「緑の怪物」は、沼から引き上げられたものだった。
事故なのか自殺なのか、私には関係ないので尋ねたりはしなかった。
どちらにしろ、遺族も立ち会っていなかったし、ここまで腐ってしまっていては死因なんて関係なかった。
その沼は、普段は子供達大人達が釣りや水遊びを楽しんでいるような所。
まさか、そんな沼にドザエモンが浮いているなんて誰も思っていなかっただろう。
魚を釣り上げて喜んでいる人もいる訳で・・・そんな魚を食べている人もいるかも?
私は、手や腕をベタベタに汚しながら、何とか遺体を防水シーツに包んだ。
それから、納体袋に入れようとしたのだが、これが重くて持ち上がらない。
もう1~2名の男手が必要だった。
助っ人の男性は、更なる助っ人を呼びに出て行った。
遺体と二人きりになった私は、「なんで沼なんかで死ぬかなぁ・・・」とボヤいた。
死体に愚痴っても仕方がないのだが、吸い込んだ悪臭を愚痴にして吐かないと気が滅入りそうだったのだ。
しばらくして、モノ凄く嫌そうな顔をした部下(後輩)らしき二人の若い男性が霊安室に入ってきた。
二人は明らかにビビっていた。
充満した悪臭パンチを浴びて、作業に入る前からダウン寸前の様子。
腐敗液が各所から流れだしているとは言え、遺体は既にシーツに包んだ状態なので、最初から比べると随分とマシになっていた。
それでも、若い二人にとってはかなりキツいみたいだった。
しばらく我慢していた二人だったが、一人は顔を蒼くして早々とリタイヤ。
もう一人もリタイヤ寸前の様子だったので、とにかく急いで遺体を納体袋に入れることにした。
巨大な怪物と化した遺体は、男三人でもなかなか持ち上げることはできなかった。
「セーノ、ヨイショ!」
ボタボタと垂れる腐敗液に目もくれず、遺体を何とか納体袋に入れた。
そして、「焼石に水」と分かっているものの、ありったけの消臭剤を一緒に入れた。
あとは、袋のチャックを閉じて一段落。
ここまでくれば先が見えた(ちょっと安堵)。
先が見えたからと言って小休止すると、途端にくじけてしまいそうなので、我々は手を休めることなく遺体を柩の中に入れた。
それから、手早く蓋を閉め、蓋と本体の隙間に目張りテープを貼り付けた。
亡骸を葬るなんて雰囲気も気持ちもなく、ただただ汚物処理をした感覚の惰性作業だった。
柩を積み込んだ私は、疲労困憊の状態で搬送車を出発させた。
目的地は斎場の霊安室。
警察署の霊安室ほどではないものの、走る車の中も悪臭が充満。
その原因が、柩(遺体)なのか自分の身体なのか、はたまた鼻の内腔なのか分からなかった。
それにしても、私の鼻は、よくも壊れないでここまで働いてくれている。
ひょっとして、鼻が壊れる前に脳が壊れているのかも?
私が斎場に到着したときは、何人かの遺族が集まっていた。
挨拶をするために近寄って来た私があまりに臭かったからだろう、遺族は悲しみの表情ではなく驚きの表情をみせた。
そんなことは気にせず、私は慣れた手順で車から柩を降ろした。
すると、故人の娘さんらしき人が声を掛けてきた。
「最期の別れになるから、父親(遺体)の顔が見たい」と言う。
家族の誰かが警察で遺体確認をしたはずなのに、娘さんはその状態を知らされていないみたいだった。
「せっかく密閉梱包した柩を、また開けるのか?」
私は、面倒臭い気持ちと娘さんの想いを汲んであげたい気持ちの間で葛藤した。
そして、何よりも、家族とはいえ素人に毬藻人間を見せていいものかどうかを考えあぐねた。
つづく
事故なのか自殺なのか、私には関係ないので尋ねたりはしなかった。
どちらにしろ、遺族も立ち会っていなかったし、ここまで腐ってしまっていては死因なんて関係なかった。
その沼は、普段は子供達大人達が釣りや水遊びを楽しんでいるような所。
まさか、そんな沼にドザエモンが浮いているなんて誰も思っていなかっただろう。
魚を釣り上げて喜んでいる人もいる訳で・・・そんな魚を食べている人もいるかも?
私は、手や腕をベタベタに汚しながら、何とか遺体を防水シーツに包んだ。
それから、納体袋に入れようとしたのだが、これが重くて持ち上がらない。
もう1~2名の男手が必要だった。
助っ人の男性は、更なる助っ人を呼びに出て行った。
遺体と二人きりになった私は、「なんで沼なんかで死ぬかなぁ・・・」とボヤいた。
死体に愚痴っても仕方がないのだが、吸い込んだ悪臭を愚痴にして吐かないと気が滅入りそうだったのだ。
しばらくして、モノ凄く嫌そうな顔をした部下(後輩)らしき二人の若い男性が霊安室に入ってきた。
二人は明らかにビビっていた。
充満した悪臭パンチを浴びて、作業に入る前からダウン寸前の様子。
腐敗液が各所から流れだしているとは言え、遺体は既にシーツに包んだ状態なので、最初から比べると随分とマシになっていた。
それでも、若い二人にとってはかなりキツいみたいだった。
しばらく我慢していた二人だったが、一人は顔を蒼くして早々とリタイヤ。
もう一人もリタイヤ寸前の様子だったので、とにかく急いで遺体を納体袋に入れることにした。
巨大な怪物と化した遺体は、男三人でもなかなか持ち上げることはできなかった。
「セーノ、ヨイショ!」
ボタボタと垂れる腐敗液に目もくれず、遺体を何とか納体袋に入れた。
そして、「焼石に水」と分かっているものの、ありったけの消臭剤を一緒に入れた。
あとは、袋のチャックを閉じて一段落。
ここまでくれば先が見えた(ちょっと安堵)。
先が見えたからと言って小休止すると、途端にくじけてしまいそうなので、我々は手を休めることなく遺体を柩の中に入れた。
それから、手早く蓋を閉め、蓋と本体の隙間に目張りテープを貼り付けた。
亡骸を葬るなんて雰囲気も気持ちもなく、ただただ汚物処理をした感覚の惰性作業だった。
柩を積み込んだ私は、疲労困憊の状態で搬送車を出発させた。
目的地は斎場の霊安室。
警察署の霊安室ほどではないものの、走る車の中も悪臭が充満。
その原因が、柩(遺体)なのか自分の身体なのか、はたまた鼻の内腔なのか分からなかった。
それにしても、私の鼻は、よくも壊れないでここまで働いてくれている。
ひょっとして、鼻が壊れる前に脳が壊れているのかも?
私が斎場に到着したときは、何人かの遺族が集まっていた。
挨拶をするために近寄って来た私があまりに臭かったからだろう、遺族は悲しみの表情ではなく驚きの表情をみせた。
そんなことは気にせず、私は慣れた手順で車から柩を降ろした。
すると、故人の娘さんらしき人が声を掛けてきた。
「最期の別れになるから、父親(遺体)の顔が見たい」と言う。
家族の誰かが警察で遺体確認をしたはずなのに、娘さんはその状態を知らされていないみたいだった。
「せっかく密閉梱包した柩を、また開けるのか?」
私は、面倒臭い気持ちと娘さんの想いを汲んであげたい気持ちの間で葛藤した。
そして、何よりも、家族とはいえ素人に毬藻人間を見せていいものかどうかを考えあぐねた。
つづく
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2006-10-09 09:22:40
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