有事に備えた連携強化を進める海上自衛隊と海上保安庁で護衛艦や巡視船など13隻が同じ名称を使用しており、海自と海保が解消に向け調整していることが18日、関係者への取材で分かった。訓練や実際のオペレーション(作戦行動)で混同するリスクを避けるのが目的。ただ長年親しまれた名称に対する隊員らの思い入れも強いといい、伝統ある艦船名の改名には困難も伴いそうだ。
関係者によると、海保の巡視船艇と名称が重複しているのは、海自の護衛艦「きりしま」や潜水艦「うずしお」など計13隻(今年5月現在)。
能登半島沖で平成11年に発生した不審船事件では、海保の巡視船が威嚇射撃をしたが追いつけず、政府が自衛隊法に基づく初の海上警備行動を発令した。だが北朝鮮の工作船とみられる不審船は逃走。国会では当時、海自と海保の連携の悪さや艦船名の重複が多いことなどが問題視された。
海自と海保は15年、新造船を命名する際は重複を避けることなどを事務レベルで合意。重複する名称は約20年間で3分の1に減少している。
一方、重複する名称が復活するケースもある。海自の輸送艦と同名の海保の大型巡視船「おおすみ」は令和4年2月、「さがみ」に改名されたが、「おおすみ」の名は今年4月に竣工(しゅんこう)、配属された新造の大型巡視船へと引き継がれた。
海保幹部は「おおすみは別格の名称。思い入れが強い隊員も少なくない」と明かす。第11管区海上保安本部(那覇)前本部長の一條正浩氏は「艦船名は隊員の誇りでもある」と話す。
海自の護衛艦は気象や山など、掃海艦や掃海艇には島や海峡にちなんだ名を付けるルールがある。海保も大型巡視船は半島や岬、小型の巡視艇は滝にちなんだ名を付けるなどの決まりがある。
尖閣諸島(沖縄県石垣市)や台湾を含む東シナ海の情勢は緊迫度を増している。一條氏は「現場では艦船番号を付して連絡を取り合っており、艦船名の重複で混乱は生じない」としつつ、「(重複が解消されれば)武力攻撃事態の国民保護計画で、避難民を搬送する際には住民の混乱を避けられる」と指摘する。(大竹直樹)
産経新聞