新説百物語巻之五 4、定より出てふたたび世に交はりし事
2023.7
大坂での事である。
ある人が、大屋敷をもとめて、増築などして、その家へ移ってきた。
すると、その家のはるかの地の下から、こんこんと鉦のたたく音が聞こえてきた。
ふしぎには、思いながらその年も過ぎたが、春になってもその鉦の音は止まなかった。
あまりに不思議なので、地の下をおよそ一丈ばかり掘らせると、石の棺があった。
それを掘り出し、ふたを明ければ、やせ衰えた人が入っていた。
頭には髪の毛ばかり、体は、骨と皮とばかりなるものが、鉦をたたいていた。
事情を聞いたが、物をも言わなかった。
それから湯などを与え、そろそろと白粥などを与えた。
その名を聞いたが、覚えていなかった。
時代を聞いたが、これも覚えていなかった。
ただ頭の髪がのびていったばかりであった。
一月たち二月たち、段々に肉もついてきて、その後には、普通の男のようになった。
どう扱うことも出来ないので、台所の片隅において、火などを扱わせた。
四五年も過ぎると、普通に歩いたり、座ったり寝たりが出来るようになった。
しかし、その家の下女と密通して、大坂から駆け落ちした、との事である。
2023.7
大坂での事である。
ある人が、大屋敷をもとめて、増築などして、その家へ移ってきた。
すると、その家のはるかの地の下から、こんこんと鉦のたたく音が聞こえてきた。
ふしぎには、思いながらその年も過ぎたが、春になってもその鉦の音は止まなかった。
あまりに不思議なので、地の下をおよそ一丈ばかり掘らせると、石の棺があった。
それを掘り出し、ふたを明ければ、やせ衰えた人が入っていた。
頭には髪の毛ばかり、体は、骨と皮とばかりなるものが、鉦をたたいていた。
事情を聞いたが、物をも言わなかった。
それから湯などを与え、そろそろと白粥などを与えた。
その名を聞いたが、覚えていなかった。
時代を聞いたが、これも覚えていなかった。
ただ頭の髪がのびていったばかりであった。
一月たち二月たち、段々に肉もついてきて、その後には、普通の男のようになった。
どう扱うことも出来ないので、台所の片隅において、火などを扱わせた。
四五年も過ぎると、普通に歩いたり、座ったり寝たりが出来るようになった。
しかし、その家の下女と密通して、大坂から駆け落ちした、との事である。
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