ホタテの殻むきは手作業。加工しても出荷のめどは立たない=20日、北海道枝幸町(坂本隆浩撮影)
東京電力福島第1原発処理水の海洋放出をめぐり、中国が日本水産物の輸入を全面停止したあおりを受け、北海道のオホーツク地方では名産ホタテの出荷が停滞。在庫が積み増し、水産加工会社を中心に影響が深刻化している。 オホーツク海に面した北海道枝幸(えさし)町。町営の冷凍冷蔵施設では、冷蔵室の高さ約8メートルの天井に届きそうなほど、ホタテなどの加工品が積み上がっていた。担当者は「すでに9割近くまで埋まった」。新たな保管スペースを確保するため町外へ出向く業者も出ている。 秋サケの定置網漁も始まっており、その保管スペースも必要だが、町の担当者は「この先どう対応すればよいのか全く読めない」と頭を抱える。 長年、ホタテ加工を手がける「枝幸海産」の松島修一社長(63)は「出荷はほぼ止まっている」と肩を落とした。 枝幸町は、オホーツク海に面した人口約7200人の町。水産業や酪農が地元経済を支えており、漁港周辺には中小規模の水産加工業者が点在している。 松島さんの会社は、商社などからの依頼に応じて原料ホタテを調達。殻から貝柱だけを取り出し、急速冷凍して出荷している。 ところが、先月24日に東京電力第1原発で処理水の海洋放出が始まって以降、注文が激減した。ホタテ加工品の在庫は80~90トンまで拡大。収入は落ち込み、地元金融機関のつなぎ融資でどうにかしのいでいる。 人件費や資材費高騰など、今回の禁輸のほかにも経営への影響要因は多く、松島さんは「本当に厳しい。国には具体的な支援策を早く示してほしい」と訴える。 21日、北海道庁で関係部局の庁内連絡会議が開かれた。会合は7回目。最新状況が報告されたものの、刻々と変化していることもあり、具体策は出ないままこの日の会議も終わった。 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、わが国のホタテの輸出額は令和4年、911億円。このうち中国向けは467億円で約51%に上る。 全体のうち北海道分は597億円で約66%。さらにこのうち中国向けは434億円で、北海道分の実に約73%を占める。 オホーツク海は、流氷が運んでくる植物プランクトンのため栄養豊富な海。深い甘みが特徴のホタテは、一般的に4~5年間、自然に成長させ、その後、計画に沿って水揚げされる。そのため急な生産抑制は難しく、今回のような滞留が発生すると、影響は加工業者に重くのしかかる。 猿払(さるふつ)村も中国が最大の輸出先。村の漁協が放出前の7月、香港側と商談した際は「20%引き下げ」を要求された。交渉で下げ幅は圧縮できたものの、今後の交渉は不透明なままだ。 漁獲量を制限する動きも出ている。雄武町(おうむ)では今月に入り、地元のホタテ漁船10隻が1日当たりの水揚げ量を18トンから15トンに引き下げた。 町の担当者は「加工業者の在庫増や価格の値下がりなどに配慮したもの」と説明する。 道は現在、道議会で審議中の補正予算案にホタテなどの国内向け販売促進に8800万円を盛り込んだ。また、量販店と連携したキャンペーンやふるさと納税で返礼品に水産物を選ぶことによる支援、道庁の食堂にホタテメニューを取り入れるなど、できる対策は進めている。だが、国の支援策頼みなのが実情だ。 紋別(もんべつ)市の水産加工会社「丸ウロコ三和水産」の山崎和也社長(53)は「今回、漁業者への影響は少ない一方で、加工業者は在庫がたまり、商社は『もっと安くなるのではないか』と待ちの姿勢でさらに在庫が積みます状況を招いている」と説明。「滞留しているホタテを国が全量買い取り、安価に提供するなど国が積極的に介入してほしい」と訴える。 加工業者の関心の的は、禁輸のきっかけとなった処理水放出をめぐり、東京電力が表明した輸出にかかわる被害の賠償だ。対象要件や申請手続きなど具体的な内容がまだ見えず、業者の間では「早く示してほしい」と不満がくすぶる。(坂本隆浩) 産経新聞
東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出をめぐり、中国が日本産水産物の輸入を停止するなど風評被害が懸念されたが、現状では国内の飲食店に目立った影響は出ていない。インバウンド(訪日外国人客)消費も好調で、百貨店では免税売り上げが伸びている。
外食産業の約3万7千店が加盟する業界団体「日本フードサービス協会」の担当者は、処理水放出が始まった8月に関し、「加盟会員へのヒアリングで、売り上げが悪化したという話は聞こえてこない」とする。
回転ずし大手のくら寿司の8月の既存店売上高は、前年同月比で10・1%増、客数は5・4%増となった。9月も順調で、処理水放出の影響はみられないとしている。
同社は22日から、中国による日本産水産物の輸入停止を受けた国内漁業の支援策として、北海道産などのホタテを使った握りずしのキャンペーンを始めている。
うどんやそば店を展開するグルメ杵屋は、8月の既存店売上高が前年同月比24・1%増だった。広報担当者は「空港や京都、大阪、東京など観光地の店舗で欧米の訪日客が増えている」と話す。
一方、関西主要9百貨店の8月の売上高は、旺盛なインバウンド需要に支えられ、全店舗で前年同月を超えた。
【北京共同】中国海事局が東シナ海で移動式掘削船が活動すると発表し、その後撤回したことについて、中国政府は22日までに外交ルートで日本政府に「発表は入力ミスによるものだ」と釈明した。日本政府関係者が明らかにした。
中国海事局は当初、中国の引き船が掘削装置「勘探8号」をえい航し、浙江省近海から沖縄本島北西に移動させると発表した。活動海域が日中中間線の日本側に及んでおり、日本政府は「受け入れられない」として申し入れを行った。中国は21日午後に発表を撤回し、日本政府に伝えた。
共同通信