仕事のせいかもともとの性分か、私は人の顔色を見ることが多い。
いい言い方をすると、
「人に気配りができる」
悪い言い方をすると、
「人の考えを気にし過ぎる」
ということか。
人付き合いが苦手な私は、生きた人の顔色を見ることより死んだ人の顔色を見ることの方が多いかもしれない。
〝死人の顔色〟というと顔面蒼白をイメージする人が多そうだね。
ひと昔前のTVドラマや映画の死人メイクが現実離れしていたせいだろう。
蒼白く塗られた死人メイクは、わざとらしいかぎり。
実際は、極端に顔色の悪い人は少ない。
平均的にみると、寝ているだけのような遺体が大半。
ただ、よ~く見ると血色の悪さは否めない。
また、さすがに、頬が紅くなっているような人もほとんどいない。
だから、遺体には適度な温かさを感じるくらいの化粧を施す。
特に、故人が女性の場合は、きちんと化粧をしてあげると喜んでくれる(遺族がね)。
また、ある程度の変色は、特殊メイクで直せる。
ある程度の損傷も同様。
この辺の復元技術は大事なノウハウなので、詳細を記すのは控えておこう。
遺品撤去処分の依頼が入った。
「独り暮らしだった親が亡くなったので、家財・生活用品を片付けたい」
との依頼だった。
現場はマンションの一室、依頼者(遺族)の方が先に来ていた。
「この度は御愁傷様です」
私は、そう言いながら、玄関で靴を脱いでから中に入った。
(人の家にあがるとき、靴を脱ぐのは当り前ではない私)
一般的な間取りの一般的な暮らしぶり。
ただ、かすかに妙なニオイを感じた。
「このニオイは・・・」
私が感じたニオイは、軽度の人間腐乱臭。
しかも、汚腐呂のニオイ。
ただ、ニオイの薄さから腐敗は軽度だと思われた。
依頼者の話は、故人の死場所については何も触れず、遺品整理についてのみ。
「親が孤独死したことを隠しておきたいのか?」
「それとも、俺が気持ち悪がると思ってるのか?」
私は、見積検分するフリをしながら、浴室に近づいた。
「そ、そこは・・・き、汚いですよ・・・」
依頼者の顔色が変わった。
どちらにしろ、浴室の中にあるモノも片付けなければらないので、私は浴室を見るために扉を開けた。
「んー・・・」
浴室は特段に変わったところはなく、普通の生活汚れがある程度。
ただ、浴槽に蓋がしてあることが不自然に映った。
そして、私は浴槽の中が気になった。
「このニオイは、例のものに間違いなさそうだな」
「でも、隠し通せると踏んでいるところをみると、素人目には分かりにくい程度なんだろう」
そう思いながら、
「気づかないフリをするのも心配りの一つだな」
と思って、何事もなかったかのように浴室を離れた。
依頼者はソワソワしながら、浴室で起こった出来事を私に言おうか言うまいか迷っているようでもあった。
その緊張感が私にも伝わってきて、何だか気の毒に思えてきた。
作業の日。
鍵を預けられた私は、まず先に浴室に向かった。
そして、少し緊張しながら浴槽の蓋をとってみた。
「なるほど・・・」
一見、普通の浴槽だったが、よく見ると粒々とした汚れが内側に付着していた。
調度、味噌汁を飲んだ後のお椀のような感じに。
「このくらいじゃ、素人だと何の汚れか分からないだろうな」
故人は、湯に浸かったまま亡くなりしばらくそのままに。
そして、幸いなことに、湯が酷く濁る前に発見されたことが想像できた。
浴槽の清掃は頼まれてはいなかったけど、そのまま放置してても仕方がないし、私にとっては簡単にできることだったので、先に浴槽をきれいにして部屋の片付け作業にとりかかった。
また、その方が、精神的にその後の仕事がやりやすかった。
全体の作業が完了して依頼者に電話。
しばらくして依頼者は現場にやってきた。
気のせいか、どこかオドオドした物腰で、浮かない顔をしていた。
「約束通りの仕事ができてるかどうかチェックして下さい」
私は預かっていた鍵を渡しながら、依頼者を室内へ促した。
「風呂を確認してるみたいだな」
玄関で耳を澄ませる私に、依頼者が浴室に入る音、そして浴槽の蓋を開ける音が聞こえてきた。
少しして、依頼者が玄関にでてきて、
「大丈夫、きれいに片付いています」
「ありがとうございました」
と言いながら、私に深々と頭を下げてくれた。
「もう、二度と会うことがないといいですね」
「まだ片付けないといけないことがあるでしょうから、お身体をご自愛下さい」
そう言って、きれいにした汚腐呂と同じ清々しい気分で現場を後にした。
ただの自己満足かもしれないだけど、その時の私は温かみのある顔色をしていたに違いない。
公開コメントはこちら
特殊清掃プロセンター
遺品処理・回収・処理・整理、遺体処置等通常の清掃業者では対応出来ない
