『浪華奇談』怪異之部 5.狐和歌を感ず
2024.3
大坂に近い同国の平野(大阪市平野区)の郷に道具屋藤八と言う翁(おきな)がいた。
家業のいとまには、折々和歌を詠じて楽しみとしていた。
雅号を好古斎と言った。
かって和州(大和:奈良県)へ行った時に狐火を見て、
きつね(狐)火は 夜ばかりなりは かなし(哀し)や
人のほのふ(炎)は 昼ももへ(燃え)けり
このように詠じて、その後平野へ帰宅した。
ある日、尼が一人で入って来て、好古に対面した。
そして、先日の狐火の歌を書いて下さい、と言った。
藤八は、即座に書き付けてあたえると、
「かたじけない」と厚く礼の言葉をのべた。
そして、戸外へ出たが、又引返して、
「犬がひどく吼え付くので、追い退けて下され。」
と言った。
さっそく大を追いはらってやると、足早に帰ったと見えたが、たちまちに、姿が見えなくなった。
2024.3
大坂に近い同国の平野(大阪市平野区)の郷に道具屋藤八と言う翁(おきな)がいた。
家業のいとまには、折々和歌を詠じて楽しみとしていた。
雅号を好古斎と言った。
かって和州(大和:奈良県)へ行った時に狐火を見て、
きつね(狐)火は 夜ばかりなりは かなし(哀し)や
人のほのふ(炎)は 昼ももへ(燃え)けり
このように詠じて、その後平野へ帰宅した。
ある日、尼が一人で入って来て、好古に対面した。
そして、先日の狐火の歌を書いて下さい、と言った。
藤八は、即座に書き付けてあたえると、
「かたじけない」と厚く礼の言葉をのべた。
そして、戸外へ出たが、又引返して、
「犬がひどく吼え付くので、追い退けて下され。」
と言った。
さっそく大を追いはらってやると、足早に帰ったと見えたが、たちまちに、姿が見えなくなった。