港が眼下に広がる丘。
緩やかな斜面に、集合墓地がある。
海から吹き上げてくる風が、坂道を自転車で下ってくる少女たちの髪をとかす。
その斜面の一角、見晴らしのよい高台に、彼女の墓は佇んでいる。
出張で久しぶりに訪ねた。
昔は休みのたびに訪ねていたのだが。
墓誌に記されているのは、今も彼女だけだった。
平成2年6月某日、26歳。
当初の診断は胃潰瘍。しかし、しばらくすると東京のがん研に転院を勧められた。
転院勧告によって明白になった病名。しかし、彼女は、恋人の転職時期に重なったために転院を拒否した。
2ヵ月後、恋人の転職後に転院したときは、すでに進行しきっていた。
結婚の約束をしていた。
「ジューンブライドだ」と励ましたら、「早く新しい彼女を見つけて」と言われた。
断固、拒否した。
「君以外の女性とは結婚はしない」
「早く新しい彼女を見つけて」
「君以外の女性とは結婚しない」
「私はいなくなる。私がいなくなってからの人生を大切にして」
病床で、かみ合うことのない思いを応酬した。
恋人の転職がなければ、早期の治療に踏み切っていただろう。助かったかもしれない。
ともかく、亡くなった。
20年が過ぎた。
墓には、新鮮な花が供えてあった。多分、お母さんだ。
大まかな現況報告をして、いつになるか分からない再来を告げた。
また、来る。
必ず。
緩やかな斜面に、集合墓地がある。
海から吹き上げてくる風が、坂道を自転車で下ってくる少女たちの髪をとかす。
その斜面の一角、見晴らしのよい高台に、彼女の墓は佇んでいる。
出張で久しぶりに訪ねた。
昔は休みのたびに訪ねていたのだが。
墓誌に記されているのは、今も彼女だけだった。
平成2年6月某日、26歳。
当初の診断は胃潰瘍。しかし、しばらくすると東京のがん研に転院を勧められた。
転院勧告によって明白になった病名。しかし、彼女は、恋人の転職時期に重なったために転院を拒否した。
2ヵ月後、恋人の転職後に転院したときは、すでに進行しきっていた。
結婚の約束をしていた。
「ジューンブライドだ」と励ましたら、「早く新しい彼女を見つけて」と言われた。
断固、拒否した。
「君以外の女性とは結婚はしない」
「早く新しい彼女を見つけて」
「君以外の女性とは結婚しない」
「私はいなくなる。私がいなくなってからの人生を大切にして」
病床で、かみ合うことのない思いを応酬した。
恋人の転職がなければ、早期の治療に踏み切っていただろう。助かったかもしれない。
ともかく、亡くなった。
20年が過ぎた。
墓には、新鮮な花が供えてあった。多分、お母さんだ。
大まかな現況報告をして、いつになるか分からない再来を告げた。
また、来る。
必ず。
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