特殊な清掃業務をメインに活動しております。
いい言い方をすると、
「人に気配りができる」
悪い言い方をすると、
「人の考えを気にし過ぎる」
ということか。
人付き合いが苦手な私は、生きた人の顔色を見ることより死んだ人の顔色を見ることの方が多いかもしれない。
〝死人の顔色〟というと顔面蒼白をイメージする人が多そうだね。
ひと昔前のTVドラマや映画の死人メイクが現実離れしていたせいだろう。
蒼白く塗られた死人メイクは、わざとらしいかぎり。
実際は、極端に顔色の悪い人は少ない。
平均的にみると、寝ているだけのような遺体が大半。
ただ、よ~く見ると血色の悪さは否めない。
また、さすがに、頬が紅くなっているような人もほとんどいない。
だから、遺体には適度な温かさを感じるくらいの化粧を施す。
特に、故人が女性の場合は、きちんと化粧をしてあげると喜んでくれる(遺族がね)。
また、ある程度の変色は、特殊メイクで直せる。
ある程度の損傷も同様。
この辺の復元技術は大事なノウハウなので、詳細を記すのは控えておこう。
遺品撤去処分の依頼が入った。
「独り暮らしだった親が亡くなったので、家財・生活用品を片付けたい」
との依頼だった。
現場はマンションの一室、依頼者(遺族)の方が先に来ていた。
「この度は御愁傷様です」
私は、そう言いながら、玄関で靴を脱いでから中に入った。
(人の家にあがるとき、靴を脱ぐのは当り前ではない私)
一般的な間取りの一般的な暮らしぶり。
ただ、かすかに妙なニオイを感じた。
「このニオイは・・・」
私が感じたニオイは、軽度の人間腐乱臭。
しかも、汚腐呂のニオイ。
ただ、ニオイの薄さから腐敗は軽度だと思われた。
依頼者の話は、故人の死場所については何も触れず、遺品整理についてのみ。
「親が孤独死したことを隠しておきたいのか?」
「それとも、俺が気持ち悪がると思ってるのか?」
私は、見積検分するフリをしながら、浴室に近づいた。
「そ、そこは・・・き、汚いですよ・・・」
依頼者の顔色が変わった。
どちらにしろ、浴室の中にあるモノも片付けなければらないので、私は浴室を見るために扉を開けた。
「んー・・・」
浴室は特段に変わったところはなく、普通の生活汚れがある程度。
ただ、浴槽に蓋がしてあることが不自然に映った。
そして、私は浴槽の中が気になった。
「このニオイは、例のものに間違いなさそうだな」
「でも、隠し通せると踏んでいるところをみると、素人目には分かりにくい程度なんだろう」
そう思いながら、
「気づかないフリをするのも心配りの一つだな」
と思って、何事もなかったかのように浴室を離れた。
依頼者はソワソワしながら、浴室で起こった出来事を私に言おうか言うまいか迷っているようでもあった。
その緊張感が私にも伝わってきて、何だか気の毒に思えてきた。
作業の日。
鍵を預けられた私は、まず先に浴室に向かった。
そして、少し緊張しながら浴槽の蓋をとってみた。
「なるほど・・・」
一見、普通の浴槽だったが、よく見ると粒々とした汚れが内側に付着していた。
調度、味噌汁を飲んだ後のお椀のような感じに。
「このくらいじゃ、素人だと何の汚れか分からないだろうな」
故人は、湯に浸かったまま亡くなりしばらくそのままに。
そして、幸いなことに、湯が酷く濁る前に発見されたことが想像できた。
浴槽の清掃は頼まれてはいなかったけど、そのまま放置してても仕方がないし、私にとっては簡単にできることだったので、先に浴槽をきれいにして部屋の片付け作業にとりかかった。
また、その方が、精神的にその後の仕事がやりやすかった。
全体の作業が完了して依頼者に電話。
しばらくして依頼者は現場にやってきた。
気のせいか、どこかオドオドした物腰で、浮かない顔をしていた。
「約束通りの仕事ができてるかどうかチェックして下さい」
私は預かっていた鍵を渡しながら、依頼者を室内へ促した。
「風呂を確認してるみたいだな」
玄関で耳を澄ませる私に、依頼者が浴室に入る音、そして浴槽の蓋を開ける音が聞こえてきた。
少しして、依頼者が玄関にでてきて、
「大丈夫、きれいに片付いています」
「ありがとうございました」
と言いながら、私に深々と頭を下げてくれた。
「もう、二度と会うことがないといいですね」
「まだ片付けないといけないことがあるでしょうから、お身体をご自愛下さい」
そう言って、きれいにした汚腐呂と同じ清々しい気分で現場を後にした。
ただの自己満足かもしれないだけど、その時の私は温かみのある顔色をしていたに違いない。
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