かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 183

2022-11-18 10:38:25 | 短歌の鑑賞
※ また少し順番が飛びます。

  渡辺松男研究2の25(2019年7月実施)
     Ⅲ〈行乞〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P120~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、T・S、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


183 土を食う蚯蚓(みみず)の思いかろからず行(ぎよう)乞(こつ)をするおもいなるらめ

     (レポート)
 作者はミミズが土を食べて生きていることへ思いを寄せている。土を食べるミミズの思いは決して楽しく軽々しいものではなく、僧侶が乞食(こつじき)(托鉢)をして歩く「行乞」の、覚悟ある修行の心に通じるのではないかという。行乞の僧侶が人々に功徳を積ませているように、ミミズもまた、土を食べてはよい土を排泄し、土壌を肥えたものへ変えいっている。花や葉や虫のようなきれいなものを食べるのではなく、死んだ生物が腐敗し分解してゆく土を食べるミミズの寂しい姿に、「行乞」の黙々としたさまが重なる。渡辺松男の視座の大きさや深さを思った一首だった。(真帆)


     (当日意見)
★以前、蚯蚓が居ないような土は作物がちゃんと育たないということをききました。
 蚯蚓が通ると空気が通るようになって土が肥えるのだそうです。レポーターの修
 行の心に通じるというのに同感しました。(岡東)
★とってもいいレポートだと思いました。土を食べる蚯蚓の動きに対して行乞を連
 想するなんて渡辺さんの精神の構造とか物の見方とかすごいですね。「きれいな
 ものを食べるのではなく、死んだ生物が腐敗し分解してゆく土を食べるミミズの寂し
 い姿」とレポーターが書いていらっしゃるけど、そういうことは人生の場面でもよく
 あること。蚯蚓の行為に行乞を連想する渡辺松男の精神の深さに感動しました。
    (A・K)
★偉いとか言わずに「思いなるらめ」ってあっさり言っているところもいいですね。
(鹿取)
★この世は生きる行であると常に思って作者が生きているんでしょうか、だから行
 乞などという言葉が出てきたのかなと思いました。(真帆)
★どうなんでしょうね、私は松男さんって結構宗教的な人かと思うのですが、本人
 は否定されるので、もうちょっと違う志向なのかなあと。(鹿取)

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