何とも、一見無鉄砲で、壮大な試みが開始されたものだ。NHKBSプレミアム番組『グレート・トラバース』の事である。日本百名山を一筆書きで踏破しようとする試みで、名山と名山の間を、乗り物は一切利用せず、自分の力だけを頼りにしでの日本縦断行だ。屋久島の宮之浦岳を出発点とし、利尻島の利尻山をゴールとする大移動である。行くべきルートは陸路だけではない。海を越えねばならぬ時もある。この日本は島々の集合体なのだから。
宮之浦を登り終えて、次の開聞岳までどうやって海路を行くのか、第1集を興味津々の思いで観ていると、カヌーを使用していた。
第2集は紀伊半島の大峰山から、南アルプスの北岳まで。6月上旬でも南アルプスの山域はまだ残雪が豊富だから、雪山経験のあまりなさそうな田中陽希君には大変な危険を伴う縦走になるのではと、半ば心配し、半ば強く興味を魅かれながら、この番組を観た。実は、私は、山仲間と8月1日(金)~5日(火)にかけて、聖岳(標高3013m)を中心にした南アルプス縦走を計画している。だから彼が南アルプスをどのように縦走するのか大変興味があった。雪の状態を知っておきたいとの思いもあった。 恵那山を下山した後、南アルプスに至るルートは、長い道のりで、実に難儀のはずだが、この場面は登場しないで、いきなり、アルプス直下の一つ易老渡(いろうど)から、光岳と聖岳を結ぶ稜線を目指し登り始めた。尾根に出てからは南下して光岳に至り、そこから引き返して北上し「茶臼小屋」で一泊し、聖岳を目指した。残雪の豊富な斜面ではアイゼンを付け、ピッケルを用意して慎重に昇っていたが、一歩踏み外せば滑落死とうい、ハラハラドキドキの場面もあった。特に北岳への急登はキツそうで、登頂を果たして、喜びを爆発させていた姿が強く記憶に残った。次回は8月2日の放映で、南・中央・北アルプス。日本の”背骨丘陵”への挑戦。この番組の最大の山場が待っている。北岳キレットをどう通過するのか。剣岳をどう登攀するのか。(写真:恵那山から南アルプスへの概略図。写真はいずれも映像から)
私たちの南アルプス予定ルートは彼とは逆方向である。便ヶ島から一気に聖岳を目指した後に、聖岳⇔光岳の稜線を南下して「茶臼小屋」に宿泊。その後易老渡へと下る。便ヶ島と聖岳の標高差は2200m。これは最近では経験したことのない標高差である。自分の年齢を考え、事前のトレーニングをいつもより念入りにしている。10キロの重さを詰めたリックを背負い、ラジオ体操を前後に挟んで、毎日、富士神社の階段1000段の上り下り。(写真:光岳⇔聖岳稜線から聖岳を望む)
田中君は聖岳を眼前に仰ぎ見ながらの縦走。雪を付けた聖岳は実に荘厳な美しさ。晴れていれば、私たちは聖岳を返えり見しながら稜線を歩くことになるだろう。(写真:光岳⇔聖岳稜線からの聖岳)
番組では深田久弥の文章がナレーションとし流れていた。
「聖岳が何か世俗を脱した高潔な山のように思われるのは、その名前のせいだけではない。それは日本アルプス三千米峰として最南の僻遠の地にあり、容易に近づきがたいという印象からもきているのだろう。日本の高峰中で一番登山者の少ない山かもしれない。」
(8月3日に宿泊予定の茶臼小屋)
(聖岳山頂からの眺め)
(南アルプスから富士山は近い)