愛しい風

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セピア色の思い出~K君とトランペット~

2011-08-13 22:43:08 | 思うこと

実家の自分の部屋で中学時代の卒業アルバムを見つけた。

懐かしい匂いのするズッシリとした重みに学生時代の思い出が走馬灯のように蘇える。

セピア色に揺れるあの日の1ページを私はそっと紐解いた。

クラスの集合写真の最後列で白い歯を見せて笑っているK君に私は秘かに憧れていた。

勉強はあまり真面目にやっていなかったが、トランペットが好きでいつも学校に持って来ていた。

「いつか海外に行ってトランペット奏者になるんだ!」と目を輝かせていたK君。

友達と群れるタイプではなくマイペースだったが、どこか男気があったK君。

小学校の時からクラス替えがあっても何故かいつも同じクラスになって

ずっと気になる存在だった。

そんなK君ともお互い別の高校に進学してしまったので、時々懐かしく思い出しはしたが

もう会うこともないんだろうな・・と思っていた。

そしていつしかその面影も自然に薄れてしまい、大阪で学生生活を終えた私は

地元に戻り就職した。

でもその会社も2年半で辞めて、やがて今の仕事に転職することになる。

 

人の縁とは不思議なものだ。どこから始まってどこを迂回してどこへ辿り着くのかわからない。

10年後・・もう二度と会うことはないだろうと思っていたK君と再会したのだ。

それは私が勤めていた地元の会社をやめる2日前だった。

いつもの朝の満員電車を降りて連絡通路を歩いていると不意に背後から声をかけられた。

あまりに突然のことだったので私は一瞬言葉を失った。

「〇〇さんと違う?」とK君

「あ・・久、久しぶり」なんだか声が裏返っていた気がする。

何を話していいかもわからなかった。同じクラスだったが実際あまり話しをしたこともなかったからだ。

K君はロングコートを着て右手に楽器のケースを持っていた。

それがトランペットであることはすぐにわかった。

何を話したんだろう。。ただ並んで歩いていただけだったかもしれない。

乗り継ぎの電車はお互い反対方向だった。

「じゃあ」と肩越しに振り返ってK君は人ごみに紛れて行った。

    ※         ※        ※

でも思いがけない偶然は一度で終わるとは限らない。

翌日、同じ電車を降りて連絡通路を歩いているとまたK君が声をかけてきた。

「あっ・・お、おはよう」

その日もロングコートとトランペット。

ほとんど何も話さずにまた並んで歩いた。そして別れ際にK君は微笑みながら

「じゃあ、また明日・・」と軽く手を挙げた。

その背中を見送りながら私は心の中で呟いていた。

「さよなら」・・と。

いつもの時間にこの電車に乗ることはもう二度とないことがわかっていたからだ。

今になって時々、次の日もまた次の日も同じ電車に乗って出勤する生活が続いていたなら

どんな未来になっていたのかと思うことがある。

お互いもっとたくさんの事を話せただろうか・・それともやがてまた糸は自然に切れて

しまっていただろうか・・

運命なんて呼ぶのは大袈裟だけれど、何故あの2日間が自分の人生の中に不意に現れて

瞬く間に消えていったのか今でも時々不思議に思う。

その後、私も引越しをして地元を離れやがて今のパートナーと出会った。

 

かつて「バタフライ・エフェクト」という映画があった。過去に戻る能力がある主人公の青年が

時間を巻き戻して運命を変える操作をする物語だ。

あの日のあの場所に戻れるならばK君にせめて一言「さよなら」を言いたい。

そんなことを考えながら私はセピア色のアルバムをそっと閉じた。

 

七年位前に同窓会があって私は出席出来なかったが、後に同窓会名簿が送られてきた。

K君の居場所は「海外」となっていた。彼が何処でどんな暮らしをしているのか・・・

詳しいことは誰ひとりとして知らなかった。

追い続けていた夢を彼は実現したのだろうか・・

15歳の夏。

西日の射す教室の片隅でトランペットを手にしていた姿が今も鮮やかに蘇る。

 

 

 

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