建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

赤字の予算書(2) 

2017-02-02 14:36:40 | 建設現場

さて、私の現場に話を戻しましょう。

予算書が工務部門から届いたので、さっと中身を見た。
「なんてこった…」
血も涙も無く協力業者の首を絞めて、厳しい予算から更に儲けを出せば、
出世の道も簡単であるが私には出来っこない。

当然、現場マンの配属も大幅削減であり、忙しい数ヶ月は応援者があるとい
うものの、増員者がその時期に丁度当てはまるとのアテは全く出来ないも
のだ。

それよりも、
「若手は今、誰も空いていないし……」
とこちらが忙しい時期になったら、絶対言うに決まっている。

こうなれば私はスーパーマンになるしかないのだ。

配属人員の削減が決まっている以上、総ては私がする。
予算書の細部見直し、経費及び無駄の削除、飲み会は赤ノレン、施工図は
自分で作図、土日も出勤・・・。

人に頼らず、総てを一人でやるしかない。
「そんなに全部は出来ない」
とやる前から言う人もいるが、出来ないのではなくて
「やらないのだ」
と私は言い返し、私はスーパーマンに変身するのだ。 

そして、予算が厳しい内容を十分認識した上で、協力業者を一同に集める
「これが、今度の予算書だ、アンタ達に金額は見せられないものだけど、
オープンだ!」
と上司が聞いたら心臓が飛び出るかもしれないが、契約予定金額が赤色で書
いてあるがままを曝(さら)け出した時が、私の契約交渉のスタートである。

「今までの俺のやり方でこの現場もやる。俺のやり方では赤字を解消出来な
い金額かも知れないが、前の現場のメンバー(職長)が揃えば、ロスなく
やっていけるから、どうだ!」
と見積り金額よりも、もう契約金額を前提とした話である。
つまり、前の現場で竣工時の雰囲気から、メンバーから抜ける職長はいない
との自負である。

予算オーバーの契約話では、購買部としても後廻し仕事にしたいものだ。

しかし、協力業者の社長さんが丸秘の契約上限額のすれすれで見積り書を持
って、支店購買部と契約交渉をするのだから、締結するのに時間はかから
ない。

即決出来れば、当月の出来高の請求は入金可能にもなるし、赤字の現場予想
があれば誰も行きたがらないものだが、社長と職長はもう話が付いていて、
不安はあるものの、
「所長、今契約を決めてもらいました。T君を職長で行かせるよ。よろしく」
と赤字でありながら心配はしていないような声で、下請契約締結を知らせて
くれた。

厳しい仕事をして行かねばならない現場に向かう時こそ、所長にどれだけの
業種が無理を聞いてくれるのか、所長にどれだけ人が付いて来るのかで、
工事の進み方も違って来るし、儲け具合いにも開きが現れる。

それは所長と協力業者及び職長とのつながりによるだろうが、つながりの基をつきつめれば
《所長の徳》である。

現場所長の徳とは、
「施主への建築物に対して技術と信用を第一にして、職人と使う材料に迄も
愛情があって初めて徳の芽が出るし、儲けも出る……」
と私はいつも思っている。

         《赤字の予算書  完》

 

 

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