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ロシアの(多分100年越しの)憲法改正 (2)

2020-07-02 19:37:55 | 欧州情勢複雑怪奇

3月にロシアが憲法改正の修正点に関する国民投票をするという話を書いたが、それがコロナでスケジュール変更を余儀なくされ、7月1日が投票日となった。

で、昨日投票が行われ(1週間の投票期間の最終日)、文句なしに改正案賛成が勝った。ということで現行の1993年憲法が抜本的に改正される。

(IDを見せて投票に赴くプーチン)

Election Commission: Russian Constitutional Changes Approved by 77.92% as 100% of Ballots Counted

https://sputniknews.com/russia/202007011079769689-election-commission-russian-constitutional-changes-approved-by-7214-after-20-of-ballots-counted/

基本的に、ロシアはロシアでやりたいというロシアさんの希望を西側総出で打ち砕いてきたところを、その時々に負けても負けても盛り返してくるロシアさんでしたといった趣だなと思う。

前回までのお話はここ。

ロシアの(多分100年越しの)憲法改正

 

で、私はストルイピン&ヴィッテの時代を思い起こして100年越しと書いたけど、今般の話では、ロシア内では、

さよなら1993

こんにちは2020

と認識されていた模様。

この意味は、1993年憲法は要するにエリチンを傀儡とするアメリカが書いた憲法でしたということ。

傀儡エリチンを使ってロシアを解体しようとしたので、無暗に大統領権限が強い憲法になっていて、プーチンはそれを使って逆に解体を阻止していった。その後いくらか改正はされていたものの、基本のストラクチャ―は残っていたところを、今般の改正で本格的に別物へと変わる。

だから、「こんにちは2020」は、これが本当のロシア人の憲法ですという意味。

そして、多数の人たちがそこを理解して憲法議論をして投票に赴いた。そして、多くの人にとって、ようやくできる、といったもののよう。

Russia has come a long way since 1993; Putin’s constitutional changes reflect the needs of a revitalized state 

https://www.rt.com/russia/493411-constitution-amendments-russia-putin/

 

多数の人が理解してるってところが、ロシアだよなぁとかしみじみ思う。どうやっても大多数の人たちが理解してないことは成り立たないという暗黙の了解がある。これがあるから大戦争だろうが、大変革だろうが、ともあれロシアのために、という方向に強力な指向性ができる。磁場のようだ。でも当然だよね、人々の理解の上に成り立つんだから。

思うに、民主主義というのが一般人民主体主義のことだというのなら、これほど民主主義的な集団は滅多やたらにお目にかかれないというべきだと思う。

そう思えない人はWWII東部戦線を学習したことがない人。

Volgograd/Timelapse

 

■ 独自路線

で、西側のメディアは例外もなく、プーチンがほとんど終身で権力を掌握しておるのだーーーとかいう話にだけ集中しているけど、それだけではない。

あと、プーチンがいつやめになるのかわからない、というのはロシアの国家戦略上非常に有利でしょう。だって、これだとカラー革命を仕掛ける派は、あと2年、あと3年という任期切れにあわせてカラー革命の準備をするというスケジュールがたてられないから。

あと2年経つと変わると思えれば博打に乗ろうという人もいるだろうが、何年後になるのかわからければ博打に乗る人の総数は減る。

 

変更点は、時事にちょっとしたまとめがあった。

【解説】ロシア憲法改正の国民投票、主な変更点

https://news.yahoo.co.jp/articles/b2f4a793c64affdc9e48d23248e463494d2fc662

 

結婚は男女の結びつき(同性婚の事実上の禁止)

領土割譲の禁止

WWIIに関する歴史的事実の保存

最低賃金は最低生活水準を下回ってはならない

 

といったあたりが西側メディアにしばしば出ているあたりか。

興味深い点としてはこのあたり?

神という言葉を入れる

国家公務員は外国に銀行口座を持ってはならない

 

国家公務員は外国に銀行口座を持ってはならないと同様の話で、多分、二重国籍者や外国で教育を受けたものは上層の公務員(大統領とか国会議員)とかになれない、とかいう話も出ていたのだが、それはどうなったのだろう。

基本的に趣旨はわかりますよね。売国奴禁止条項みたいなもの(笑)。

 

■ オマケ

全体としてここらへんの具体案が、明白に不支持より支持が上回ることは目に見えているし、逆にいえば、みんながだいたい支持するようなものしか入れてないとも言えると思う。

そもそも、ロシア下院の野党第一党はロシア連邦共産党なんだけど、その党首ジュガーノフにしても、憲法改正は当然で、変えられてよかったという立場。

単純に、大統領の任期には文句があって、プーチンはツァーとファラオとソ連総書記より強いとか言ってはメディアを賑わしている。

‘Russian president has more powers than tsar, pharaoh & Soviet general secretary combined’ – Communist Party leader

https://www.rt.com/russia/492000-russia-hyper-presidential-system-zyuganov/

ある意味、ツァーより強いというのは本当かもなと思う。一部の集団ではなく、多数の人々が、意思を示して、持続的に支持してるから。

また、ジュガーノフは「神」という文言を憲法に入れることにも反対してない。それどころか、コミュニズムはキリスト教に基づいているという考えを披歴していることで知られる。聖書を読むと、働かざる者食うべからずみたいなこと言ってるだろ、それはコミュニズムの基本なんだよ、とか言う。

Lenin would be rolling in his grave, if he had one: Russian Communists back plan to put 'God' in constitution

https://www.rt.com/russia/480666-russian-communists-god-constitution/

 

ここらへんも、ある意味かなり正しい理解なのではないかと私なんかは思う。そもそも初期キリスト教教団というのは社会正義希求集団みたいな傾向を強く宿しているので、本質的には19世紀のコミュニズム集団と重なるところがあると思う。

そもそも、金融業者が後ろで金を回して支配するとかいうモデルは想定されてないから、古代のテキストが示すのは読むとむしろ安心する世界かもしれない(笑)。

注意が必要なのは、ロシア人が知ってるキリスト教は正教であって、バチカンがしきる西方ローマ教会のことではない。ここには結構な違いがある。

 

そういえば!

