特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

努め人

2017-03-03 09:07:23 | その他
暦のうえでは、三月は春。
気象の世界でも三月からは“春”とされるらしい。
しかしながら、春暖は、少しずつやってくるもの。
三月に入ったからといって、急に暖かくなるわけではない。
したがって、今、春になってもまだ寒い日が続いている。

寒暖の苦楽はあっても、春夏秋冬には、四季折々の趣と深い味わいがある。
そういった意味では、寒いことも暑いことも悪くはない。
ただ、日々の生活においては、寒冷より温暖のほうがいいし、暑熱より涼冷のほうがいい。
寒暑の酷は心身に堪えるから。

寒さが堪えるのは起床時。
多くの人がそうだろうけど、あたたかい布団から寒空に出ていくのは なかなかツラい。
あとは、入浴(シャワー)時。
水道光熱費を考えると(←ケチでしょ!)、毎晩、熱い湯に浸かるわけにもいかず、ガタガタと身を震わせながらシャワーを浴びている(当然、湯は出しっぱなしにしない)。
熱い湯に浸かるのは、重労働に疲れたときや、余程 身体が冷えたとき。
それでも、湯量は最低限にし、寝そべるように浸かっている。

汗をかくくらい湯に浸かった風呂上りにはビールでも飲みたくなるけど、冬期において、普段の晩酌でビールはほとんど飲まない。
ハイボールは毎度よく飲むけど、ビールは飲みたくならない。
だから、冷蔵庫には何ヶ月か前のビールがそのまま入れっぱなしになっている。
また、部屋には、あちこちでもらったビールがたまっている。
もちろん、賞味期限が切れる前に飲むつもりだけど、今、無理矢理飲んだりはしない。
暖かく(暑く)なってくると飲みたくなるに決まっているから、それまで待機させておくのだ。

ビールに関してはそんなところだけど、今季は、久方ぶりに“にごり酒”を飲んだ。
ここ数年は、コストと糖分を嫌って遠ざけていたのだけど、「たまにはいいか・・・」「少しならいいか・・・」と飲んでみた。
その様は、ついこの前のブログにも書いたとおりで、やはり格別だった。
私が愛飲している品は、アルコールが15度くらいあるのだけどツンとせず、まるでノンアルコールのように風味は極めて優しい。
だから、チビチビやりながらでも、かなりの量をイってしまう。

放っておくと、そのままズルズルと深みにハマる。
そうなっては、元も子もない。
私は、自制心を取り戻すため、スマホを手に「にごり酒 糖分」で検索。
そこで情報を収集して、にごり酒が自分の身体には不向きな酒種であることを再認識しようとした。
すると、トップ画面の上から四番目に、あるモノが映った。
それは、私自身のブログ。
2007年10月20日更新の、「のんだくれ(前編)」という記事がでてきた。
まったく違う世界を検索したのに、思いもよらず“過去の自分”がでてきて、この寄寓には、我ながらちょっと驚いた(妙に嬉しかった)。

それは自分が書いたもので、わざわざ読む必要もなかったのかもしれなかったけど、「このタイミングで目の前に現れたもの何かの縁」と思い、ホロ酔の頭で読んでみた。
内容は、好物の“にごり酒”について懇々と語ったもの。
読みすすめるうち次第に記憶が甦ってきて、十年近くも前のことなのに、まるで昨日のことのように思い出された。
そして、懐かしさとともに、あまりの進歩・成長のなさに呆れたような笑みがこぼれた。

歳をとるばかりで進歩・成長がない・・・
時の只中にいると、目も前のことを追うばかり、目の前のことに追われるばかりの生活で、無意識のうちに、自分が理想とする生き様とは程遠いに生き方をしてしまう。
そして、過ぎた日々を振り返るたび、「こうすればよかった」「あぁすればよかった」と後悔を繰り返す。
そして、過ぎ去っていく時間の中で、進歩のなさを嘆き、成長のなさを悲しむ。

それでも、日々、生きることに努めている。
「全力」とは言えないまでも、皆、それぞれの立場で、何らかのかたちで働いている。
地味な勤めでも、小さな務めでも、生きる努力をしている。
仕事に勤しむこと、勉学に励むこと、病気と闘うこと、人世に奉仕すること、社会の務めを果たすこと等々・・・
人と比べることなく一人一人の努力に目を向けてみれば、その実の美しさと、それがもたらす素晴らしさに気づくことができる。



