母の一滴の涙がおせんの深い眠りを覚まします。
「かかさん」
「おせん」
しばらくの間、二人は固く抱き合ったままでした。
そんな二人をおいて、そっと、お園は部屋を出て濡縁に腰をおろし、皐月のまばゆい朝日をいっぱいに浴びて、昨夜からの雨に濡れた透き通るように輝く楓の若葉の新緑を魅入るように眺めています。
故里のお山もきっと、今、ここの緑と同じようにきれいだろうな。一段とさやけき音を響かせながら流れくだっているだろう細谷川の水も、初々しい緑の中を流れれいるだろうと思いながら眺めていました。ふと、平蔵さんは今何しているだろうかなと言う思いも心を掠めます。
「おせんさん、これで立ち直れる?お園さん助けてあげられる?」
楓の緑からこんな声が聞こえてきました
今は、ただ、おせんの心の苦しみが分っただけです。まだ、何も解決してはいないのです。「どうしたら」と、この緑から、しきりに、お園に問いかけています。
「私にはできっこないわ。おせんさんどうする」
心の中で、同じ問答を繰り返すのですが、何時までたってもお園には埒が開きません。
楓の葉の隙間からさっと一条の日の光がお園の体に包みます。
「お園さん」
と、呼ぶ御寮ンさんの声が届きます。急いで部屋に引き返します。
「おせんが御飯食べたいと言うの。久しぶりです。あさごはん運ぶさかい、一緒に食べておくれやす」
およしは、「何が一晩の内に、わが娘おせんにあったのか」それを、まず初めに聞きたいと思うのはやまやまですが、「朝ごはんを」と、言った娘のために、母親の鋭い母性的な感覚として、今、しなければならないことは「これだ」と、強く思うのでした。
「今、お食事、ここに運ばせるよって、お園さん、おせんと一緒に食べておくれやす」
おせんも「食べて」としきりに勧めます。
「何処へ行きはってたのどす」
と、おせん。
「日に照らされていた楓の緑が余りにもきれいだったのでしばらく見ほれていました。」
「おせんも見てみとうおす。かかさん、そこの障子開けて・・・」
およしの開けた障子からお日様と一緒に緑も燦燦と部屋の中に入ってきます。
おせんは、さも珍しいものでもあるかのように、しばらく行く筋にもなった流れ来る光と色の織り成す部屋の景色を楽しんでいました。じっと籠りきりになっていた者にしか味わえない光景でした。
「かかさん」
「おせん」
しばらくの間、二人は固く抱き合ったままでした。
そんな二人をおいて、そっと、お園は部屋を出て濡縁に腰をおろし、皐月のまばゆい朝日をいっぱいに浴びて、昨夜からの雨に濡れた透き通るように輝く楓の若葉の新緑を魅入るように眺めています。
故里のお山もきっと、今、ここの緑と同じようにきれいだろうな。一段とさやけき音を響かせながら流れくだっているだろう細谷川の水も、初々しい緑の中を流れれいるだろうと思いながら眺めていました。ふと、平蔵さんは今何しているだろうかなと言う思いも心を掠めます。
「おせんさん、これで立ち直れる?お園さん助けてあげられる?」
楓の緑からこんな声が聞こえてきました
今は、ただ、おせんの心の苦しみが分っただけです。まだ、何も解決してはいないのです。「どうしたら」と、この緑から、しきりに、お園に問いかけています。
「私にはできっこないわ。おせんさんどうする」
心の中で、同じ問答を繰り返すのですが、何時までたってもお園には埒が開きません。
楓の葉の隙間からさっと一条の日の光がお園の体に包みます。
「お園さん」
と、呼ぶ御寮ンさんの声が届きます。急いで部屋に引き返します。
「おせんが御飯食べたいと言うの。久しぶりです。あさごはん運ぶさかい、一緒に食べておくれやす」
およしは、「何が一晩の内に、わが娘おせんにあったのか」それを、まず初めに聞きたいと思うのはやまやまですが、「朝ごはんを」と、言った娘のために、母親の鋭い母性的な感覚として、今、しなければならないことは「これだ」と、強く思うのでした。
「今、お食事、ここに運ばせるよって、お園さん、おせんと一緒に食べておくれやす」
おせんも「食べて」としきりに勧めます。
「何処へ行きはってたのどす」
と、おせん。
「日に照らされていた楓の緑が余りにもきれいだったのでしばらく見ほれていました。」
「おせんも見てみとうおす。かかさん、そこの障子開けて・・・」
およしの開けた障子からお日様と一緒に緑も燦燦と部屋の中に入ってきます。
おせんは、さも珍しいものでもあるかのように、しばらく行く筋にもなった流れ来る光と色の織り成す部屋の景色を楽しんでいました。じっと籠りきりになっていた者にしか味わえない光景でした。