佐渡の河童の妙薬「スジワタシ」
2021.6.30
河童から、妙薬の製法を教わった、という話が、あちこちに、散見します。
所で、妙薬の意味は、不思議に良く薬というものです。
おそらく、商売上、薬の故事を作り上げたものでしょう。いまでも、そんなのがあります。
ただの薬よりは、河童に教わった処方の方が、ありがたいでしょう。
原文では、河童はすべて水神と表記なっていますが、河童に置き換えて、現代語に直しました。
「佐渡の昔話(1)」妙薬スヂワタシ の項より
以下、本文。
佐渡島の小木の港には、問屋が十二軒あった。
その主人たちは旦那衆と呼ばれていて、苗字帯刀を許されていた。
随分と戚張っていたそうだ。
その中でも下中町の鴻池屋は、藍玉問屋で、仲々盛大に商売をしていて、薬種商を兼ねていた。
その売薬中の「スヂワタシ」と称する、水神の絵が商標に付いていた薬は、よく効いたので売行きがよかったそうである。
これには面白い伝説があるから紹介して見よう。
何時の頃か時代は、わからないが、
或る日、鴻池屋の主人(旦那)が厠へ行って用を足していいたところに、河童(水神)が隠れていた。
そして、主人の胆を抜き取るべくねらって、肛門へ手を入れようとしたが、あいにく臭いものの出てくるところで、手が入れらず、ためらっていた。
鴻池屋の主人は、何となく下を見ると、水神が隠れているのに気が付いた。
大抵の人ならば大騒ぎで飛び出て逃げる所であるが、評判の沈着で胆のすわった人であったので、オヤッと思った。
しかし、知らぬふりをしていた。
河童は、用心しているとは知らずに、隙を見てヒョイと手を出した。
それを、鴻池屋の主人は、待ってましたとばかりにつかんで、河童をズルズル引き上げてしまった。
さすがの河童も意外の失敗に困って、逃げる事は出来ずに、縮み上ってしまった。
それを、鴻池屋の主人は、左手で水神の細首をつかみ、右手に小刀を持って、喉元に当てた。
「ニックイ河童め。なんで、このような悪戯をしたのか。
サア覚悟せよ。」と、剌そうとした。
すると、河童は、痩せた手を上げて、
「すこしお待ちください。実は、私は、三味線堀の河童(水神)であります。
ご主人が沈着で胆が据わっていると。お聞きしていました。
その据わった胆を取って見たくて、ねらい始めてから、三年三月たっていますが、なかなか好機を得ませんでした。
それで、今日こそは、と手を出して、失敗してしまいました。
こうなっては殺されるのも仕方がないのですが、私は、これでも小木の河童(水神)社会の親分株です。
その親分ともいわれるものが、この失敗で殺されては、小木の河童(水神)としては、不名誉な事です。
それが残念であるますから、何卒成らぬ堪忍をして、今度だけは、特別の思し召しを以ってお許し下さい。
その代り御当家の七代の末迄、安楽に暮せる飯の種を差し上げます。」
と哀願した。
鴻池屋の主人は、これを聞いて好奇心にかられた。
これは面白いことを言うな、なんだか判らないが、騙されたと思って助けて見よう、と決心した。
「それなら、許してやるが、その飯の種とはどんな事なんだ?」
と詰問した。
河童は、「それは妙薬の秘法です。」
と、薬の処方から製造法、用法まで詳しく伝授したそうだ。
それが、かの河童(水神)の伝授したとの有名なる「スジワタシ妙薬」である。
筋違ひのことならば、治らぬこと無かった故、売れて売れて、鴻池屋は大いに利益を得たと言う。
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