アコギおやじのあこぎな日々

初老の域に達したアコギおやじ。
日々のアコースティックな雑観

「ブンヤ」の先輩

2009-05-22 | Weblog

 「なんだ、帰ってきてたのか?」


 相変わらず、ぶっきら棒。口調も、態度も。






 ただ、ニヤリと笑ってくれた。


 少しだけ安心した。


 歓迎するぜ、という意味合いだ。まだ「ブンヤ」の一員として迎えてくれているらしい。







 「世のため、人のため」。


 この会社に入った動機は、それに尽きる。




 先輩も、おれも。

 みんなもそうだった。



 自分の生活のためになんて、はしたない精神はなかった。



 会社のために。そんな下卑た精神は、いまも持ち合わせてはいない。




 「社会のために」



 男に生まれた時点で、人のために生きてなんぼ、という宿命を背負っていると思っていた。それは、いまでも変わらない。



 そのために、力を振り絞ってきたつもりでいる。



 先輩は、そのために働いてきた。

 気がついたら、命も体も削っていたようだ。




 おれは?

 いまの部署は決して「社会のため」の仕事はしていない。「会社のため」。




 20年ほど前、いつも高く掲げていた拳は、今は下げっぱなし。

 義をみてせざる、ということができない性質なのに、せざるを通している。


 理由はいつも、「子どもと妻をもった今は、昔とは違う」。



 20年で言い訳だけがうまくなった。





 先輩は、働きっぱなしで、気がついたら癌。


 最前線では指揮を執れないから、この4月から「論説委員」という閑職に就いた。



 ほかの「論説委員」を見ても、いかにも閑職ぞろいだ。

 しかし、彼は闘っている。







 「Mさんとこ、行ったのか?」



 「いえ」


 「行け。喜ぶから」


 「はい」




 20年前には、怖くて話もできなかった先輩。


 できるだけ、たくさん話をしたい。


 先輩は、もうすぐいなくなる。






 「Mさんへの礼は欠かすな。男だからな」




 「男だからな」


 理由は、それで充分である。
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