「水揚げしたホタテの約3割が残っており、中国輸出に頼る干し貝柱の行方が気がかり。値段は間違いなく下がるし、来年の見通しも不透明。アメリカに直接売るか、もう少しEUに買ってもらえるようにするか……日々、なんとか前を向いて働いています」
中国の水産物輸入停止が続く中、気丈に振る舞うのは、北海道猿払村漁業協同組合の森豊昭専務理事だ。
ホタテ貝は、日本の農林水産物輸出の稼ぎ頭。2022年の輸出額は過去最高の約910億円を記録し、このうち中国向けが半分以上を占めた。だが、こんなカラクリがある。
「ほとんどが貝のまま冷凍し輸出。中国の加工工場の人海戦術による貝剥き作業を経て、第三国のアメリカへ輸出されるか、中国国内で消費される。いわば、中国が“中抜き”しているわけです」(経産省関係者)
9月4日、政府は中国にかわる海外販路の開拓などに総額1000億円超の支援を行うと発表。
「脱・中国依存」のビジネスチャンスはどの国にあるのか。第一候補が、タイやベトナム、マレーシアなど東南アジア。水産物貿易会社社長が“秘策”を明かす。
「中国市場はないものと考えるのは現実的でないし、中国人は日本のホタテが大好物だからそのうち我慢の限界がくる。ですが日本の加工工場は人手不足で、現状のホタテ余りに即応できない。そこで中国より若い労働力が豊富で親日国でもあるベトナムで委託加工し中国やアメリカへ輸出する手はある。現に食品加工工場ではそうした動きが出ています」
農水省の「国・地域別の農林水産物・食品の輸出拡大戦略」によれば、政府は東南アジアを、日本ブランドの魚を直販する「有望市場」とみている。
「東南アジアは富裕層を中心に日本食志向が高まっている。特に所得水準の高いマレーシアのクアラルンプールが狙い目。5月下旬にタイで開かれた食品見本市でも1匹8万〜10万円のタラバガニや毛ガニがすぐに売り切れたと聞きます」(農水省関係者)
第二の有力候補はEU諸国。実は今、EUへの輸出に追い風が吹いているのだ。
「東京電力の原発事故を受け、EUは福島県産の水産物など10県の指定食品に対する輸入規制を行っていたが、8月3日付で撤廃。さらに19年発効の日EU経済連携協定(EPA)によって、26年にホタテ貝の関税撤廃が予定されている。フランスで開かれた食品展示会では、現地のシェフから好評で試食用ホタテが全てなくなるほどの盛況ぶりでした」(同前)
ただ、課題もある。
「日本より厳しいEU基準の食品衛生管理『HACCP』の認可を取得した工場からでないと輸出ができない。22年時点で対米用のHACCP認可施設が569あるのに対し、EU向けは110にとどまる。日本の工場は設備が古く建物ごと造りかえる必要がある。政府は設備投資の支援を早急に行うべきです」(前出・経産省関係者)
そしてもうひとつ、今すぐ実践できる、即効性のある対策が「ふるさと納税」だ。
ホタテ漁が盛んな北海道別海町では、寄付額8000円で冷凍ホタテ貝柱(20粒前後)を返礼品として受け取れる。8月24日以降、寄付が急増し、昨年の同じ時期と比べ、寄付件数は8倍にまで増えた。
「全国各地から応援メッセージが寄せられ、とても励みになっています。10月1日から納税ルールが厳格化されることを受け、寄付額を引き上げる予定でしたが、国民の皆様に別海町のホタテをたくさん食べていただきたいという思いから、当面の間寄付額を堅持します。別海町に限らず国産の水産物の消費拡大にご協力をお願いしたいです」(総合政策課担当者)
日本の水産物の魅力を国内外に広げる絶好の機会。厄介な隣人の禁輸を、過度に恐れる必要はない。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年9月14日号)
大阪・日本橋の工事現場に不法に侵入したとして、国内で迷惑行為を繰り返していた米国籍のインターネット配信者が逮捕された事件で、大阪府警南署は22日、共犯として別の米国籍の男(24)を建造物侵入容疑で逮捕した。捜査関係者への取材で分かった。
男の逮捕容疑はネット配信者、ジョニー・ソマリことイスマエル・ラムジー・カリド容疑者(23)と共謀し8月下旬、大阪市中央区日本橋のホテル建設予定地の工事現場に侵入したとしている。
男は「迷惑系配信者」として知られるカリド容疑者が覆面姿で工事現場を歩き回る様子を撮影し配信していたとみられる。
産経新聞