偉そうな人、図々しい人、乱暴な人、ケチな人・・・
これまで、不愉快な人間とは何人も遭遇してきた。
人間は十人十色。
いい人もいれば悪い人もいる。
礼儀正しい人もいれば無礼な人もいる。
自分と肌が合う人もいれば合わない人もいる。
“好き嫌い”を通していては、仕事にならない。
とにかく、一仕事の中で我慢すればいいのだ。
しかし、私だって ただの人間。
しかも、懐は浅く 器は小さい。
許容量には限界がある。
善悪は抜きにして、世の中には、自分とは関わらない方がいい人間がいるのも事実だろうから、できることなら、そういった類の人とは別の世界で生きていきたい。
そうすれば、余計なストレスを抱えなくて済むし、嫌な思いをしなくても済む。
しかし、誰しも身に覚えがあるだろう、学校でも、会社でも、仕事でも、そうできないから苦労する。
“人間関係”は、楽しいときはいいけど、難しいときは、ヒドく人を苦しめる。
そして、ときに、憎悪・嫌悪・敵意・怒り・・・恐ろしいくらいの悪感情を人に抱かせるのである。
前篇の続き・・・
部屋にある家財は少な目。
ただ、大家は、故人が付けたエアコンの撤去も要求。
たいした金額ではないが、一つ一つを処分するには費用がかかる。
男性は、それが嫌なようで、
「これはまだ使えるよ!次の人が使うでしょ!?」
と、押し売りが得意のセールスマンのようにエアコンの再利用をPR。
しかし、それは、とっくに耐用年数が過ぎている代物。
充分に古く、充分に汚れている。
欲しがる人は、まずいないはず。
だから、
「それは○○さん(故人)がつけたモノだから、外して下さい! 次の人には自分で新しくつけてもらいますから!」
と、大家は、男性による“ガラクタの押し売り”をキッパリ断った。
主張が通らなかった男性は、おもしろくなさそうに、
「使えるモノをざわざわ捨てなくてもいいのに・・・」
「処分を業者に頼んだら金がかかるわけだよな・・・」
と、ブツブツ言いながら、エアコンの室内機・ホース・室外機を舐めるように眺めた。
どうも、自分で取り外せないか考えているよう。
その様子を見ていた担当者が、
「そういうのは、専門業者に任せたほうがいいですよ」
「壁とか壊れると修繕費もかかりますから」
と親切心で言うと、
「業者に頼んだら金がかかるだろ?!」
「そんなの無駄金!無駄金!自分でやればタダなんだから!」
と一蹴。
私だって“金がかかる業者”なわけで・・・わざわざ人を呼びつけておいてその言い草・・・失礼極まりなし・・・
ただでさえ冷たくなっていた場の空気を更に冷え冷えとさせた。
退去時の原状回復費用を、貸主・借主でどう負担するか。
これは、賃貸不動産で起こりがちなトラブルである。
私個人の経験でも、過去に、一年しか住まなかったマンションで、敷金+修繕費を徴収されたこともあった。
また、三年住んだマンションで、敷金全額を返してもらえたこともあった。
国土交通省がガイドラインを定めてはいるけど、明確な基準ではないし強制力もない。
結局、不動産屋や大家の裁量によるところが大きい。
だから、“賃貸人 vs 賃借人”でトラブルが起こりやすい。
しかし、この案件の場合、入居者が“善良なる管理者の注意義務(良識をもって部屋を使用する義務)”に違反していたことは明らか。
特殊清掃が必要なくらいトイレは糞尿まみれ。
風呂や洗面台はカビ・水垢だらけ。
キッチンシンクはカビ・水垢に覆われ、レンジ周りは油汚れで真っ黒ベトベト。
で酷く汚れ、部屋もホコリだらけで壁紙も変色は結構な汚れ具合に。
長年に渡って掃除されていなかったであろうことは、誰の目からも一目瞭然だった。
担当者は、
「修繕費とクリーニング代を合わせると、預からせていただいている敷金だけでは足りないはずなので、不足分は保証人さん(男性)に負担していただくことになります」
と説明。
すると、
「なんで!?フツーに住んだって、これくらいは汚れるでしょ!?」
男性は、予想通り抵抗。
「いやいや・・・これは、経年劣化とか通常損耗じゃないですよ!」
担当者も黙っておらず。
「そんなことないでしょ!妙な言いがかりつけると黙っちゃいないよ!」
最初から“黙っちゃいない”男性だったが、自分の理屈を無理矢理にでも通そうと、声のトーンを上げた。
「あと、先月分の家賃が払われていないので、お願いします」
「退去申告は一ヶ月以上前にしていただく規約ですけど、ご本人が亡くなっておられますので、今月分の家賃は退去までの日割分で結構です」
男性の態度にいちいち反応していては仕事にならない。
担当者も、早々に男性の性質を理解したよう、冷静に努めることにした様子。
また、退去時の揉め事にも慣れているのだろう、揚げ足をとられないよう言葉を選びながら、退去の手続きを事務的に説明していった。
「先月分って・・・入院してここに住んでなかったのに家賃とるの!?」
「そんなの、おかしいだろ!」
おかしいのは男性の方。
しかし、男性は、担当者の話が進むにしたがってハイテンションに。
担当者の口からは、金のかかる話が次から次へと出てきて、みるみるうちに怒りに満ちた表情に。
そして、何か考える素振りで少しの間をあけて後、意地悪そうな微笑を浮かべたかと思うと、
「じゃぁさ、“払わない”って言ったらどうなるの?」
と、イヤ~な予感がする一言を吐いた。
