懐かしい台風と言っては変に思われるかもしれないが、
物心ついてからというもの、わが家は年に2~3回、台風には困らせられた。
小さな頃のことは覚えていないが、猫の手より多少役立つようになってからは、
台風が近づくとお決まりの手伝いがあった。
風があまり強くならないうちに、部屋の畳をあげた後にビニールなどを敷き、
菊の大鉢を部屋に運び込む手伝いをさせられた。
時には、夜中に起こされ、寝ぼけ眼で雨合羽を着込み、雨風の中、この作業をする。
時には、見込みで運び込んだが、結局強風が吹かなかったということも時々あった。
父が年をとってからは、部屋に運び込む代わりに、
庭の一画にカーポートのような物を自作し、その周囲をよしずなどで囲い、
その中に菊鉢を運び込み、風雨を避けるという方法に変わった。
この場合、作業が比較的簡単なので、かなり早い内から作業にかかる。
私は、これが億劫で、「まだ大丈夫だよ」と言って、
ギリギリまで空模様を眺めようとする。しかし父は、前もってやっておきたい。
雨が降る前、穏やかな内に作業を済ませておきたい。
父にとっては、命の次くらいに大事な菊だから、とにかく菊優先だ。
ここ5年くらいは、あまり大きな台風が来ない。だから父の最晩年は、
無駄骨になることが多かった。ぶーぶー言うのもみっともないので、
腹の中で「まったく~」と苛つきながら手伝った。
そんな作業はもう必要なくなった。
昨年の菊は、何とか仏壇に上げる程度に咲いたが、
今年は生かさず殺さずのひどい状態になってしまった。
私のことだから、草葉の陰で嘆いていることだろうとは、締めくくれないが、
こんな風景や
こんな風景が見られなくなったのは寂しい。