訪米した菅義偉首相が4月16日、ジョー・バイデン大統領とともに公表した「日米首脳共同声明」は、習近平国家主席率いる中国の反発を買った。何しろ、台湾海峡やウイグルなど、中国が嫌がる文言を堂々と明記したからだ。
中国側は早速、報復に出た。
中国海軍の空母「遼寧」を始めとする中国海軍艦隊が、沖縄本島と宮古島の間を通過し、4月27日には尖閣諸島空域に偵察ヘリコプターまで飛ばしたのだ。これまで、尖閣諸島をめぐる日中対立は主として海の上であったが、空の上の対立も本格化しつつある。
日米両国も負けていない。
同じ27日、航空自衛隊の戦闘機計15機が、東シナ海と日本海において米空軍のB52戦略爆撃機2機と共同訓練を実施した。
航空自衛隊によると、空自から参加したのは千歳(北海道)、小松(石川)、新田原(宮崎)、那覇(沖縄)各基地のF15戦闘機が13機、百里基地(茨城)のF2戦闘機が2機だった。訓練内容は、編隊を組んでの飛行と、相手の航空機を迎え撃つ要撃戦闘だ。尖閣をめぐる空の戦いに備え、日米両国は戦闘訓練を実施したのだ。
実は、4月16日の日米共同声明には、「米国はまた、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認した」とあるが、その後、こう続いている。「日米両国は共に、尖閣諸島に対する日本の施政を損おうとするいかなる一方的な行動にも反対する」。
主語が「日米両国は」となっているところに注目してほしい。「尖閣有事」に際して米軍は助けに来るだけでなく、平時における尖閣諸島の施政権を脅かす中国の動きにも、米国も日本と連携して立ち向かうと明言し、声明通り、尖閣の空を守る共同訓練のため米軍は爆撃機を派遣したのだ。
中国側も負けていない。中国の情報収集機1機と哨戒機1機が同月30日、東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過してバシー海峡へ向け飛行し、その後反転し、再び沖縄本島と宮古島の間を通過した。
以前の日本ならば、やられっぱなしだったが、いまの日本は違う。
自衛隊は5月11日から14日まで九州・東シナ海において米国とフランス、オーストラリアの各軍との実動訓練「アーク21」を実施した。長崎県・佐世保では図上演習、鹿児島県・霧島では水陸両用作戦、同・鹿屋ではオスプレイの発着、そして東シナ海では防空、対潜水艦戦闘訓練、発着艦訓練などを実施したが、その目的は、離島つまり沖縄県・尖閣諸島を含む南西諸島「防衛」だ。
第2次安倍晋三政権のもとで「自由で開かれたインド太平洋戦略」に基づいて、日本と米国、オーストラリア、インド4カ国の連携を強化し、いまや、英国とフランスも呼応してくれている。日本には仲間がいるのだ。
■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障やインテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞、2019年はフジサンケイグループの正論新風賞を受賞した。著書に『インテリジェンスと保守自由主義-新型コロナに見る日本の動向』(青林堂)、『米国共産党調書-外務省アメリカ局第一課作成』(育鵬社)など多数。