江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

江戸城の化け猫  「古今妖談集(広文庫)」

2022-12-10 16:58:04 | 化け猫

江戸城の化け猫

江戸城のお堀(今の皇居のお堀)に、化け猫が出て、それを退治した、と言う話です。

以下、本文。

常憲院様(徳川綱吉 1646~1709年 の法号)が遊興遊ばされたお茶屋の跡の池に、美しい女と、やんごとなき風の男が、小舟に乗って現れ、夜の八つ時より七つの時過ぎの間に、さも面白く唄をうたい、戯れ遊んでいるという怪異が報告された。

その歌は、
「せう(しょう)が承るに おでん棹をさしや 君がかじを取る」と聞こえた。
誠に怪しい事でございます、と吉宗公(徳川 吉宗  1684-751年)に申し上げた。

「にくい妖怪の仕業である。
この歌の せう(しょう)がおでん と云う女は、常憲公のご寵愛の女であった。
常憲公が御在世に、かのおでんに棹をささせて、小舟に乗って戯れ遊んでいた事は、世人には、知られていた事である。
それ故に、この怪異は、狐狸の仕業であろう。」
松下伊賀の守に、「お前は、そこにいって、見定め、鉄砲で打ち留めて来るように。」
と下命した。
松下は、畏れ奉って、命を受けた。

その夜の丑の刻頃に、殿中より、鉄砲を持参し、御小人目付の二人を従えて、北跳ね橋御門より吹上の十三間御門の中に入った。
竹藪の茂った中に隠れながら、御庭伝いに、あの池の水際の繁った松陰に隠れて待っていた。

すると、果たして水上に小舟を浮かべ、男女の姿が現れた。
小歌拍子をとっていたのを、良く見定めてねらった。
松下の鉄砲はあやまたず、ハッシと当たると、船は砕けて、消え失せた。
伊賀の守は、提灯を点けさせて、その近辺を探した。
すると、見事に、止留めていた。
大きさが一丈程の猫のわき腹に、鉄砲玉が打ち込まれていた。
猫は即死して、池の際(きわ)の草むらあたりに倒れていた。


このことを、松下が吉宗公に上申すると、公は大いに喜び、時服を伊賀の守へ、下された。

この後は、再び吹上には、妖怪が出ることは無くなった。

以上、「古今妖談集(広文庫)」より 

 


新説百物語巻三 8、猿 子の敵を取りし事

2022-12-10 15:47:35 | 新説百物語

新説百物語巻三 8、猿 子の敵を取りし事

8、猿 子の敵を取りし事     

   猿の敵(かたき)討ち

若狭の国の百姓で、二匹の猿を大変可愛がっていた者があった。
二匹の猿は、子を一疋生んで可愛がって育てていた。

ある時、この小猿が、庭のまん中で遊んでいたのを、空から鷹一羽飛んで来て、軽々とひっつかんで、大空に飛びさった。
二疋の親猿たちはそれを見て、或いは梢にのぼり、又飛び上って悲しみ泣いたが、何方へ行ったのか、どうしようもなかった。

それから、二疋の親猿は食べもせず、ただただ呆然としていた。

しかし、二三日も過ぎてから二疋の猿は、どこへ行ったか、朝早く出て帰ってこなかった。
皆々 不思議だと思っていたが、やっと八つ時に帰って来たが、魚のはらわたと覚しい物を持って帰ってきた。

その魚のはらわたを、一疋の猿が頭にのせて、前に子猿のいた所にうづくまっていた。
半時ばかり過ぎて、又空より鷹が一羽飛び下りて来て、かの魚のはらわたをつかんで去ろうとする所を、いきなり下から飛びついて、その鷹を捕まえた。
もう一匹の猿も出て来て、二疋して羽根をむしって食らいつき、なんなく鷹を喰い殺して、子猿のかたきを取った。

動物の知恵には、恐るべきものがある。(と語った)

 

 


新説百物語巻三 7、あやしき焼物喰ひし事

2022-12-10 15:38:16 | 新説百物語

新説百物語巻三 7      

7、あやしき焼物喰ひし事     

   ヘビをうまいうまいと食べたこと

さる大国の国守より、一年に一度づつ御領内の調査に役人たちを遣わす事があった。
その国の山家に三百軒ばかりの一村があった。

庄屋が代官とを兼任していて、治めており、富江の何某と言う者であった。
調査(御検分)の侍衆は、その所に滞留して一宿した。
山家の事であるので、ご馳走もなく、料理もおおかたは精進であって、焼物ばかりはさかなであった。
切れ目は鰤のようであって味も思いの外よかった。

その翌日、侍の一人がそのあたりをぶらぶらと歩いた。
すこし高みに小屋のあったのでのぞいて見れば、あるひは香のものような物などがあって、又おおきな桶に魚の切ったのを塩づけにして、五つ六つならべて置かれていた。
侍は、ゆうべのやきものはこの魚であろう、と思った。
「さあ、焼いて食べよう」としてて、四五人打ちよって、火であぶって食べると、言葉にならないほど美味しかった。
二切三切も食べたが、しばらくすると、体中があつくなり酒に酔った様にふらふらとして、足も立たず、身もなえて、正気のあるものは一人もなかった。

それを食べなかった侍の仲間たちは、これを見て大いに肝をつぶして、大騒ぎをした。

庄屋の富江はそれを聞き付けて、そこへ来た。
「もしかして、小屋の内に蓄えておいた桶の内のものをお食べになりませんでしたか?」と問うた。
侍たちは、これまでの様子を話したところ、何やら草の葉を持って来て、水で飲ませた。
しばらくして、みなみな、酔いが醒めもとのようになった。
「これは何でしょうか?。又昨晩は何の事もなく、今日はこのように酔ってしまったのでしょうか?」と問うた。
すると、庄屋はこう答えた。
「特別の物では、御座いません。ここは山奥でして海に遠く、殊の外さかなのは手に入りません。冬になった蟒(うわばみ)が食に飢えて弱った時をねらって、狩り取って小さk切り、塩漬けにして一年中の客に出しております。
この焼物を出す時は、同時に連銭草を浸し物にして付けております。
そうしないと、先のよううに酒に酔ったようになり、四五日も正気にもどらないのでございます。」と。

昨夜、この焼物をたべた者のうちで、なにとやら気味が悪く、吐いたりした者もあったそうである。

訳者注:連銭草は、カキドオシ。利尿、消炎作用がある。ヘビの肉は、通常、中毒(本文では、酔ったようになる、とあるが)を、起こさない。また、連銭草がヘビの毒に有効である、などの事は、古典に記述は見られない。