「是非とも」、と、強く言いきったおせんの顔は、どうしようもない胸が張り裂けんばかりの辛さを絶えてきた者にしか分らない普段顔の中に、凛とした、例え何を聞いたとしても、決してそんなものぐらいには今は負けはしないという、でんとした気迫さえ漂うっているようにお園には思われました。
「強ようなられましたな。おせんさん。どんなことがおましても、これからはきっと強く生きていけます」と、松の葉の女将とのやり取りの中から、お園は安堵の胸をなでおろします。
女将がおせんの方をきちんと真向かって話し出されます。
「今、途方もない大きな大きな渦が大坂にも押し寄せていて、ふくろう先生が、その波を諸にお被りにならはったのどす」
あの時に、おせんがここで政之輔から聞いた話です。
「どんな渦かはしりまへんけんど。大ふくろう先生は、もう10年もなるのと違いますやろか。あの大塩先生が食うに困っている人を助けようとなされて打ちこわしを起され、大坂の街が大騒ぎしかことがおましたな。あれがどうも大きなこの渦の起こりの始ではないかと言われますねん」
女将は身動き一つしないでゆっくりと自分で自分にしっかりと言い聞かせているように話します。
「それが、今、この国全体を包み込んでしまうくらいに、ものすごう大きゆなって動き出しそうになってきたのだそうどす。今度の事は、その打ち寄せる大波を防ごうとして、お江戸の将軍様たちや大坂城の人たちが、堤防の敷石の一つにふくろう先生たち数人を生贄にしてしまったのだそうどす。大先生も“何の力もない市中の有能な若者が闇雲に無残にも殺されてしもうた。これから貧しい人のために力になろうと思っていたのに。自分たちが今持っているの力を永久に保持しようとして無実の若者を、有無を言わせずに殺してしまうなんて、とんでもない腐った世の中になってしもうたもんだ”と憤慨しておられました。更に付け加えられて、その事件に関わって闇の中い葬り去られて若者はふくろう先生を入れて7,8人はいたと、言われていました。そんなにたくさんお人が殺されはったのです。その首謀者がお城の与力の中野憲次郎と言う人と銀児とか言う子分の岡っ引です。自分たちの都合がいいように無実の罪をでっち上げて犯人に仕立て、市中の人の見せしめにして、第二の大塩事件を事前に食い止めるよう画策したのではと言われていました。ようそんなことが平気でできしますなー。人を平気で有無を言わせずによう殺せますねん。恐ろしい世の中にったものでおますなー」
話し終えてゆきも、何だかは分らないのですが、自分の胸の中にあるやりきれないような怒りみたいなものに押しつぶされているような、もやもやとしたものを胸の外に押し出すことは出来たのでしょうか、ぼーと放心しているよう様でもあり、お話終えてもまだ怒りが収まらないのか、ぶるぶると両手を震わせて、その顔まで赤らんでいるようでもありました。
おせんは手を硬く握り締めたり、唇をじっとかみ締めたりしながらも、体だけは背筋をきちんと伸ばし、女将の話を一言一句逃さないように聞き入っていました。
「どうしてやろ。そんなにあっさりと生きているお人を、罪も何にもないお人を殺せますのやろか。平気で往来を歩いていけるのでしゃろか。人一人殺してもなんとも思わんのでしゃろか。8人もの人を殺しておいて」
遣りどころのない鬱憤をおせんも吐き捨てるように言うのでした。
「強ようなられましたな。おせんさん。どんなことがおましても、これからはきっと強く生きていけます」と、松の葉の女将とのやり取りの中から、お園は安堵の胸をなでおろします。
女将がおせんの方をきちんと真向かって話し出されます。
「今、途方もない大きな大きな渦が大坂にも押し寄せていて、ふくろう先生が、その波を諸にお被りにならはったのどす」
あの時に、おせんがここで政之輔から聞いた話です。
「どんな渦かはしりまへんけんど。大ふくろう先生は、もう10年もなるのと違いますやろか。あの大塩先生が食うに困っている人を助けようとなされて打ちこわしを起され、大坂の街が大騒ぎしかことがおましたな。あれがどうも大きなこの渦の起こりの始ではないかと言われますねん」
女将は身動き一つしないでゆっくりと自分で自分にしっかりと言い聞かせているように話します。
「それが、今、この国全体を包み込んでしまうくらいに、ものすごう大きゆなって動き出しそうになってきたのだそうどす。今度の事は、その打ち寄せる大波を防ごうとして、お江戸の将軍様たちや大坂城の人たちが、堤防の敷石の一つにふくろう先生たち数人を生贄にしてしまったのだそうどす。大先生も“何の力もない市中の有能な若者が闇雲に無残にも殺されてしもうた。これから貧しい人のために力になろうと思っていたのに。自分たちが今持っているの力を永久に保持しようとして無実の若者を、有無を言わせずに殺してしまうなんて、とんでもない腐った世の中になってしもうたもんだ”と憤慨しておられました。更に付け加えられて、その事件に関わって闇の中い葬り去られて若者はふくろう先生を入れて7,8人はいたと、言われていました。そんなにたくさんお人が殺されはったのです。その首謀者がお城の与力の中野憲次郎と言う人と銀児とか言う子分の岡っ引です。自分たちの都合がいいように無実の罪をでっち上げて犯人に仕立て、市中の人の見せしめにして、第二の大塩事件を事前に食い止めるよう画策したのではと言われていました。ようそんなことが平気でできしますなー。人を平気で有無を言わせずによう殺せますねん。恐ろしい世の中にったものでおますなー」
話し終えてゆきも、何だかは分らないのですが、自分の胸の中にあるやりきれないような怒りみたいなものに押しつぶされているような、もやもやとしたものを胸の外に押し出すことは出来たのでしょうか、ぼーと放心しているよう様でもあり、お話終えてもまだ怒りが収まらないのか、ぶるぶると両手を震わせて、その顔まで赤らんでいるようでもありました。
おせんは手を硬く握り締めたり、唇をじっとかみ締めたりしながらも、体だけは背筋をきちんと伸ばし、女将の話を一言一句逃さないように聞き入っていました。
「どうしてやろ。そんなにあっさりと生きているお人を、罪も何にもないお人を殺せますのやろか。平気で往来を歩いていけるのでしゃろか。人一人殺してもなんとも思わんのでしゃろか。8人もの人を殺しておいて」
遣りどころのない鬱憤をおせんも吐き捨てるように言うのでした。