アコギおやじのあこぎな日々

初老の域に達したアコギおやじ。
日々のアコースティックな雑観

港が見える丘

2009-10-01 | Weblog
 港が眼下に広がる丘。

 緩やかな斜面に、集合墓地がある。


 海から吹き上げてくる風が、坂道を自転車で下ってくる少女たちの髪をとかす。



 その斜面の一角、見晴らしのよい高台に、彼女の墓は佇んでいる。



 出張で久しぶりに訪ねた。


 昔は休みのたびに訪ねていたのだが。



 墓誌に記されているのは、今も彼女だけだった。




 平成2年6月某日、26歳。




 当初の診断は胃潰瘍。しかし、しばらくすると東京のがん研に転院を勧められた。


 転院勧告によって明白になった病名。しかし、彼女は、恋人の転職時期に重なったために転院を拒否した。


 2ヵ月後、恋人の転職後に転院したときは、すでに進行しきっていた。



 結婚の約束をしていた。


 「ジューンブライドだ」と励ましたら、「早く新しい彼女を見つけて」と言われた。


 断固、拒否した。




 「君以外の女性とは結婚はしない」

 「早く新しい彼女を見つけて」

 「君以外の女性とは結婚しない」

 「私はいなくなる。私がいなくなってからの人生を大切にして」




 病床で、かみ合うことのない思いを応酬した。




 恋人の転職がなければ、早期の治療に踏み切っていただろう。助かったかもしれない。




 ともかく、亡くなった。





 20年が過ぎた。



 墓には、新鮮な花が供えてあった。多分、お母さんだ。



 大まかな現況報告をして、いつになるか分からない再来を告げた。


 また、来る。

 必ず。

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