★子宮内膜症とその自然史
子宮内膜症患者は10代から場合によっては50代まで幅広い年齢層にわたっている。子宮内膜症は加齢によって以下のように変化していくと言われている。患者さんの年齢によって、同じ子宮内膜症でも腹腔内の状態はまったく異なり、同じ子宮温存手術であっても手術の戦略は異なっている。
子宮内膜症は、若年期(20歳以前)に発症し、最初は初期病変の透明水疱や活動性の高い赤色病変であり、生理活性物質を大量に産生して痛みの原因となるが、次第に活動性の低い黒色病変となり(30歳以降)、黒色病変の瘢痕化した一部が深部浸潤性病変へ移行し、活動性を維持して強い臨床症状を引き起こす。(子宮内膜症の自然史、日本臨床 2001増刊号、杉並洋)
私は16歳女性ですでに深部病変のかなり進行した重症例を手術した経験がある。20代ですでにかなりの繊維化がすすんでいる例を見ることも少なくない。つまり、必ずしも全ての患者がこのとおり(上記文献のとおり)ではない。
しかし、20代~30代前半の女性では透明水疱や赤色病変などの腹膜病変が頻繁に見られるし、深在性病変も繊維化や瘢痕化が進んでいないことが多い。一方、30代後半~40代では活動性の高い病変は少なく、活動性の低い白色病変、繊維化の進んだ深部病変が見られることが多くなってくる。
つまり、若年者では活動性の高い子宮内膜病病変が痛みの原因となり、年齢が進むにつれて、慢性的な炎症が続いた結果、繊維化の進んだ深部病変と強い引きつりが痛みの原因となるようだ。(というか、そういうことが多い)
子宮内膜症は月経が何度も発来する間に病変部で出血をくり返して起こし、慢性的な炎症が少しずつ進行してくる。つまり年齢が進むにつれて子宮内膜症も奥深くへとすすんでいく。そうなると深部病変を全て切除しにいくのは困難で、奥深いところにある静脈が傷つきやすく、出血のコントロールが難しい。どこかで深追いするのはあきらめて妥協しなくてはならない。
そういう意味では、10~20代女性のほうが手術は容易であることが多い。しかし、若い女性では病巣を残すと再発しやすいので、繊細で丹念な手術操作が要求される。逆に30代後半-40代女性の場合には繊維化した病巣が多少残っても若年女性ほど痛みが再発しやすくはない。
どこまで攻めるかは腹腔内所見や患者の年齢などで多少異なってくる。たとえば、20代女性であれば、活動性の高い病巣を十分切除するとか、30代後半の女性で繊維化した深部病変は必要以上に切除しない(もちろん癒着や引きつりは完全に解除するのは必要)というのもよい戦略である。もちろん中途半端な切除では治療効果はないから、病変の多くは切除できた上での話である。。
手術のリスクと術者の技量を考えて20代までの女性ではラジカルな手術はしないほうがいい、という意見もある。私はそれも戦略の一つだと思うが、そういう術者のほとんどは深部病変の切除の経験がない。