グローバル化が進み、世界経済の相互依存が強まる中、経済活動を通じて国家や国民の安全を害する行為を未然に防ぐ経済安全保障の重要性が高まっている。特に、中国は近年、政治的に対立する他国に対する輸出入規制をはじめとする経済的威圧で、民主主義国家との対決姿勢を強めている。日本はこうした威圧行為にどう対処すべきか。経済安保に詳しい国際文化会館地経学研究所の鈴木一人所長に聞いた。(岡田美月)
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東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を巡る日本産水産物の全面輸入停止をはじめ、中国は経済的手段を通じて政治的に対立する他国に圧力をかける経済的威圧を世界中で展開している。こうした威圧行為に対抗する手段や能力を確保することが経済安保の要諦となる。
産経新聞
沖縄県・尖閣諸島が、中国名・釣魚島となっている
中国政府が公表した地図
処理水問題では批判をしながらも、領土問題では譲歩したかたちだが、中国は「岸田首相はくみしやすい存在だ」と思ったはずだ。しかし、これは物事の軽重を誤った判断ではなかったか。 処理水問題は、中国への輸出に依存していた日本の海産物業者には痛手だが、禁輸が1年続いても日本の国内総生産(GDP)への影響は0・03%と限定的だ。中国のインバウンド(訪日客)需要が減っても、やはり影響は限定的である。関連業者を支援しつつ、中国への依存から脱却していく。これらは取り返しのつく問題だ。 一方、領土は一度奪われると、戦争でもしなければ取り返せない。 ロシアが不法占拠する北方領土や、韓国が不法占拠する島根県・竹島がその例だ。だから実効支配は絶対に譲ってはならず、「譲らない」との国家の断固たる意志が必要だ。地図問題こそ、一層強い名指し批判が必要だったはずだ。 さらに、尖閣諸島は中国の台湾侵攻とも密接に関連する。侵攻の際に、中国が地対空ミサイルを設置するとみる軍事専門家もいる。「台湾有事」を避ける意味でも、尖閣諸島領有について日本政府の強い意思表示が必要だが、岸田首相の姿勢は「弱腰」との印象を与えたはずだ。
(麗澤大学教授) 産経新聞