小さい頃の私は、モノが捨てられない子供だった。
何を見ても、いつか必要な時が来るような気がしていた。
そんな訳だから、私の机の引き出しや収納箱には不要な物がたくさん納まっていた。
何事にも「もったいない精神」は大事だと思うが、度が過ぎると問題がでる。
ある腐乱死体現場。
年配の女性が依頼者で、依頼者と共に現場に入った。
「かなり臭いですよ」
と、申し訳なさそうに言いながら、女性は玄関ドアを開けた。
そして、あちこちの窓を急いで開けて回った。
少しでも悪臭を緩和させようと、私に気を使ってくれたみたいだった。
「大丈夫ですよ、慣れてますから」
と、言いながら私は汚染部屋に入った。
汚染は、ベッドだけに見えた。
やはり、他の部屋に増して濃い腐乱臭がこもり、ハエが飛んでウジが這っていた。
「ヒドイでしょ?」
「スイマセンねぇ」
と、女性は私に優しい声を掛けてくれた。
「大丈夫ですよ、慣れてますから」
と応えて部屋の観察に入った。
汚染度は深刻な状態だった。
一見、ベッド以外に汚染されたものはないように見えた。
ただ、腐敗液がどこまで染み込んでいるかを確かめておく必要があった。
まず、私は敷布団をめくった。OUT!
更に、その下のマットをめくった。OUT!
そして、ベットマットを動かした。OUT!
ベッドの底板まで腐敗液は下りていた。
まぁ、ここまでは仕方がない。よくあることだ。
腐敗液がベッドを通り抜けて畳に到達していると、作業も費用も全然変わってくる。
私は、「止まっていてくれよ!」と念じながらベットを横にずらした。SAFE!
幸い、床の畳には汚染痕はなかった。
腐敗液は、ベットの底板でかろうじて止まっていた。
腐敗液は少しでも見逃す訳にはいかないもの。
悪臭はもちろん、ウジの温床になる危険性があるから、私は念入りに畳を見た。
とりあえずは、汚染ベッド一式を撤去すれば急場は凌げそうだった。
私がそんなことをしていると、台所の方から女性の独り言が聞こえてきた。
「お茶くらい出した方がいいわねぇ」
「何かないかしら」
「あら牛乳、賞味期限は・・・切れちゃってるわ」
「もったいない」
「あとは・・・このジュースはどうかしら」
「○○(故人の名前)の飲みかけか・・・賞味期限は・・・あら、これも過ぎちゃってるわ」
「もったいない」
「他には・・・何もないわねぇ」
「一昨日までだから、ま、大丈夫でしょ」
断片的に聞こえる言葉から意味を推測すると、どうも私に飲物でもだしてくれようとしているらしかった。
そして、見つけたのが賞味期限が切れた、故人飲みかけのジュース。
冷蔵庫の中に保存してあったとは言え、腐乱現場にある物を口にするのは抵抗がある。
しかも、故人が生前に飲みかけていたうえ、賞味期限が切れてるものなんて。
私は、イヤ~な予感がして不安になってきた。
見積を終えた私は、女性と今後のことを打ち合わせるため、台所の椅子に腰を掛けた。
全部の窓が開いているとは言っても、腐敗臭はバッチリ臭っていた。
話し始める前に女性は、「どうぞ」と言ってジュースを出してくれた。
「このジュースは・・・」
さすがに、このジュースには「慣れているから大丈夫」とは思えなかった。
私の脳は、非常事態宣言を発令。
女性は、自分の分は用意していなく、私は増々警戒感を募らせた。
「せっかく出してくれた物に口をつけないなんて、女性は気分を悪くしないだろうか」
「ここで飲むのが礼儀か?」
「俺って失礼なヤツ?」
自分の中に葛藤があったが、どうしてもコップに手を出す気にはなれなかった。
打ち合わせの最中も、女性はジュースを飲むように促してきた。
私が飲まないのは、明らかに不自然だった。
「仕方ない・・・口をつけるか・・・」
私が諦めかけた時、一匹のハエが飛んで来てコップにとまった。
私と女性は、ハエを見た後にお互いの顔を見合わせた。
三者、しばし沈黙。
「嫌なハエだこと、すぐ新しいのを入れますから」
「すぐに失礼しますから、もう結構ですよ」
私は、ハエに助けられて、その場を切り抜けることができた。
物があふれている現在、まだまだ使える物がどんどん捨てられていく。
機能・性能より外見・デザイン重視か。
これは人間にも当てはまる。
人格や性格は二の次・三の次。
こんな時代には、この女性のような「もったいない精神」を持つ人が貴重かもしれない。
コップにとまったハエが、両手を合わせて「いただきま~す」する姿が印象的な出来事だった。
何を見ても、いつか必要な時が来るような気がしていた。
そんな訳だから、私の机の引き出しや収納箱には不要な物がたくさん納まっていた。
何事にも「もったいない精神」は大事だと思うが、度が過ぎると問題がでる。
ある腐乱死体現場。
年配の女性が依頼者で、依頼者と共に現場に入った。
「かなり臭いですよ」
と、申し訳なさそうに言いながら、女性は玄関ドアを開けた。
そして、あちこちの窓を急いで開けて回った。
少しでも悪臭を緩和させようと、私に気を使ってくれたみたいだった。
「大丈夫ですよ、慣れてますから」
と、言いながら私は汚染部屋に入った。
汚染は、ベッドだけに見えた。
やはり、他の部屋に増して濃い腐乱臭がこもり、ハエが飛んでウジが這っていた。
「ヒドイでしょ?」
「スイマセンねぇ」
と、女性は私に優しい声を掛けてくれた。
「大丈夫ですよ、慣れてますから」
と応えて部屋の観察に入った。
汚染度は深刻な状態だった。
一見、ベッド以外に汚染されたものはないように見えた。
ただ、腐敗液がどこまで染み込んでいるかを確かめておく必要があった。
まず、私は敷布団をめくった。OUT!
