特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

暑熱寒冷

2014-01-16 10:13:27 | 特殊清掃
季節は真冬。
自然な話だが、極寒の日々が続いている。
早朝の最低気温は零下になることもざらで、昼間の最高気温が10℃に届かない日も珍しくなく、昨日なんて5℃にも届かなかった。
夜の睡眠は、安物の毛布と布団と自分の体温だけが頼り。
エアコンや電気毛布といった暖房器具は使わない。
私は寒さに弱いほうではないと思っているけど、夜中、寒すぎて目が醒めてしまうこともある。

春夏秋冬、季節に移ろいがあるのはすばらしい。
四季折々の景色、風情、情緒、食べ物、色々な恵みが味わえるから。
反面、それは過酷な環境をつくりだすものでもある。
真冬と真夏では、その気温に40℃もひらきがあるわけで、これに耐え、順応していくのはなかなか楽じゃない。
そんな環境では、道路・建物・車等々、かなりの耐久性が求められる。
急速に劣化してもおかしくないわけで、それがそうならないところに、日本の技術が生みだす品質の高さがうかがえる。

耐久性が求められるのは、人間も同じこと。
生きているかぎり、毎年、酷暑の夏、厳寒の冬を乗り越えなければならない。
暖房器具・冷房器具を使い、服の厚さを調節してそれをしのぐわけだけど、それでも、身体には堪えるものがある。
もちろん、大変なのは身体ばかりではない。
良くも悪くも、季節は精神にも影響を及ぼす。

私の場合もそう。
酷暑の夏は、仕事においては過酷を極め、現場においては凄惨を極める。
おまけに、一年で最も作業密度が上がる時季で、身体には相当こたえる。
熱中症にかかってもおかしくないような現場で、連日、汗と脂と特有の汚れにまみれる。
疲労困憊、ヘトヘトのクタクタになる。
それでも、精神は、外気に負けない熱をもって仕事に取り組もうとする。
逆に、冬の身体は楽。
着込めばある程度の寒さは防げるし、身体を動かせばあたたまる。
汗をかくほどの仕事をしても、少しの休憩ですぐにクールダウンできる。
腐敗レベルや異臭レベルは夏場に比べて低く、また、作業密度は一年で最も低い。
もちろん「良好」とまでは言えないけど、作業環境もそんなに苛酷ではない。
しかし、精神は外気よりも更に寒々しい。
陰鬱な気分が常に自分を支配し、精神から熱を奪っていくのだ。


季節は夏。
現場は、一般的な分譲マンション。
その一室で住人が孤独死。
発見は死後3日。
それを聞いた私は、ライト級からミドル級の光景を想像。
ただ、「玄関周辺には異臭が漂い、窓にはハエの影もみられる」とのこと。
私は、故人の身体が深刻な状態にまで腐乱溶解していた可能性があることも視野に入れ、現地調査に臨んだ。

管理人が故人と最後に会ったのは、つい数日前。
姿を見かけない期間が数日であれば、不審に思うはずもない。
管理人は、住人が部屋で亡くなっているなんてことは微塵も考えなかった。
しかし、玄関前には異臭が漂うようになり、窓にハエの影が見えるように。
そうなってもまだ、人体が腐っていることはもちろん、“死”を想像することもできず。
「生ゴミでも腐らせてるんじゃないか?」と、玄関ドアに合鍵を差し込んだ。
しかし、そこには、想定外の現実が・・・
凄まじい悪臭にたじろぐ間もなく目に飛び込んできたのは、人のかたちをした異様な物体。
それは、腐敗溶解の真っ只中で、腐敗ガスを含み、生前より一回り太った状態に様変わりした住人の身体だった。

室内には、高濃度の腐乱死体臭が充満。
そして、床には不気味に照る漆黒の紋様。
その紋様の所々には、故人の体型が出現。
ありがちな、頭髪や皮膚の一部も残留。
その周辺には、故人の溶解を手伝った大小のウジが無数に徘徊していた。

たった三日の放置で、そこまで腐敗するとは・・・
非常に珍しいケースのように思われるかもしれないけど、決して珍しいことではない。
実際、夏場では、短期間で発見された遺体でも腐乱溶解していたケースが多くある。
もちろん、それは、生前の病や体格、部屋の気温によって大きく異なるのだが、高温と高湿度が身体を腐らせてしまうのだ。
窓から西陽でも差し込もうものなら、室内温度40℃を超えるはず。
その中にあって、遺体が急速に腐敗していくは当然のことだろう。


また別の事例。
季節は冬。
現場は、一般的な賃貸マンション。
その一室で住人が孤独死。
発見は死後3ヶ月。
それを聞いた私は、ミドル級からへヴィー級の惨状を想像。
ただ、「玄関周辺には異臭はなく、窓にハエの影もみられない」とのこと。
私は、故人の身体が大して腐敗していなかった可能性があることも視野に入れ、現地調査に臨んだ。

