独り暮しの中年男性が死んだ。
現場は、大規模な分譲マンション。
中の状況をほとんど知らされないまま、私は現場に出向いた。
私が到着すると、管理組合の人達(近隣住民)が何人も集まってきた。
見積を依頼してきたのは、マンションの管理人。
管理会社も管理組合(住民)も、その部屋をどうすればよいのか、ホトホト困り果てているようだった。
そのまま放置しておく訳にもいかず、かと言って何をどうすればいいのか見当もつかない。
そんなところで探し当てたのが「特殊清掃戦う男たち」、とりあえず私の出番となった訳だった。
故人は、生前から近所付き合いもなく、住民からも嫌われていた。
ゴミの出し方や騒音など、回りとの協調性に欠け住民とのトラブルも少なくなかったらしい。
故人のことを良く言う人は誰もいなかった。
「生きていても嫌われ、死んでからも嫌われる訳か・・・」
「せめて、発見が早けりゃなぁ・・・」
住民には住民の言い分はあるのだろうが、私は、故人を気の毒に思った。
話ばかり聞いていても仕方がないので、とりあえず現場の部屋に行ってみることに。
何人かの人が玄関前について来た。
玄関前に立っただけでいつもの腐乱臭がプ~ン。
「こりゃ、結構きてんな」
後退りする住民を置いて、私は玄関を開けて一人で中に入った。
熟成された濃い腐乱臭が充満する部屋を進むと、リビングに腐乱痕を見つけた。
それは、リビングのソファーを中心に広がっていた。
「ここかぁ・・・こりゃ死後かなり経ったな」
頭の形に丸く凹んだクッションが、故人の姿を想像させた。
中を見終えて玄関を出ると、住民達が待ち構えていた。
そして、「早く何とかしてくれ!」と言わんばかりの質問攻めにあった。
私は、中の状況を素人でも理解しやすいように説明した。
私の話を聞くと、皆がシカメッ面になり、鼻・口を手でふさいだ。
気持ち悪くなったのか恐くなったのか、話の途中で輪から抜ける人もいた。
住民達は、すぐにでも特掃業務を依頼したいようだった。
私だって、仕事はもらえた方がいいに決まっている。
恋愛関係に例えると、まさに一目惚れ・相思相愛状態。
しかし、私にとっては重大な問題があった。
「ところで、費用はどなたが負担されますか?」
皆が「えっ?」っていう顔をして、お互いの顔を見合わせた。
そして黙り込んだ。
肝心の費用を負担しようとする人が誰もいなかったのである。
住民や管理人の間に、気まずい雰囲気が流れた。
代金をもらえないのなら仕事にならない。
気持ちはあっても、さすがに無料ではできない。
独り暮らしの故人には、身寄りがいないらしかった。
「身寄りがいない」と言うことは、「遺族」と呼べる人が誰もいないと言うこと。
つまり、相続人がいないと言うことだった。
特掃の代金うんぬんどころではなく、実は、これがかなりやっかいな問題だった。
部屋の中がどんなに熟成されていても、中にあるものは故人の所有物。
相続人の許可もないうちから、勝手に片付ける訳にはいかない。
決定権者・責任権者がいないのだから、手の出しようがない。
「よかれ」と思ってやったことが後々に問題になる可能性だってある訳で、私は費用の問題以外にもこの現場に踏み込めない理由があることを説明した。
私が参上した時は期待して喜んでくれた人々だったが、私が「できない理由」を述べた途端にガックリ暗くなった。
「どうしても無理ですか?」
「だったら、この臭いだけでも何とかなりませんか?」
「そのくらいの費用でしたら、管理組合で負担しますので」
住民達は、藁をも掴む様子で頼ってきた。
こういう時に役に立ってこその私。
私としても、住民達の要望には応えたかった。
「しかしなぁ・・・」
私は、迷った。
つづく
公開コメントはこちら
特殊清掃プロセンター
http://www.omoidekuyo.com/
