かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 411

2022-01-21 15:35:49 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究49(2017年5月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P164~
     参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取未放


411 花蕎麦のしずもれる日よ天体の外側へ消えゆきしはたれか

     (レポート)
 作者の内側から「氾濫」してゆくものをあてどなく感じ怖れているのではないか。「天体の外側へ」と物理的にとらえることで、自己の怖れを俯瞰し、得体の知れない怖れと対峙している作者の強い精神力を感じる。(真帆)


     (当日発言)
★消えていったのは光りではないでしょうか?蕎麦の花が咲いているんですよね。景がすばらし
 いですね。(A・Y)
★「たれか」で受けるのは普通は人間ですよね、光ではないと思います。(鹿取)
★消えてゆきしは死のことを言ったのではないかなあと思います。(慧子)
★この歌があるから、さっきの410番歌(みずからのひかりのなかにわく涙きみのそとへそとへ
 あふれだす)の「そとへそとへ」が気になって抽象的な読みにも拘ったんですけど。松男さん、
 裏側とか外側とか拘ってたくさん詠っていますね。(鹿取)
★死ぬことを詠っているのですか?(T・S)
★煎じ詰めればそういうことかもしれないですね。「たれか」ってぼかしていますけど、特定の人
 を指しているのではないのでしょう。蕎麦の白い花が広がっている静かな光景の中でふっと死の
ことを思っている歌かもしれませんね。小さくて地味な花が主役のように前面に出ているのが面
白いですね。(鹿取)
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渡辺松男の一首鑑賞 410

2022-01-20 17:04:41 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究49(2017年5月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P164~
     参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取未放


410 みずからのひかりのなかにわく涙きみのそとへそとへあふれだす

    (レポート)
「きみのそとへそとへ」が作者らしい表現だとおもう。前の歌を受け、山肌がすこしずつ崩れるように、君の内側から君の涙は外へあふれる。愛しい君の涙は「ひかりのなかにわく涙」と輝いてみえ、作者をもその光と一体になっているようだ。(真帆)


    (当日発言)
★上の句がいいと思いました。光りも涙も切り離せないものなのですね。(慧子)
★このきみはいとしい人なんでしょうかね。(A・Y)
★そうですね、「そとへそとへ」あたりを考えるともう少し抽象的な読みもできるように思うので
 すが。(鹿取)
★冷静に考えると主語はひかりなのかなという気がしてきました。ひかりみずからがひかりがひか
 りを生むように。(真帆)
★みずからは誰ですか? (T・S)
★ひかりです。(慧子)
★408番歌に「地球から遠ざかりゆく月の面君のおでこのようにかがやく」とあって相聞とも読
 めますから、恋人みずからが内面にたたえているひかりが持ちこたえられないようにいっぱいに
 なる、思いの純真さが涙となってあふれ出すというように読んでもいいのではないでしょうか。
 また、この一連光りがテーマですから抽象的に読んでもいいと思います。そういう二重性を持た
 せているのかもしれませんね。(鹿取)

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渡辺松男の一首鑑賞 409

2022-01-19 17:32:23 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究49(2017年5月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P164~
     参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取未放


409 赤崩(く)えにまひるのひびく光さし山の顫(ふる)えはひそかになさる 

      (レポート)
 南アルプスの大きな崩壊斜面、赤崩(あかくずれ)をみつつ作者はいま山のこころになっている。遠目には聳える山であるが、白昼をくずれつづける震動がある。偉容を誇る山の内がわに秘かに震えるこころがあるように感じる。(真帆)


      (当日発言)
★「まひるのひびく光さし」のところ、どこにどうかかっていると読まれましたか?(鹿取)
★ここのところは随分入れ替えがしてあるのかなと思ったところです。「まひるの」は野原の野か
 とも思ったのです。後の方に光りが射す歌が次々と出てくるので、この歌も時間が今真昼であっ
 て、その光りが射していて、そんなふうに漠然と取りました。(真帆)
★「光さし」は「ひそかになさる」に掛かるのでしょうかね。「まひるの光」の形容として、その
 光りはひびくようだというのでしょうか。(鹿取)
★書いてあるとおりに読むとひびくような光線だったということですよね。(真帆)
★そうですね、光りって波動ですけど、それが音を出しているようだと。山は崩れ続けていて、ふ
 るえているような感じなんですね。そのふるえが投影して山に射す光りまでがひびくように感じ
 られているのではないでしょうか。僅かずつ崩れ続けている山に対する痛ましさでしょうか。
   (鹿取)
★「なさる」というのは尊敬ですか?(A・Y)
★いや、尊敬ではないです。「なす」+「る」で、「る」は自発じゃないですか。自然にそんなふ
 うに進行しているって。(鹿取)


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渡辺松男の一首鑑賞 408

2022-01-18 17:07:39 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究49(2017年5月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P164~
     参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取未放


408 地球から遠ざかりゆく月の面君のおでこのようにかがやく

      (レポート)
この歌集もいよいよ巻末にきた。そこで今一度、あとがきの冒頭にある作者の「こころ」に思いをよせて鑑賞してみたい。   
 「言葉はそれだけで自律した世界にあるが、同時に言葉を生みだしているのはこころである。言葉がなければこころはないのかもしれないが、こころがなければ言葉なはい。そして私はすこしだけこころの方に重点をおいている。そういう素朴な位置に立っているのだ。」(『寒気氾濫』あとがきp.168より引用)

 額にみえるのだから上弦の月だろうか。宵に現れた月も日没頃には空の真上にのぼり深夜には見えなくなる。地球から遠ざかってゆく月を寂びしみながらも、作者は愛しいひとを思い浮かべたのだろう。「君のおでこのようにかががやく」とユーモアたっぷりに言いながら輝いているのは君に恋する作者の心なのだろう。月の引力にひっぱられて海が膨らむように、なんだか君のおでこも膨らみをおびて輝いているようだ。「君のおでこ」が抜群に効いている一首だ。(真帆)


        (当日発言)
★君のおでこに例えているのが近づいてくる月ではなく遠ざかっていく月であるところがいいなあ
 と思いました。(慧子)
★そうですね、遠ざかって いく月に微妙なニュアンスが出ていますよね。(鹿取)
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渡辺松男の一首鑑賞 407

2022-01-17 16:59:31 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究48(2017年4月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P160~
     参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部 慧子    司会と記録:鹿取 未放


407 コスモスのきいろき花粉風にとび突然にくる君の発熱

      (レポート)
 上句は実景でありながら下句のための序の働きをしていよう。しかし「突然にくる君の発熱」とは何だろう。若さによくみられる熱にうかされたような精神状態や物言いをさしているのだろうか。  (慧子)


     (当日発言)
★私は本当に熱が出たと読んでいたのですが。発熱が比喩だとするとあまり新鮮じゃないというか
通俗的ですよね。せっかく雪渓や銀河やきらきらした美しい空気感が出ていたのに「熱にうかさ 
れたような精神状態」だとそれが濁る気がします。コスモスって普通は花の色のピンクを表に出
しますが、花粉の黄色をだしたところが、面白い味わいですね。(鹿取)
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