧田寛】
Twitter ID:@BB45_Colorado
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中