袋老医師から聞いたというゆきの話を、幾度ともなくいやいやをしながら、とめどなく流れ落ちる涙と一緒になって一心に聞き入っていました。納得がいかないのは無理はありません。「どうして」という言葉さへ何処かに忘れ去ってしまったかのように、ただ、ゆきの話す言葉の中の政之輔の姿を追い求めていくように聞き入るのです。涙が後から後から頬を伝わります。ゆきはそのおせんの涙を見ると、余計に辛く心がえぐられ壊れてしまうようでもありました。
長いゆきの話を聞き終わると、おせんはその場にばたりと泣き伏します。その肩にそっと手をおいて、何も言わないで黙って、ゆきはおせんと一緒に涙を流していました。
又、しばらくどうしようもない空しい時が立ち込めます。お店の中から聞こえてくる人の足音などからも、ようやくあたりも夕方近くなっている気配を伝えています。
「一人で帰りますよって」と、言うおせんでしたが、ゆきが店の者を付けてくれて、舟木屋の前まで送ってくれました。
舟木屋では心配していた母親のおよしが出迎えます。
おせんの体を抱くようにして部屋に入ります。それなり、何も言わないで、倒れ込むように床に横たわります。「今日、一日何があったのか」と聞いても、おせんは何も答えてもくれません。どこへ行っていたのかすらわかりません。
「どうしなはったおせん。おせんに、何処で何が起こったのどすか。どうしなはったの。元気出してえなー」と、必死になって母親のおよしは、おせんに体ごとぶつかるように、何度も何度も、問いかけます。でも、その母の声さえ届かないのか、黙ってうつろな目をして、唯、天井の辺りを眺めているだけです。
なぜこうなったのか皆目、見当すらたちません。何もしゃべらないのですから。母親が抱き起こしても、母親の為すがままに、ただ、お人形さんのように自分の身体を動かすだけです。自分が何者だあるかすら、自分自身にも分らないようです。
「どうしたの。おせん。頼むさかい返事してえなー」
悲痛なおよしの叫びが部屋から家中に流れます聞こえます。
その声を聞いたのか、父親の徳太郎も駆けつけ、おせんを周りから、唯、見つめ、おろおろとしているだけです。
祖父の茲三郎もやや遅れてやってきます。
「どうしたおせん。どうして急に、ううむ」
と、言って、心配顔でおせんを覗き込みます。
長いゆきの話を聞き終わると、おせんはその場にばたりと泣き伏します。その肩にそっと手をおいて、何も言わないで黙って、ゆきはおせんと一緒に涙を流していました。
又、しばらくどうしようもない空しい時が立ち込めます。お店の中から聞こえてくる人の足音などからも、ようやくあたりも夕方近くなっている気配を伝えています。
「一人で帰りますよって」と、言うおせんでしたが、ゆきが店の者を付けてくれて、舟木屋の前まで送ってくれました。
舟木屋では心配していた母親のおよしが出迎えます。
おせんの体を抱くようにして部屋に入ります。それなり、何も言わないで、倒れ込むように床に横たわります。「今日、一日何があったのか」と聞いても、おせんは何も答えてもくれません。どこへ行っていたのかすらわかりません。
「どうしなはったおせん。おせんに、何処で何が起こったのどすか。どうしなはったの。元気出してえなー」と、必死になって母親のおよしは、おせんに体ごとぶつかるように、何度も何度も、問いかけます。でも、その母の声さえ届かないのか、黙ってうつろな目をして、唯、天井の辺りを眺めているだけです。
なぜこうなったのか皆目、見当すらたちません。何もしゃべらないのですから。母親が抱き起こしても、母親の為すがままに、ただ、お人形さんのように自分の身体を動かすだけです。自分が何者だあるかすら、自分自身にも分らないようです。
「どうしたの。おせん。頼むさかい返事してえなー」
悲痛なおよしの叫びが部屋から家中に流れます聞こえます。
その声を聞いたのか、父親の徳太郎も駆けつけ、おせんを周りから、唯、見つめ、おろおろとしているだけです。
祖父の茲三郎もやや遅れてやってきます。
「どうしたおせん。どうして急に、ううむ」
と、言って、心配顔でおせんを覗き込みます。