現場は、大規模な分譲マンション。
中の状況をほとんど知らされないまま、私は現場に出向いた。
私が到着すると、管理組合の人達(近隣住民)が何人も集まってきた。
見積を依頼してきたのは、マンションの管理人。
管理会社も管理組合(住民)も、その部屋をどうすればよいのか、ホトホト困り果てているようだった。
そのまま放置しておく訳にもいかず、かと言って何をどうすればいいのか見当もつかない。
そんなところで探し当てたのが「特殊清掃戦う男たち」、とりあえず私の出番となった訳だった。
故人は、生前から近所付き合いもなく、住民からも嫌われていた。
ゴミの出し方や騒音など、回りとの協調性に欠け住民とのトラブルも少なくなかったらしい。
故人のことを良く言う人は誰もいなかった。
「生きていても嫌われ、死んでからも嫌われる訳か・・・」
「せめて、発見が早けりゃなぁ・・・」
住民には住民の言い分はあるのだろうが、私は、故人を気の毒に思った。
話ばかり聞いていても仕方がないので、とりあえず現場の部屋に行ってみることに。
何人かの人が玄関前について来た。
玄関前に立っただけでいつもの腐乱臭がプ~ン。
「こりゃ、結構きてんな」
後退りする住民を置いて、私は玄関を開けて一人で中に入った。
熟成された濃い腐乱臭が充満する部屋を進むと、リビングに腐乱痕を見つけた。
それは、リビングのソファーを中心に広がっていた。
「ここかぁ・・・こりゃ死後かなり経ったな」
頭の形に丸く凹んだクッションが、故人の姿を想像させた。
中を見終えて玄関を出ると、住民達が待ち構えていた。
そして、「早く何とかしてくれ!」と言わんばかりの質問攻めにあった。
私は、中の状況を素人でも理解しやすいように説明した。
私の話を聞くと、皆がシカメッ面になり、鼻・口を手でふさいだ。
気持ち悪くなったのか恐くなったのか、話の途中で輪から抜ける人もいた。
住民達は、すぐにでも特掃業務を依頼したいようだった。
私だって、仕事はもらえた方がいいに決まっている。
恋愛関係に例えると、まさに一目惚れ・相思相愛状態。
しかし、私にとっては重大な問題があった。
「ところで、費用はどなたが負担されますか?」
皆が「えっ?」っていう顔をして、お互いの顔を見合わせた。
そして黙り込んだ。
肝心の費用を負担しようとする人が誰もいなかったのである。
住民や管理人の間に、気まずい雰囲気が流れた。
代金をもらえないのなら仕事にならない。
気持ちはあっても、さすがに無料ではできない。
独り暮らしの故人には、身寄りがいないらしかった。
「身寄りがいない」と言うことは、「遺族」と呼べる人が誰もいないと言うこと。
つまり、相続人がいないと言うことだった。
特掃の代金うんぬんどころではなく、実は、これがかなりやっかいな問題だった。
部屋の中がどんなに熟成されていても、中にあるものは故人の所有物。
相続人の許可もないうちから、勝手に片付ける訳にはいかない。
決定権者・責任権者がいないのだから、手の出しようがない。
「よかれ」と思ってやったことが後々に問題になる可能性だってある訳で、私は費用の問題以外にもこの現場に踏み込めない理由があることを説明した。
私が参上した時は期待して喜んでくれた人々だったが、私が「できない理由」を述べた途端にガックリ暗くなった。
「どうしても無理ですか?」
「だったら、この臭いだけでも何とかなりませんか?」
「そのくらいの費用でしたら、管理組合で負担しますので」
住民達は、藁をも掴む様子で頼ってきた。
こういう時に役に立ってこその私。
私としても、住民達の要望には応えたかった。
「しかしなぁ・・・」
私は、迷った。
つづく
公開コメントはこちら
特殊清掃プロセンター
http://www.omoidekuyo.com/