今日、9時半から新宿バルト9で「花のあと」を観て来ました。藤沢周平原作の同名作品の映画化です。
舞台は東北の、架空の「海坂藩」、主人公は組頭寺井甚左衛門の娘以登。物語は60歳を過ぎた以登の回想で幕を開けます。
時は丁度桜の季節。花見の帰り際に出会った男性の準主人公は、平藩士で部屋住み江口孫四郎。朴訥ながら凛とした雰囲気があり、羽賀道場の逸材と言われるほど剣が強く、しかも優しい人物である事が順を追い紹介されて行きます。もう一人の準主人公が以登の許嫁片桐才助。大食漢で、お酒も良く飲み、まだ祝言を挙げぬ以登の臀をさわったりします。風采は上がらぬながら好人物らしく登場してきます。江口孫四郎と好対照です。
以登は父に連れられて行った羽賀道場の2番手、3番手を打ち込んだほどの剣の使い手。その彼女、父に、その折り不在だった江口孫四郎との竹刀での試合を頼みます。実現叶った手合せを通じて孫四郎に心寄せます。
父は「江口孫四郎は好漢だが、二度と会う事はならん。そなたには婿となる男が決まった身だ」と、娘の心を知りながら、言い放ちます。父に言われるまでもなく、以登にも、思い切るしかない想いと分かっていました。
以登や孫四郎の姿、振る舞いが端正です。障子や襖を開け閉めする動作がそれを象徴していました。時折、現れる雪山がいかにも東北の山らしく、たおやかな姿を見せます。この2つの画面がこの映画に気品を与えていると思いました。
江戸幕府への使者に立った孫四郎が自裁したところから、物語は急展開します。藤沢作品は「蝉しぐれ」に代表されるように、主人公が逆境にありながら苦難と格闘し、遂にはそれを乗り越える過程こそが物語の中心になるのですが、「花のあと」では、準主人公は己の”失態”から自害してしまいます。その失態に疑問を感じた以登が許嫁才助の手助けを受けて、江口孫四郎の無念を晴らそうとし決心し、最後は剣を使って思いを遂げます。
この作品の粗筋は何かで読んで知っていましたから、物語がどのように展開していくのか、はらはらどきどきしながらの鑑賞ではありません。細部は知らなくても最後はハッピーエンドで終わることも大よそ分かっていました。それでもこの映画を見たいと思ったのは藤沢作品だった事もありますが、”様式美”を期待し、予定調和に酔いたかったからの様な気がします。それ故、不自然に感じられる成り行きもありましたが、まあ良いかと思ってしまいました。
最後も桜の季節で終わります。藤村志保の回想ナレーションが流れ、回想の物語だった事に気付かされます。
お側用人を演じた市川亀治郎の、押さえた悪役振りが印象的で、北川景子の剣はかなり練習を積んだろうなと思わせるものでした。