管理人が故人と最後に会ったのは、もう何ヶ月も前。
その後、ある日を境に、故人は忽然と姿を消した。
外と中を出入りする姿をまったく見かけなくなり、愛用の自転車を動かしたような形跡もなし。
ポストから郵便物が回収されることもなく、中には封書やチラシがたまりつつあった。
管理人は、住人が部屋で亡くなっていることを疑い、所属する管理会社に連絡。
しかし、家賃はキチンと銀行口座から引き落とされており、滞納はなし。
周囲への異臭や害虫の漏洩もなければ、家族等からの安否確認依頼もなし。
住人のプライベートに立ち入ることをヨシとしない管理会社は、室内を確認することはせず。
結果、管理人の気がかりは放置され、そのまま三ヶ月近い月日が経過した。

ポストに郵便物が入りきらなくなった頃、管理会社は、やっと重い腰を上げた。
投函物がポストの口から大量にハミ出している様は異様で、さすがに、「おかしい」ということになったのだ。
心配されていた住人は、寝室の布団に横たわっていた。
呼吸も体温もとっくに失っていたが、その身体は、腐敗溶解することなく乾燥収縮。
いわゆるミイラ状態で、皮膚の色を浅黒くし、生前より一回り痩せた状態で発見されたのだった。

室内に、特段の腐乱死体臭はなし。
鼻に感じるのは、一般生活臭・カビ臭・尿臭が混ざったような低異臭。
布団に残留しているのも、オネショの痕程度の液痕。
ありがちな、頭髪や人型の紋様、茶黒い液痕等は見受けられず。
「人が亡くなってた」と知らされないかぎりは、それに気づかないのではないかと思われる程度の汚染しかなかった。

三ヶ月も放置して、腐敗しないとは・・・
非常に珍しいケースのように思われるかもしれないけど、決して珍しいことではない。
実際、冬場では、長期放置された遺体でも腐乱溶解しないケースが多くある。
もちろん、それは、生前の病や体格、部屋の気温によって大きく異なるのだが、低温と低湿度が、身体を長期保存させるのだ。
ちなみに、「酒好きは、生前から身体がアルコール消毒されているから腐りにくい」なんて話があるけど、それは何の根拠もない都市伝説だろう。


暑熱寒冷は、人の身体の大きな影響を与える。
熱くし、冷たくし、腐らせることもある。
人の心も同様。
人は暑熱寒冷を帯び、それが人生をつくり、また変えていく。

近年、少しは熱を帯びるようになってきたけど、もともとの私の性格は、かなり冷めたもの。
随分前のブログに書いたけど、この仕事を始めた動機もかなり冷たいものだった。
それより更に前、多感な10代の頃、何かに心を動かされたり、感動したりすることが極めて少なかったように思う。
ともなって、喜怒哀楽の感情を表にだすことも少なく、周りからは、よく「冷めたヤツ」と言われていた。

通っていた高校は進学校で校内規則は厳しかったのだが、1年から3年の間、運動会(「体育祭」と言っていた)には一度も参加せず。
理由もなく学校を休んで、サボっていた。
当時の私には、熱くなって汗や涙を流す同世代の生徒が幼稚に見え、「そんなのバカバカしくてやってられるか!」ってな調子だった。
それが大人のような気がして、それがカッコいいと勘違いしていた。
しかし、その実体は、甘ったれた子供。
自分の忍耐力のなさや自制心のなさ、努力不足を社会や他人のせいにした独り善がりだった。

そんな人間の将来がどうなるかなんて、周りの他人にはだいたい想像がついていただろう。
当の本人に想像がつかなかったのが大問題で、それは、今日に至るまでの道筋につながっている。
そして、結局、若い頃、汗と涙を流さなかった分、今になって、不本意な汗と涙を流すハメになっているのである。

私は、肉体労働者なので、身体はそれなりに動かしている。
それにともない、少なからずの汗も流している。
たまに、目に涙を滲ませることもある。
しかし、心が燃えていない。
「ぬるま湯に浸かっている」というか、「守備ばかりやっている」というか、たまに燃えることがあったにしても不完全燃焼。
ある意味で、私は、一所懸命に生きていない・・・
だから、いつも、色んな思い煩いに悩まされている・・・
・・・そんな気がする。

これまで、私は、これといって燃えたことがなかった。
また、今、何かに燃えているわけでもない。
人並みに生活していくのがやっとで、人からバカにされないように背伸びするのがやっと
で、何かに燃える余裕もなく、そんな志向性も育たなかった。

しかし、何かに燃えるって、大切なことだと思う。
人生を燃焼させることって大切なことだと思う。
ダサくてもカッコ悪くても、何かに心を熱くし、何かに心を動かし、何かに感動できるって、とても幸せなことだと思う。

私の人生、うまく生かされたとしても、あと20~30年くらいのものだろう。
たったそれだけの時間。
うまく生かされなければ、今日、死ぬかもしれない。
それだけ儚い時間。
それを、放っておいてはもったいない。

いずれ冷たくなる身体をまとい、凍える精神を持て余し、心が焦げるくらいまで燃えて生きてみたいと願いながら、その火種と燃料を手に入れることができなくて、その火種と燃料が何なのかわからなくて苦しんでいる厳冬である。



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