……………………………(山 留 1)……………
「地下ピットで約4㍍の掘削があるが『山留』は何を使うンだ?」
「H鋼と横矢板のつもりですが・・・」
垣田工事部長と現場検討打ち合わせ会議を行うと、理由は後から出て来るが、必ずチェックが入る箇所である。
《風来坊》では山留が悪くて掘削期間中に隣のレンコン畑の水を枯らした話をしたが、山留工事をして道路や隣家に影響が無かったことは、自慢じゃないが一度もない。
私が山留工事に対して、どうも横着なのはきっと最初の現場が尾を引いているのだろう。
初めて山留工事を経験した現場、それはレンコン畑の事件から始まる話である。
「山留」なんて言葉を知っていても、完成している山留を眺めた経験しかなくて、大掛かりな山留の工事でありながら、どうやって施工監理するのかについては全くの無知であった。
工事計画書というものは見たこともなく、書類の少ないよき時代であり、職人の親方の機嫌をそこなわないように、酒を飲みながら段取りを「見ている」のが私の仕事であった。
山留の一般的な資料や重機類のカタログが使い廻しされていて、
「これでも読ンどけや」
「へーい」
そんなに参考になるモノでもないカタログだ……、油で汚れた頁は飛ばして見ていた。
現場に入って来た材料や重機は想像を絶する大きさで、新鮮な驚きがあった。
駆け出しの私は仕事の指示が出来る訳がないが、主任から聞いた事を理解していないまま
作業を見ているだけで、どこからスタートさせるのかさえ指示が出来なかった。
確か、
「ここから始めさせろ」
と耳に残っているが、
(どこからだったっけ?図面にもスタート地点は書いてないし……、まあいいや)
と見ているだけの監督だから、大きなミスとなってやがて返って来る事になるのである。
どこからスタートしても敷地境界の内側全体を一廻りするのだから、結果は同じである筈なのだが、話はそうは終わらない。
レンコン畑のある敷地境界線側は、境界線のポイント杭は多分水底にあって、現場の敷地が盛り上がっている附近まで畑の水は広がって来ている。
敷地境界線上で水が一直線になっているとでも、私は思ったのであろう。
水の無いギリギリの所を勝手に山留の位置にしてしまった。
「水があったらシートパイル(山留板)が打てねえよ!」
「それもそうだよねエ…」
で簡単に山留施工図から変更してしまった。
慌てたのは主任である。
ほぼ敷地境界線上に山留を打設しても、余分なスペースが取れないところに、なんと1㍍も内部側にシートパイルを打ち込み、地下室の壁も柱も分断してしまう位置に打ち込んだのだ。
当然、やり直しである。
レンコン畑の水面に向かって突き出るように、さらに境界線のすぐ内側に、制度よく打ち込まねばならない事を厳しく命ぜられた。
「あんた(私)が、そこでいいと言うたから!」
と眉を吊り上げ大声で、親方は所長と言い争っているが、
(直さなければならないのは、仕方ないよ)
では済まされそうもない雰囲気に、私の居る場所はなかった。
親方はもうやる気がない状態で…
《山留2へ 続く》
「地下ピットで約4㍍の掘削があるが『山留』は何を使うンだ?」
「H鋼と横矢板のつもりですが・・・」
垣田工事部長と現場検討打ち合わせ会議を行うと、理由は後から出て来るが、必ずチェックが入る箇所である。
《風来坊》では山留が悪くて掘削期間中に隣のレンコン畑の水を枯らした話をしたが、山留工事をして道路や隣家に影響が無かったことは、自慢じゃないが一度もない。
私が山留工事に対して、どうも横着なのはきっと最初の現場が尾を引いているのだろう。
初めて山留工事を経験した現場、それはレンコン畑の事件から始まる話である。
「山留」なんて言葉を知っていても、完成している山留を眺めた経験しかなくて、大掛かりな山留の工事でありながら、どうやって施工監理するのかについては全くの無知であった。
工事計画書というものは見たこともなく、書類の少ないよき時代であり、職人の親方の機嫌をそこなわないように、酒を飲みながら段取りを「見ている」のが私の仕事であった。
山留の一般的な資料や重機類のカタログが使い廻しされていて、
「これでも読ンどけや」
「へーい」
そんなに参考になるモノでもないカタログだ……、油で汚れた頁は飛ばして見ていた。
現場に入って来た材料や重機は想像を絶する大きさで、新鮮な驚きがあった。
駆け出しの私は仕事の指示が出来る訳がないが、主任から聞いた事を理解していないまま
作業を見ているだけで、どこからスタートさせるのかさえ指示が出来なかった。
確か、
「ここから始めさせろ」
と耳に残っているが、
(どこからだったっけ?図面にもスタート地点は書いてないし……、まあいいや)
と見ているだけの監督だから、大きなミスとなってやがて返って来る事になるのである。
どこからスタートしても敷地境界の内側全体を一廻りするのだから、結果は同じである筈なのだが、話はそうは終わらない。
レンコン畑のある敷地境界線側は、境界線のポイント杭は多分水底にあって、現場の敷地が盛り上がっている附近まで畑の水は広がって来ている。
敷地境界線上で水が一直線になっているとでも、私は思ったのであろう。
水の無いギリギリの所を勝手に山留の位置にしてしまった。
「水があったらシートパイル(山留板)が打てねえよ!」
「それもそうだよねエ…」
で簡単に山留施工図から変更してしまった。
慌てたのは主任である。
ほぼ敷地境界線上に山留を打設しても、余分なスペースが取れないところに、なんと1㍍も内部側にシートパイルを打ち込み、地下室の壁も柱も分断してしまう位置に打ち込んだのだ。
当然、やり直しである。
レンコン畑の水面に向かって突き出るように、さらに境界線のすぐ内側に、制度よく打ち込まねばならない事を厳しく命ぜられた。
「あんた(私)が、そこでいいと言うたから!」
と眉を吊り上げ大声で、親方は所長と言い争っているが、
(直さなければならないのは、仕方ないよ)
では済まされそうもない雰囲気に、私の居る場所はなかった。
親方はもうやる気がない状態で…
《山留2へ 続く》