「暑いですね!」は、もはや合言葉のよう。
長かった梅雨が明けて以降、連日の猛暑・酷暑が私を疲弊させている。
これも四季の趣、夏の味わい・・・とはいえ、若くない身体にはなかなか堪える。
このブログはほとんど休眠状態だけど、私自身は、相変わらず不休で働いているから余計にキツい。
しかし、この盆休み、九連休の人もいるらしい。
が、あまり羨ましいとは思わない。
仮に休みがあっても、こう暑くては遊びに行く気にもなれない。
行楽地は、どこに行っても混んでるだろうし、飲食に使い過ぎたか、今月は早々と金欠気味だし。
そうは言っても、家でゴロゴロしていても暑いわけで・・・エアコン(電気代)が無駄になるだけ。
結局のところ、どうせ汗をかくなら、仕事をしていた方がマシかもしれない。
エアコンと言えば・・・(非常にくだらない話で恐縮だけど)
ヒマな私は、先日まで、「いつまで、エアコン(冷房)を使わないで耐えられるか」というチャレンジをしていた。
5月の段階でも夏のように暑い日があったが、エアコンは使わず。
6月に入っても、窓開と扇風機でしのいだ。
「さすがに7月には入ったら無理だろう」と思っていたけど、長梅雨のお陰もあってか、7月になっても意外と我慢できた。
で、「ひょっとしたら、8月までいけるんじゃないか?」と考えるように。
しかし、日が経つにつれ、気温は容赦なく上がり、7月も下旬になってくると なかなかキツくなってきた。
が、それでも、8月を目指して辛抱を続けた。
しかし、7月29日の熱帯夜、仕事の疲労も重なって、とうとう私の心は折れてしまった。
8月まで耐えられなかったことは残念ではあるけど、ま、こんなことで身体を壊すバカにならずに済んでよかったかもしれない。
身体を壊す心配は、他にもある
それは、大好きな酒。
猛暑の肉体労働は酒の味を格段に上げる。
結果、酒量が増えている。
最初はビールで主力はハイボール。
飲み始めは、冷えたビールを一気に胃に流し込む・・・これが たまらない!
350ml缶なら二飲、アッという間になくなる。
ただ、ビールはコスパも悪いし、メタボにもなりやすい。
で、二缶目には手を出さず、一缶飲んだらハイボールに切り替える。
薄まることを嫌う私は、本来、ハイボールに氷を入れるのは好きではない。
だが、この暑さで氷は必需品。
酒が温くなるのを防いでくれるだけではなく、見た目に涼やかであり、ジョッキを傾ける度にカランコロンと鳴る音も涼を感じさせてくれるから。
しかし、美味しい酒にも健康リスクがある。飲み過ぎは禁物。
「夏が終わるまでは無理かな・・・」
意志の弱い私は、どうやったら低ストレスで酒を減らせるか、思案している。
言うまでもなく、私は、若くもなければ金持ちでもない。
やってる仕事もこんなだし、持ってないモノや欲しいモノもたくさんある。
だけど、私には、平和や健康など・・・数えきれない恩恵を受けている“日常”がある。
疲れると、後悔・不満・不安が重く圧しかかってくるけど、とにもかくにも、大きな事故やトラブルもなく、こうして日常が過ごせていることは本当にありがたい。
それを想うと、心を熱くせずにはいられない。
真夏のある日、現地調査の依頼が入った。
依頼者は、それまでにも何度か仕事をしたことがある不動産会社の担当者。
で、彼は、腐乱死体現場を何度か経験しており、いつもだと、先に自分が部屋に入って軽く見分し、事前に その概要を伝えてくれるのが常だった。
しかし、ここはそれもできなかったくらい凄惨らしく、
「自分が経験した中では一番ヒドいです!」
「ニオイとハエがスゴ過ぎて中に入れなくて・・・」
と、私に現地調査を一任。
その上で、
「アパートの住人から苦情がきてますけど、何か言われたらこちらへ回して下さい」
「ときかく、かなりのことになってますから、気をつけて下さい!!」
と気を使ってくれた。
「ここかぁ・・・それにしても暑いなぁ・・・」
現場は、老朽アパートの二階一室。
気温は体温近くまで上がり、体感温度は、更にその上。
目眩がするような、息苦しくなるような熱気が身体に纏わりついてきて、顔をしかめるしか対処のしようがなかった。
「外でもこんなに臭うとは・・・」
担当者が貼ったらしく、玄関ドアには、隙間から漏れる異臭を防ぐためのテープが長方形に付いていた。
それでも、私の鼻は、嗅ぎ慣れた異臭を感知。
私は、まったく緊張していない自分のたくましさを頼もしく思いながら、目貼りをペリペリと剥がした。
「ハァ~・・・中は、もっとクサいわけか・・・」
テープを剥がすと、更に高濃度の異臭が漏洩。
近隣から苦情がくるのも当然だった。
私は、それを鼻で吸って確認し、それを愚痴まじりの溜息で吐き出した。
「誰かでてくるかな?」
私が立てる物音を聞きつけ アパート住人が出てくる可能性はあった。
が、誰も出てこず。
気づかないわけではないだろうに、多分、私のような、得体の知れない仕事をする得体の知れない人間とは関わり合いになりたくないのだろうと思った。
「さてと・・・行くか・・・」
溜息をついてばかりいても仕方がない。
私は、頭のタオルを巻き 専用マスクを装着。
それから、後ポケットに殺虫剤スプレーを二本備えて、玄関ドアの向こうへ身体を滑り込ませた。