「え!? 保証人になっておられるわけですから、払っていただかないと困ります・・・」
不気味な返答に、冷静沈着だった担当者は少し動揺。
「困るかどうかなんて、訊いてないよ!」
不利な立場なのに、男性は何故か強気。
返答に困った担当者が言葉を詰まらせていると、
「だから!“払わない”っていったらどうなるのかって訊いてんの!」
と、語気を強めた。
「・・・そ、その場合は・・・大家さんに負担していただくしか・・・」
傍らには大家が立っているわけで、担当者は、言いにくそうにそう言った。
同時に、言われた方の大家は、“なんでそういうことになるの?”と不満とともに不安気な表情を浮かべた。
「あ~そぉ~・・・・・じゃ、払わない!」
「今まで払った家賃だけで充分に儲かってるはずだから!」
「そもそも、こんなボロアパートで高い家賃とって、悪いと思わないの?」
「文句があるなら、警察でもどこでも行ってやるよ!」
“最後は大家が負担するしかない”ということを知った男性は、悪知恵を働かせ完全に開き直った。
そして、誰も予想しない一言・・・常軌を逸した暴言を吐き、その場の空気を凍りつかせた。
何という言い草・・・理性というものを持ち合わせていないのか・・・大家の面前で、よくもまぁ、そんな乱暴なことが言えたもの。
これには、大家も担当者も唖然・絶句。
思いもよらない返答に頭が真っ白になったのか、はたまた、言い返したいことがあり過ぎて言葉に詰まったのか、二人は無言のまま。
不気味な余裕顔を浮かべる男性とは対照的に、ただただ顔を引きつらせるだけだった。
この程度の揉め事は、裁判沙汰にするほどのことでもなく、かといって、黙って泣き寝入るのも悔しすぎる。
しかし、残念ながら、この手の人間は、かなり厄介。
一般的な常識・良識・社会通念は通用しない。
もっというと、公の法律も。
“自分がどう思われるか”なんてまったく気にせず、警察が関与するような犯罪行為でなければ、堂々とやってのける。
結局、話は男性のペースで進み、その場は、善悪の感覚が麻痺してくるような雰囲気に包まれていった。
私は、社交辞令的な会話は苦手なクセに口が減らないタイプの人間。
そのやりとりを見ていて、男性に言ってやりたいことが、闘志とともに次から次へと頭に湧いてきた。
が、私は、まったくの第三者。
“男性 vs 大家・担当者”に口を挟める立場にない。
男性に対する怒りと参戦できないもどかしさに苛立ちを覚えた。
しかし、こんな男を相手にストレスを抱えるのはバカバカしい。
“参戦できないなら離脱した方がいい”と考えた私は、一応の用事を済ませるため、攻防を繰り広げる三人を横目に、目視で家財を簡単にチェック。
そして、右手にペン、左手にファイルを持ち、見積書を制作。
どちらにしろ、男性が、故人のために身銭を切るつもりがないことは ほぼ明白。
また、病院や葬儀社への代金をキチンと支払ったかどうかも怪しく・・・
どう考えても、この案件が仕事(契約)になる可能性はかぎりなくゼロに近く、私は、無駄足を喰わされた不満の中で見積書を書いていった。
同時に、私は、仕事とはいえ“もう、この男性とは関わり合いになりたくない”と思った。
万が一、契約が成立して作業を実施したとしても、契約外の雑用を命じられたり、事後に値引きを迫られたり、また、横柄な態度や、礼儀をわきまえない言動も変わらないはずで、作業中や作業後に不快な思いをさせられることが容易に想像できたし。
それだけなら まだマシで、代金をまるごと踏み倒される可能性も考えられた。
結局のところ、この仕事は、気持ちよく、また安心してできないと判断。
で、やる気なく、かたちだけの見積書をつくって、男性に差し出した。
「え!?そんなにかかるの!?」
「オイオイ、そんなにかかるわけないだろぉ!」
男性は、まったく予想通りの反応。
ただ、これ以上、不愉快な思いをするのはまっぴら御免。
交渉に応じて商談を進めるつもりなんか更々なく、
「これでご検討下さい」
「必要があったらご連絡ください」
と、一方的に話を締め、そそくさと現場を引き揚げた。
「当然」というか・・・結局、契約には至らなかった。
だから、その後、あの案件がどうなったか、男性がどうしたかは知らない。
ただ、一悶着も二悶着もあったはず。
ともなって、関わった人は、皆、気分の悪い思いをさせられたことだろう。
大家をはじめ、実害を被った人もいたと思う。
一つの仕事を逃したものの、いち早くそこから離脱した私は、何度思い返しても、その判断が間違っていたとは思わなかった。
今回のブログ、わざわざ前後篇に渡って長々と書いた割に、その内容は、ただの男性への悪口。
その厚顔無恥ぶりは反面教師の上をいっており、表面上、得るものは何もなし。
しかし、この無意味なブログからも、何かが読み取れるかも。
自分にも似たようなところがないか・・・
これまでの人間関係や生き方に省みる余地がないか・・・
無意味な記事に意味を探すこともまた、「特殊清掃 戦う男たち」の一趣一嗜(?)。
“自分は厚顔無恥な人間じゃない”と思いたい私は、無理矢理そんな風に考えて善人でいようとする・・・
・・・実のところ、厚顔無恥な人間なのかもしれない。
特殊清掃についてのお問い合わせは
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