建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

施工図屋

2017-02-20 10:53:48 | 建設現場

…………………………(施工図屋 1)…………

「施工図屋の〇〇です。図面を書かせて頂けないでしょうか?」
現場が始まるとすぐに営業マンがやって来る。

建築現場で建物を創るには設計図よりも施工図が重要な事は《建設現場の
子守唄》
《――風来坊》でも話をしているので、施工図の意義・必要性に
ついては
もう一度見てください。

現場に飛び込んで来た施工図屋の営業マンに対して、
「施工図は仕事を覚える為に、現場員に書かせるもンだから、あんた達の出番
はないよ」
と私も所長時代は答えていた。

実際に若手に図面を引かせれば(書かせれば)現場はスムーズに事が運ぶの
であるが、一枚の図面にかかる時間を労務費換算すれば外注作図が安いのだ。

若手現場マンが図面を書くとしたら、一日じゅう現場を駆けずり廻ってから
現場事務所の自分の机に戻り、今日の作業日報をまとめ、明日の職人の予定・
段取りを確認してやっと図面に向う事となって時計の針が19時を廻っていれば
早い方である。

今日の作業予定範囲が順調に終了せず、明日の予定を変更する場合では、
協力業者間の調整に更に時間がかかり施工図作図に取り掛かれないものだ。

 昔は現場に図面担当が配属されていても、若手は部分的にでも図面を引か
されていたし、自分のわからないところを先輩から教えてもらうには図面を
書くしかなかったものだ。

 最近は若手不足もあるが施工図担当がいないまま、現場四監理業務(工程・
品質・原価・安全)は所長の補佐として動き廻り、更にISOの書類まで
若手
に求めている。
 これでは施工図を作図する時間は無くて、当然作業手順や施工検討は確認の
しようがない。

 それでも、
「施工図は若手に書かせろ」
と言うし《勉強の為に》とか理由をつけて、施工図外注の予算をバッサリ
切捨てて、若手に総てを押しかぶせる上司が依然と多い。

 現場が始まったばかりとか順調に進捗していても若手に19時から残業で
図面を書くのが当たり前と考えているゼネコンでは、若手が育つ筈がない。

「施工図は現場監理しながら『昼間に作図せよ!』

これは私が若手を鍛えるフレーズである。

施工図はじっくり腰を据えて《夜に書くのが当たり前》の教育を受けて、
私の現場に配属された若手に、一番初めにショックを与えるのである。

「現場を一廻りする時でも、図面の一部分を頭に描いて、その場所に立って
ごらん……」
そうすれば立体的に考えられるし、図面の表し方も気がつくものである。

夜、パソコン画面に向かってから立体的に考えるのをやめて、昼間に施工図
を書くのだ。

つまり、昼間は眼で現場を監理しながら、頭では施工図を描ければ図面は
即座に完成する。

それに残業手当は上限が決められていて、タダ働きをしていると少しでも心に
影を落とせば、夜、施工図を書く気分に私自身がなれなかったから…でもある。

それにしても現場は朝の8時前から朝礼準備の仕事が始まり、その時間は
早出の残業時間として計上されてもよさそうなものだが、昔からの慣習で
なんとなく見過してもいる。

「早朝から晩の遅くまで働き詰めのところに、サービス残業で図面なんか
書ける訳ない」
と自己主張出来る人はサッサとこの業界から去って行く。

 昔の昔は―――、

現場近くに寝泊りと飯の食えるところがあり、事務所と言わずに『飯場』と
言っていた。
私も駆け出しの頃は《飯場暮らし》であったから、夜はナイターを聞きながら
寝る寸前まで図面を書かされていた。

しかし、事務所の片隅では上司と親方達は一升瓶を横に置いて麻雀をしていて、
製図中の私は背中に視線を感じていた。

(ナイター放送は終わったし……麻雀が終わるまで……質問は出来ないし……)

鉛筆の線一本にも神経を使って、なるべく消しゴムを使わないように、図面は
汚さないようにと書いているのに、麻雀の途中でチラッと図面を見に来て、

これじゃ駄目だ!こうなるンだよ…」

と手短に教えてくれるけれども、一気に赤鉛筆で修正スケッチを書き込まれる。

「ウワッ!」
と何度も言うが、
「別用紙に書いて下さい」
とも頼めずに、その一枚は最初から書き直しである。

イジメではなくて、間違った部分を消して書き直せば汚い図面になるから、
(新しい用紙に最初から書き直した方がよい)
と理解するには数年を要したものだった。

一度考えながら書いたものであるから赤鉛筆で記入される直前迄に戻す時間
は、さほどかからないし、教えてもらった内容は頭にしっかり入り相当な
自信が
得られたものだった。

そのようななごりが残っていれば、今でも若手に施工図を書かせて、仕事を
覚える手段に出来るのだが、先に述べたように現在の建設現場の状況では
望む
べくもなかろう。

さて・・・。
施工図は若手に書かせる、外注は極力避けるという状況を十分に知っている
私が《施工図屋》として看板を掲げていて7年は過ぎているが、ゼネコンを
巡って色々と思う事がある。

施工業者であり、現場監督であるはずの人でも、施工図の認識力が著しく低い。
ハッキリ言えば、ゼネコンのマークのヘルメットを被って場内を散歩してい
るだけである。

私の駆け出し時代の技術力程度で、職人さんを指図しているようである。 
設計図を見て、どのような手順で創るのか施工図を書く事も出来ないと思える
若手現場マンが多くて、自分なりに施工図を書いてみようと思っていない。

否、施工図を《書かない》のでなくて、施工図が《書けない》現場マンが増え
たのである。

建築バブル時代には、施工図を外注に書かせて、忙しさを短縮したつもりで
あった人達が、製図台の前に座らないまま、施工図は眺めればいいのだ……
との
まま監督になったのである。
それに時代は手書きから一気にCAD図になったのであるから、パソコンが
苦手な人はますます施工図を書く機会が失われたのである。

「施工図屋ですが・・・」 
私のこの一言で、お邪魔虫扱いの返事が戻って来ると 

 《施工図屋2》 へ続く

 

コメント (1)
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