亡くなったのは高齢の男性。
今どきめずらしく、部屋にはエアコンが未設置。
持病もあったらしかったが、死因は熱中症の疑いもあった。
どちらにしろ、“死”というものは、時と場所を選ばず、然るべき時にやってくる。
ただ、故人にとっての“然るべき時”は、真夏のこの時季だったわけ。
真夏の高温と高湿の中では、肉体は猛スピードで腐っていき、遺体や部屋が悲惨凄惨な状況になるのは自然当然の理で、その結果がこの現実。
故人の死なのか、目の前の惨状なのか、自分の業なのか・・・私は、うるさいハエも気にならないくらいに、何かに気持ちを厳かにしながら静かに歩を進めた。
温度は猛暑の外より更に高く、室内は、まさにサウナ状態。
しかし、私は、もともとサウナは苦手。
あの異常な高温には、恐怖感すら覚える。
だから、スーパー銭湯は好きだけど、行ってもサウナには入らない。
しかし、こっちの“サウナ”に好き嫌いは言ってられない。
表向きは「使命」、実のところは「商売」、乗りかかれば「責任」、とにかく、私に「入らない」という選択肢はなく、心を無にして(“無”にならないけど)臨むしかない。
冷や汗じゃないだけマシではあったけど、入室した途端に身体中の汗腺から汗が噴出し、シャツは濡れて身体に貼りつき、手袋には 汗がたまっていった。
主たる汚染は、和室の隅に敷かれた布団。
敷布団は、腐敗液でドス黒く変色し不気味な艶を放っていた。
同時に、腐敗粘土が故人の最期の姿を立体的に浮き上がらせていた。
更に、ベトベト グジュグジュの敷布団の下には、人工的に敷き詰めたかのように無数のウジがビッシリと潜伏していた。
もちろん、その下の畳も無事では済まされず。
腐敗体液は、敷布団だけでは吸収しきれず畳まで浸透。
そして、畳だけで留まりきらず、その下の床板まで到達していることは容易に想像できた。
更には、床板を通り越して一階の天井裏にまで垂れている可能性があることも危惧させられるくらい深刻な状況だった。
また、担当者が言っていたとおり、ハエが大量発生。
“進撃の巨人”に驚いたのだろう、黒点の彼らは、舞い降りる雪のように、舞い散る桜のように(そんなきれいじゃないけど)、一斉に飛散乱舞。
そんな彼らを放っておくほど寛容ではない私は、両手に一本ずつ殺虫剤スプレーを持ち、二丁拳銃のガンマンのように飛び回る彼らに向かって噴射。
すると、危険を感じた彼らは、今度は、羽音を唸らせながら狂喜乱舞。
ハエにとって私は、悪い怪物に見えたことだろう。
が、それも束の間、次第に羽音を弱らせながら低空を蛇行し、そして、落ちていった。
私に最後の一匹まで追い詰める根気はなく、ほとんどのハエを撃墜したところで、とりあえずの殺虫作業を終わらせた。
そして、殺虫剤の靄が晴れるまでの間 外に出て小休止することに。
悪臭プンプン、汗みどろ、ヒドい身体になっていた私は、人目と風向きを気にしながら階段下の日陰に隠れるように腰を降ろした。
外も猛暑であったけど、それでも、室内に比べればマシ、涼しく感じるくらい。
私は、汗を流しつつ用意していた水を飲み、溜息を吐きつつ新鮮な空気を吸いなおした。
そして、このツラい現実の奥底にあるはずの 自分にとってプラスの意味を探りながら、また、故人の死を想いながら、特掃の段取りを思案した。
「人は、“死”を避けることができない」
「故人だって、こうなりたくてなったわけじゃない」
「ここにあるのは“肉の害”であって、“人の悪”はない」
そう想うと、至極凄惨な腐乱死体現場であっても、恐怖感はもちろん、嫌悪感もなくなっていく。
あとは、幾重にも渡って自分を取り囲んでくるツラい現実をやわらかく受け止め、上向きに消化し、自分とうまく折り合いをつけるだけ。
冷めた感情、鈍い感性、弱い意志、臆病な性格、ネガティブな志向、怠惰な思考、不健全な嗜好、愚かな価値観、下劣な欲・・・
自分の覚悟や決心といったものは、結局のところ一時的な感情から生まれたもので、あまり頼りにならないことや信用ならないことを痛感させられたことも何度となくある。
そういったことに苛まれて乾冷に過ごしてきたこれまでの人生大半。
しかし、しかしだ、心を生まれ変わらせるチャンスはある。
身体を若返らせることはできないけど、心を生まれ変わらせるチャンスは、毎日、毎日に、何度も、何度もある。
点である人は、プロセスより結果を大切にするけど、線である人生においては、結果よりプロセス・・・つまり、日々の生き方の方が大切なのではないだろうか。
誰もが忌み嫌う腐乱死体現場にいるのは自分一人。
待っているのは、キツい仕事、ツラい作業。
気分が乗らないのは、私が軟弱なせいだけではないだろう。
「あとは俺に任しといて」
芝居じみたセリフだけど、それを姿なき故人に話しかけるようなつもりでつぶやき、自分一人の世界でカッコつけてみると、自ずと自分と折り合いがつき、そして、心に火がつき、それが燃えてくる。
そして、その熱気が、私の時間(人生)を充実させ、有意義なものにしてくれるのである。
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