母がYちゃんに会いたいというので、出かけた。老人介護施設のその部屋は、
静かな人たちがそれぞれにテレビの前や、何をするでもなくテーブルに向かい、
時を過ごしている。午前10時半という時は、おやつも済み、
よけいに動きが見られなかったのだろう。
社会の枠組みから隔てられたかのような、静かな空間には、
ただ時を過ごす人たちがいた。
秋の気配を感じさせる十五夜の飾りが窓際に飾られており、
清潔そうな天井や壁は、落ち葉や椎茸の切りぬきなどで飾り付けられている。
Yちゃんは、笑顔で迎えてくれたが、母が涙ぐみながら思い出話をするのを、
静かに聞いている。会話は弾まず、問いかけににこやかに答えるだけだった。
母よりも年上のYちゃんは、しっかりした人で、むしろ勝ち気な人だったが、
ここで、家族と離れ、何を思い暮らしているのだろう。
母は、時々、父に迎えに来てほしい、施設に入りたいと言うようになった。
自由がきかなくなった体をもてあまし、思いが通らないいらだちと、
家族に迷惑をかけているという思いが頭の片隅を満たしつつ、
それでも生きていかなくてはならない辛さが、言わせているのだとわかる。
それでも、孫自慢をしたり、うまいものを食べると「美味いな」と言って喜ぶ。
痒いところを「あぁ。気持ちが良い、…ありがとう。」というまで搔いてやると、
ホッとした穏やかな顔で「もういい」と言う。
もうそろそろ帰ろうかと思っていると、遠い親戚のOさんが部屋に戻ってきた。
入所しているのを知らなかった。
後で聞くと、ショートステイで今日来たのだという。
彼も、口数少なく、にこやかに、静かに座っている。
施設を辞して、母を車に乗せ、家に向かう道すがら、食事に行こうかと誘う。
ミニ天丼セットはそばも付いており、
さらにコーヒーゼリーとアイスクリームのデザートまで付けて、食べた。
検査の結果は月々に好転しているので、たまには、食べ過ぎても良いだろう。