前に、プーチンもコミュニストのイデオロギーはキリスト教に似てると言ってた。これこれ。

Putin: Communist ideology similar to Christianity, Lenin’s body like saintly relics 

https://www.rt.com/news/415883-putin-communist-ideology-christianity/

 

プーチンは、こういう考えを嫌う人もいると思うけど、俺はそう思ってるの、という言い方で、こんなことを言っていた。

宗教者が絶やされ、教会が壊され無神論者が跋扈する時代があって、その時同時に新しい宗教が作られた。コミュニストのイデオロギーはクリスチャンのそれに実によく似ている。実際、自由、平等、同胞愛、正義って、みんな宗教テキストにあるでしょ? みんなそこにあった。ではコミュニズムの構築者の方針は何か。それは理想化。聖書から粗野なやり方で抜き出して純化した。新しいものは何も発明されてない。

“There were those years of militant atheism when priests were eradicated, churches destroyed, but at the same time a new religion was being created. Communist ideology is very similar to Christianity, in fact: freedom, equality, brotherhood, justice – everything is laid out in the Holy Scripture, it’s all there. And the code of the builder of communism? This is sublimation, it’s just such a primitive excerpt from the Bible, nothing new was invented.”

https://www.rt.com/news/415883-putin-communist-ideology-christianity/

この時の話は、なぜレーニンの遺体をいつまでも取っておこうという気になったのか、それはキリスト教の聖遺物へのこだわりと似てる、という話に繋がってて尚興味深い。

で、要するに、ロシアは20世紀になる時のnationとしての基盤が正教徒が圧倒的多数というものなので、人を惹きつける、人がこれなら受けいれられる、これは正しいと判断できる、という考えはすべからくその基盤に関連していくという話だろうと思う。

だから、地球上の他の地域で起こったコミュニズムがこれと同じ解釈である必要はない。多分、日本には日本の解釈があっただろうし、アメリカにはアメリカの解釈があったでしょう。

いずれにしても、いろんなことを、虚心坦懐考えていくロシアの風潮は大変興味深い。

この人たちは人が考えた理屈を「天啓」のようには受け取らない人を多く生み出す。その態度は多分精神の自由というものだろうに、なぜだか、ロシアは自由でないと言い習わされている。それは、「天啓」派にとって自由な思考ほど疎ましいものはないからだろう、などと考えてみる。

 

そうそう、プーチンは社会主義時代のソ連を疎ましくは思ってないし、良い所もたくさんあったと心底懐かしんでることがしばしば見られることも付言しておきたい。これもまた、考える自由だよね。良いところを残して何が悪いんだ、という話。(例:それはスターリンだ、とか、社会主義だと言われると怖気づくみたいなところがない)

 

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2 コメント

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保守主義国家ロシア (石井)
2020-07-03 17:12:08
投票日の前々日の晩、モスクワ環状道路に面したアメリカ大使館の建物前面に映像を映すパフォーマンスがゲリラ的に行われました。
https://twitter.com/olegono_rus77/status/1277888191052369921
・1993年のはあんた方のものだった
・2020年のは我々のものになる
・投票するか、それとも敗北か
・勝利の為に投票へ行け

これが、多分大半の人々の感覚でしょう。翻って20世紀の歴史はロシアにとっては過酷すぎたと思います。ソ連時代建物上部に赤地に白文字で「勉強、勉強、また勉強」というスローガンをよく見かけました。レーニンが人民の意識向上による政治社会の安定を狙った言葉でしたが、ロシアの人々は知識からでなく自らの体験により学習しました。特にソ連崩壊後の、西側の「裏切り」「失望」は今となっては非常に深い学習効果があったと思います。それは、ロシアの歴史で連綿と続く西欧派とスラブ派の対立に決着をつけるものになる気すらします。

今回の憲法改正で国の方向性が明確になると思います。それは、西部邁氏が語っていた歴史を知り伝統に則り漸進する本来の意味での「保守主義」ではないでしょうか。今後のロシア社会の変化に注目しています。
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西欧派の敗北 (ブログ主)
2020-07-03 17:38:32
石井さん

ありがとうございます。そのプロジェクション(建物を画面に映像を映すやつ)、私も見ました。そう来るかぁとか思って関心してたんです。リンクありがとうございます。

で、おっしゃる通り長々続いた西欧派がついに敗れたって感じが非常にしますね。国権派 vs 西欧派とか、ユーラシア vs the Westとかみんなそう。

しかしロシアが勝ったというよりthe Westがモラル的に破産しているという側面も非常に大きいと思う。

ロシアはロシア、Russia is a civilizationってことですね。個人的には、正教文化圏が保持できたことが非常に大きいとかなり真面目に思ってます。敵はバチカン。
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