沖縄県の玉城デニー知事は18日、スイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会で演説し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設反対を訴えた。だが、知事として国連に出席するのであれば、日本国内の問題である辺野古移設ではなく、中国が沖縄の一部である尖閣諸島を侵奪しようとしている事実を世界に告発すべきだ。
沖縄県知事が国連人権理事会で演説するのは2015年の翁長雄志前知事以来である。翁長氏は当時、「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている」「自由、平等、人権、民主主義を守れない国が、どうして世界の国々と価値観を共有できるでしょうか」と述べた。国際社会で、公然と日本の民主主義を貶めたのだ。
国連人権理事会で、沖縄の基地反対派に反論する活動に携わったことがある農業の依田啓示さん(49)=沖縄県東村=は、「中国が沖縄に介入する誘い水になりかねない。ロシアも『ウクライナのロシア系住民を守る』という口実でウクライナに侵略した」と懸念する。
将来、中国が知事演説を奇貨として、「米軍基地の被害に苦しむ琉球の人民を救う」と称し、沖縄を日本から分離独立させる動きを本格化させるかもしれない。世界がそれを本気で信じるかどうかは問題ではない。中国にとって大義名分が立つことが重要なのだ。
尖閣問題の本質とは何か。
独裁国家(中国)が、民主主義国家(日本)に侵略を仕掛けているという由々しき事実だ。本来、これこそ沖縄が国際社会に発信し、世界的視野で問題提起すべきテーマである。
当事者の沖縄県知事でありながら尖閣問題をスルーし、中国が喜ぶ米軍基地反対のみ発信する玉城氏の国連演説は、ピントがずれまくっている。
日本は国連との関わり方を見直せ
翁長氏が国連で演説した当時、私は会場で直接取材した。翁長氏の背後で基地反対派や、国連で活動する極左団体が暗躍している状況を目撃した。沖縄県という行政組織が、特定のイデオロギー団体と結託することの妥当性に疑問を感じた。今回の演説も、そうした団体が裏で糸を引いているのかもしれない。
国連そのものも、第2次大戦の戦勝国が幅を利かす旧態依然とした組織だった。国連施設内では世界の諸問題を啓発する展示が行われていたが、案内人からは、中国の人権問題を批判するのはタブーだと説明を受けた。
ウクライナ侵略でも国連はまるで無力だが、慰安婦問題や、今回のような米軍基地問題で日本を誹謗中傷する場としては、効果的に「活用」されているようだ。
日本人には国連信仰がいまだに根強いと言われる。だが、玉城知事の演説を機に、日本は国連との関わり方を改めて見直すべきかもしれない。
仲新城 誠
なかしんじょう・まこと 1973年、沖縄県石垣市生まれ。琉球大学卒業後、99年に地方紙「八重山日報社」に入社。2010年、同社編集長に就任。現在、同社編集主幹。同県のメディアが、イデオロギー色の強い報道を続けるなか、現場主義の中立的な取材・報道を心がけている。著書に『「軍神」を忘れた沖縄』(閣文社)、『翁長知事と沖縄メディア 「反日・親中」タッグの暴走』(産経新聞出版)、『偏向の沖縄で「第三の新聞」を発行する』(同)など。
産経新聞
月20日に日本政府観光局(JNTO)が発表したデータによると、8月に日本を訪れた中国人の数は36.4万人。100万人いたコロナ禍前の3~4割にとどまっている(2019年8月比)。韓国人やアメリカ人はコロナ禍前を上回る数字となっており、中国人観光客の回復の遅れは顕著だ。
「処理水問題」が訪日旅行に影響
日本への中国人団体旅行は今年8月10日、約3年半ぶりに解禁されている。円安も進行し訪日旅行の「お得感」も高まっている。
回復の遅れに影響しているのは、ALPS処理水の海洋放出による中国側の反発だ。
足元ではようやく落ち着いてきたとはいえ、中国の現地報道では、「日本福島核汚染水の第1回海洋放出が終了、現地はどうなっているのか」と題した記事が9月13日付で掲載。「(日本政府には)問題の本質を理解したうえで現実的な解決策が求められている」(中国青年網)と述べている。
2019年には3188万人のインバウンド客が日本を訪れていたが、そのうち30%が中国本土からの観光客だった。日本の観光市場にとって「お得意様」だった中国人観光客の消失を、ホテル側はどう思っているのだろうか。
意外にも、ホテル側の受け止めはいたって冷静だ。
「受け入れ態勢ができていないので、いま中国人団体観光客に来られても困る」と、名門ホテルの幹部は胸をなでおろす。他のホテルも異口同音に「中国人客のキャンセルなどによる影響はほとんどない」と語る。
実際、インバウンドを集客できる都内のホテルの経営状況はコロナから急回復している。藤田観光が運営する1000室以上の大型ホテル「新宿ワシントンホテル」の客室単価・稼働率は現在、コロナ禍前を上回っている。
中国本土からの需要は回復していないものの、家族やグループでの宿泊が多いほかの国からのインバウンド客が増えたことで、宿泊人数が増加し客室単価の上昇につながっているのだ。
客室清掃や調理の人手不足は深刻
ホテル各社がコロナ禍で推し進めてきたある戦略も「処理水問題」の影響緩和に大きく関係している。
それは、稼働率重視から客室単価重視への転換だ。ホテルはこれまで稼働率を高く保つため、多少単価を安くても客室を販売してきた。しかし、コロナ禍を経てホテル各社は稼働率を落としてでも、客室単価を引き上げる戦略に切り替えている。
背景にあるのは空前の人手不足だ。とくに客室清掃や調理の人手不足は深刻で、コロナ禍前ほどの稼働を維持できなくなっている。
また単価重視の販売は経営の改善にもつながる。客室を多く稼働させる場合はリネンやアメニティの交換、清掃などのコストがかかるが、客室単価を上げればそうした費用は抑えられ収益性が向上する。
ホテル側はコロナ禍後の顧客層の変化にも対応してきた。欧米インバウンド客や国内レジャー客は個人旅行が中心だ。こうした個人客は、ホテルが提示した価格で予約をするため単価が高くなりやすい。
他方、中国人は団体客が多い。団体客は数十名など大規模の予約が事前には入るため稼働が高くなるが、旅行代理店へ客室を安く販売することが多い。
人手不足が顕著ないま、「わざわざ客室稼働を上げ、単価を下げてまで中国人の団体客を取らなくてもいい」というのがホテル側の本音なのだ。
次の春節シーズンには中国人観光客が回復?
観光庁が毎月発表している「宿泊旅行統計調査」によれば、2023年7月の業界全体の稼働率は57.8%で、2019年7月の63.6%を下回っている。中国人インバウンド客が戻ってきていないことに加えて、将来的なインバウンドの成長を見据えて宿泊施設の新規開業が相次いでいるためだ。
中国インバウンド客の本格復活は、はたしていつになるのか。中国人インバウンドや中国の越境EC関連のプラットフォーム事業を行っているNOVARCA(ノヴァルカ)の濱野智成社長は、「処理水問題を受けて、中国本土からのインバウンド客の回復ペースは少し遅くなっている。春節シーズンである2024年2月の月間訪日客は50万〜80万人程度になるのではないか」と推測する。
2019年2月の訪日客は、月間72万人だった。濱野氏の見立てでは、半年ほどもすれば、中国人観光客は従来のように戻ってくるということだ。宿泊施設はインバウンドの本格復活に備える必要がある。
東洋経済オンライン