かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 174

2022-11-17 14:04:07 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の23(2019年4月28日実施)
     Ⅲ【交通論】『泡宇宙の蛙』(1999年)P109~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、T・S、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


174 交通論前方のみをかがやかせ国道は永久にあざむかぬとぞ

    (レポート)
 この歌集『泡宇宙の蛙』の詠まれた一九九〇年代には、インフラという言葉が盛んに使われはじめた。インフラとはインフラストラクチャー(infrastructure)の略で、「下部構造」という本来の語の意味から、「産業や生活の基盤として整備させる施設」を指すようになる。一首ではインフラ整備のなかでもとくに交通インフラについて詠み、その構想の根本にある交通論を詠んでいる。作者の着眼した「前方のみをかがやかせ」の発見は鮮やかで、言われてみれば確かにそうだ。交通論はその論を起用し実現したときの輝かしい未来をのみ説き、整備したあとの弊害や後始末は説かない。国の敷く道は永久に国民をあざむかないという下の句に、国政に対する作者のブラックユーモアが冴える。
  (真帆)

     (当日意見)
★レポーターの意見に全面的に賛成です。ただ「永久」は音数的に「えいきゅう」より「と
 わ」がいいと思います。「とわ」「とぞ」と韻を踏んでいます。下の句の皮肉が効いてい
 ますね。「とぞ」がその皮肉を盛り上げている。(鹿取)
★欺かないんだってさ、ということですね。(T・S)
★漢字とひらがなのバランスもいいですね。役人って希望的観測を事実のようにいう。あ
 らまほしをあたかもあったことにする。(A・K)
★渡辺さんはお役人だったそうですから、そういうことがみんな見えていたんでしょうね。
  (岡東)
★見えていて、なおかつ役人として働き続けるのは苦しかったでしょうね。(鹿取)

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