ヤンキースの本拠地開幕戦の試合前、催されたチャンピオンリングの授与式。
“トリ”のはずのキャプテン、ジーターが受け取った後、「あと一人残っています」との場内アナウンス。
「Hideki Matui!」とコールされると、超満員の場内から、自然発生的にMVPコールが起こり、スタンディングオベーション。ヤ軍ナインが総出で“赤ゴジラ”を出迎えた。
松井がチャンピオンリングをジラルディ監督から受け取ると、一二塁間に整列していた元同僚たちが松井のもとに一斉に駆け寄って、次々と肩を抱き合い、最後に最も心を通わせたジーターとしっかりと抱き合った。
「そのときだけは一瞬だけでも喜びに浸りたい。リングを取るためにヤ軍で7年間戦ってきたわけですから」「ファンからどんな反応がかえってくるかは想像できない」と語っていた松井は帽子を何度も高く掲げてファンの声援に応えた。記者席でも目をぬぐっていた米国人記者は1人や2人ではなかった。
ヤンキースタジアムの興奮はそれでも収まらなかった。1打席目に松井が打席に入ると再びスタンディングオベーション。左腕ペティットも投球できず、松井が打席を外して赤ヘルメットを掲げ、ファンの声援に応えたほど。
「最初は違和感があったが、打席に出たら打ってやろうという気持ちになった」と言うが、さすがに平常心で挑めなかったのか凡退を繰り返した。それでもスタンドのファンは、敵陣の赤ゴジラが登場するたび、変わらぬ声援を送ってくれた。エンゼルスがアブレイユの満塁弾で2点差まで迫った九回。松井が2死で打席に立つと、やっとブーイングが。
試合後の会見で松井は「非常に感動した。おそらく一生忘れられない瞬間。幸せでした」と語った。ジーターは、「松井は私にとって最もお気に入りのチームメートの1人。プロフェッショナルという言葉がぴったりで、毎日必ず準備を整えてスタジアムに来てくれた。何があろうと言い訳をするのを聞いたことはない。手首を故障して同僚たちに謝罪するような選手にはこれまで出会ったことがない。ホーム開幕戦の場に彼がいることは適切に思えるし、ファンからオベーションを受け取るにふさわしいよ」
見守るファンも複雑な心境だった。ヤンキースの55番のユニホームを着た男性は「松井を慰留しなかった球団の判断は今でも間違いと思っている」と話すと、「今日も縦じまを着て戻ってきてほしかった」と寂しげな表情を浮かべた。また、別のファンは「彼の謙虚な姿勢がずっと好きだった。今日のファンの反応が、彼がニューヨークのヒーローだということの証明」と話した。