昨年12月7日更新「万歳!」に登場した工事現場のガードマンのF氏。
今でも、ウォーキング中に顔を合わせることがある。
仕事中、少し離れたところにいても、私の姿を見るとわざわざ近寄ってきてくれる。
そして、その都度、とりとめもない話題で立ち話をし、日を追ってその深度は増している。

「歳はねぇ・・・え~っと・・・来月で76になるんだ」
「もう、いつ死んでもおかしくないよ」
てっきり60代後半くらいだと思っていた私は驚いた。
そして、“もっと若い”と思っていたことを伝えた。

「体か小さいから、そう(若く)見えるだけだよ」
「よく見れば、歳はわかるよ」
と、年甲斐もなく照れる自分が恥ずかしいのか、モゾモゾと落ち着きなく笑った。
その人柄が微笑ましく思えた私も、笑いながら御世辞じゃないことを伝えた。

「年金だけじゃ生活できないんでね・・・」
「(仕事は)楽じゃないけど、やるしかないもんね・・・」
その境遇が気の毒で切なくも思ったが、決して他人事ではない。
自分の老い先が重なり、私は、恐怖感にも似た緊張感を覚えた。

「若い頃から酒は好きでね・・・」
「今でも25度の焼酎をね、毎晩一合、ストレートでチビチビやるんだ」
日々の楽しみは晩酌だそう。
その“味”を知っている私も大きく頷きつつ、休肝日を一大イベントのようにしている自分に苦笑いした。

「今更やめるつもりはないね・・・」
「この歳まで生きると (余命には)もう関係ないからね・・・」
若い頃は健康のためにタバコをやめようと思ったことはあったけど、結局、やめられず。
F氏に残された時間を考えると、私は、即座に否定はできなかった。

「毎晩一緒に寝てるんだよ~」
「かわいいよぉ~!」
トイプードルを飼っているそうで、大層 可愛がっているよう。
今は亡きチビ犬で同じような思い出を持つ私は、目に涙が滲みそうになるくらい聞き入った。
「縁石に乗り上げて、車をオシャカにしちゃったんだよ」
「もう直せなくて、新しいの買ったんだよ」
近年、全国各地で高齢者運転の車による重大事故が多発している。
とんだ災難だったかもしれないけど、私は他人をケガさせなかったこと、またF氏がケガしなかったことを幸いに思った。

「暑いのも寒いのもツラいけど、どちらかというと寒いほうがいいかな・・・」
「暑いのはどうにもならないけど、寒いのは着込めば何とかなるからね・・・」
職種は違えど、私も一介の肉体労働者。
詳しい説明がなくても、その苦境は充分過ぎるほど理解できた。

「もうすぐお別れだね・・・」
「この現場、三月いっぱいで終わるから・・・」
一昨年12月からの長い現場も、今月末で終わるそう。
今生の別れになるのかどうかわからないけど、私は、少し寂しく思った。

「もう、いつ死んでもいいんだ・・・」
「でも、犬より先に死んじゃいけないけどね・・・」
同意するのは失礼、しかし、安易に否定するのもわざとらしくて不親切。
返事に困った私は、ただただ笑って聞いていたけど、諦めながらも、開き直りながらも、悟りながらも、とりあえず、毎日を直向に生きている姿に敬意を覚えた。



「F氏は将来の自分かもしれない・・・」
そんな風に思うことがある。
老齢で身体が衰えるのはF氏ばかりではなく、私だって同じこと。
筋力が弱まるだけでなく、各所に不具合が起きるだろう。
経済的にもそう。
私だって年金はかけているけど、年金だけでは食べていけないのは その受給金額を試算すれば一目瞭然。
そうなると、何らかの仕事に就いて働き続ける必要がある。
ただ、専門スキルや特別なキャリア、有力な人脈がない一般の高齢者がやれる仕事といったら限られている。
残念ながら、楽な仕事に就ける可能性は低い。
とりあえず、就かせてもらえる仕事があるなら、辛抱してそれをやるしかない。

だからと言って、悲観ばかりしているわけではない。
思いもよらない苦があるけど、思いもよらない楽もあるのが人生。
どんな仕事にせよ、“働ける”ってありがたい。
心身が、働けるくらいの健康を持っているわけだし、それで暮らしも少しは楽になるだろうし。
また、社会参加は健康維持に大きく貢献してくれそうだから。

とにもかくにも、まずは時間を大切に生きていきたい。
心身の健康に留意して歳を重ねていきたい。
と同時に、私は、仕事においては ただの勤め人だけど、人生においては ただならぬ努め人になっていきたいと思うのである。



遺品整理についてのお問い合わせは
0120-74-4949

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