更に、その下のマットをめくった。OUT!
そして、ベットマットを動かした。OUT!
ベッドの底板まで腐敗液は下りていた。
まぁ、ここまでは仕方がない。よくあることだ。
腐敗液がベッドを通り抜けて畳に到達していると、作業も費用も全然変わってくる。
私は、「止まっていてくれよ!」と念じながらベットを横にずらした。SAFE!
幸い、床の畳には汚染痕はなかった。
腐敗液は、ベットの底板でかろうじて止まっていた。
腐敗液は少しでも見逃す訳にはいかないもの。
悪臭はもちろん、ウジの温床になる危険性があるから、私は念入りに畳を見た。
とりあえずは、汚染ベッド一式を撤去すれば急場は凌げそうだった。
私がそんなことをしていると、台所の方から女性の独り言が聞こえてきた。
「お茶くらい出した方がいいわねぇ」
「何かないかしら」
「あら牛乳、賞味期限は・・・切れちゃってるわ」
「もったいない」
「あとは・・・このジュースはどうかしら」
「○○(故人の名前)の飲みかけか・・・賞味期限は・・・あら、これも過ぎちゃってるわ」
「もったいない」
「他には・・・何もないわねぇ」
「一昨日までだから、ま、大丈夫でしょ」
断片的に聞こえる言葉から意味を推測すると、どうも私に飲物でもだしてくれようとしているらしかった。
そして、見つけたのが賞味期限が切れた、故人飲みかけのジュース。
冷蔵庫の中に保存してあったとは言え、腐乱現場にある物を口にするのは抵抗がある。
しかも、故人が生前に飲みかけていたうえ、賞味期限が切れてるものなんて。
私は、イヤ~な予感がして不安になってきた。
見積を終えた私は、女性と今後のことを打ち合わせるため、台所の椅子に腰を掛けた。
全部の窓が開いているとは言っても、腐敗臭はバッチリ臭っていた。
話し始める前に女性は、「どうぞ」と言ってジュースを出してくれた。
「このジュースは・・・」
さすがに、このジュースには「慣れているから大丈夫」とは思えなかった。
私の脳は、非常事態宣言を発令。
女性は、自分の分は用意していなく、私は増々警戒感を募らせた。
「せっかく出してくれた物に口をつけないなんて、女性は気分を悪くしないだろうか」
「ここで飲むのが礼儀か?」
「俺って失礼なヤツ?」
自分の中に葛藤があったが、どうしてもコップに手を出す気にはなれなかった。
打ち合わせの最中も、女性はジュースを飲むように促してきた。
私が飲まないのは、明らかに不自然だった。
「仕方ない・・・口をつけるか・・・」
私が諦めかけた時、一匹のハエが飛んで来てコップにとまった。
私と女性は、ハエを見た後にお互いの顔を見合わせた。
三者、しばし沈黙。
「嫌なハエだこと、すぐ新しいのを入れますから」
「すぐに失礼しますから、もう結構ですよ」
私は、ハエに助けられて、その場を切り抜けることができた。
物があふれている現在、まだまだ使える物がどんどん捨てられていく。
機能・性能より外見・デザイン重視か。
これは人間にも当てはまる。
人格や性格は二の次・三の次。
こんな時代には、この女性のような「もったいない精神」を持つ人が貴重かもしれない。
コップにとまったハエが、両手を合わせて「いただきま~す」する姿が印象的な出来事だった。
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2006-10-05 09:23:41
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