梅雨も明けて、平蔵が、やけに日焼けして、伊予の国から無事に帰って来ました。故里の備中宮内の話など久しぶりに聞く平蔵の話にあの懐かしいおにぎり山が、目の前にちらりほらりと散る桜の花びらのように現れては消え又現れるのでした。そんなこともあってか、しばらくお園は、心に掛かってはいましたが、何やかにや自分の家の事に追い回され、つい、おせんのことは忘れがちになります。
立秋が過ぎたとはいえ、じっとしていても体から汗が噴出す真夏の暑さが数日続きます。盆踊りの太鼓の音でしょうか花火の上がる音と共に、暮れなずむ大坂の空の中から聞こえてきます。平蔵はまだ戻ってきません。お店の忙しさは以前から聞いています。亥の刻も過ぎ「今日もまた忙しいのしら。体大丈夫かしら」と、ぼんやりと思っていました。そこに、平蔵が大旦那様と共に戻ってまいられたのだす。
「そこで、平さんと、ちょっと一杯引っ掛けておって遅うなってしもうた」
と、大旦那様。
何時もの通り、上がり框に腰を下ろされて
「あの時、お園さんが言われたように、おせんのことで色々と人を遣っても調べてみました。難しゅうおました。ようわからんのどすが」
深いため息を一息きおつになられお話になられました。平蔵も土間にお園と立ったままで、大旦那様の話に聞き入ります。まだ。お園は平蔵にもおせんのことについては話してはいませんでした。
袋の先生にも、松の葉の女将にも逢って話しを聞きました。大坂城代の町奉行所の中野某についても調べてみました。勿論、銀児親分についても。でも、何も証拠となるものはおません。代官所の中にある密室のような所で密かに行われて誰も知らないと言う。
「おせんが、山越会で、お琴を弾く日の、まだ、日が昇る前だったと言っておますが、そんな朝早よう、桜が満開の山崎の堤辺りで、何か大きな捕り物が派手派手しくおましたと、言う事だけは調べて分りました。それが政之輔さんの死と関係があるかどうかは分りまへんが・・・・・その後、政之輔と言う若い医師が変死して、その遺体が袋医療所に引き取られていったという事実だけを残して、後は何にも分りしまへン。八方手を尽くしみたのどすがわかりまへんのどす。残念どすが。・・・・銀児とかと言った親分と、特に、深く関わっている事は間違いおまへんが、調べようがおまへん。残念でおますが。この銀児と言うのは相当な悪玉だと噂されているようどす。相当なあこぎな親分と言う意味の「あこぎん」と、初めのうちはあだ名されていましたが、今では誰も、あこぎんと言わないで「あくぎん」「あくぎん」と呼んでいるようどす」
立秋が過ぎたとはいえ、じっとしていても体から汗が噴出す真夏の暑さが数日続きます。盆踊りの太鼓の音でしょうか花火の上がる音と共に、暮れなずむ大坂の空の中から聞こえてきます。平蔵はまだ戻ってきません。お店の忙しさは以前から聞いています。亥の刻も過ぎ「今日もまた忙しいのしら。体大丈夫かしら」と、ぼんやりと思っていました。そこに、平蔵が大旦那様と共に戻ってまいられたのだす。
「そこで、平さんと、ちょっと一杯引っ掛けておって遅うなってしもうた」
と、大旦那様。
何時もの通り、上がり框に腰を下ろされて
「あの時、お園さんが言われたように、おせんのことで色々と人を遣っても調べてみました。難しゅうおました。ようわからんのどすが」
深いため息を一息きおつになられお話になられました。平蔵も土間にお園と立ったままで、大旦那様の話に聞き入ります。まだ。お園は平蔵にもおせんのことについては話してはいませんでした。
袋の先生にも、松の葉の女将にも逢って話しを聞きました。大坂城代の町奉行所の中野某についても調べてみました。勿論、銀児親分についても。でも、何も証拠となるものはおません。代官所の中にある密室のような所で密かに行われて誰も知らないと言う。
「おせんが、山越会で、お琴を弾く日の、まだ、日が昇る前だったと言っておますが、そんな朝早よう、桜が満開の山崎の堤辺りで、何か大きな捕り物が派手派手しくおましたと、言う事だけは調べて分りました。それが政之輔さんの死と関係があるかどうかは分りまへんが・・・・・その後、政之輔と言う若い医師が変死して、その遺体が袋医療所に引き取られていったという事実だけを残して、後は何にも分りしまへン。八方手を尽くしみたのどすがわかりまへんのどす。残念どすが。・・・・銀児とかと言った親分と、特に、深く関わっている事は間違いおまへんが、調べようがおまへん。残念でおますが。この銀児と言うのは相当な悪玉だと噂されているようどす。相当なあこぎな親分と言う意味の「あこぎん」と、初めのうちはあだ名されていましたが、今では誰も、あこぎんと言わないで「あくぎん」「あくぎん」と呼んでいるようどす」