各チームは発生から間もなく、迅速に態勢を整えて現場に向かい、過酷な状況下で懸命に活動している。ただ、一部のチームは道路状況や地震直後の混乱などから、思うように医療活動に当たれなかったとも聞く。災害には医療も含めた関係機関が連携して対応すべきだが、今回も連携はまだ十分とはいえない。各機関が連携しての組織戦が実現してこそ、医療の力も100%生かされ、救える命を救うことにつながるはずだ。
米国には大規模災害時、関係機関が迅速に初動対応に入れるよう、対応を一元的に担う米連邦緊急事態管理庁(FEMA)がある。日本も南海トラフ地震など大規模災害が今後予想される。今回の地震を教訓に、日本版FEMAの創設も視野に入れ、議論を進めていくべきではないか」(聞き手 小川恵理子)
この作業は入所者100人のうち、ケアの必要性が高い人を環境の整った施設に移し、自らも被災した職員の負担を減らすのが目的だ。施設側からは、自力で排尿できず尿道カテーテルを装着したり、たん吸引の補助などを必要としたりする計11人の移送要請があった。
ほぼ寝たきりの女性を担架に載せ、救急車が出発した。路上はひび割れ凹凸も相次ぐ。スピードを落とし、慎重な運転を続ける。約5キロ離れた別の施設に到着後も順番待ちがあり、引き渡しまでに1時間以上かかった。
横浜市大DMATのリーダー、加藤真医師(48)は「1人移送するだけでも労力と手間がかかる」と明かす。この日朝の時点で、珠洲市で活動する各隊にあった移送要請は200人超。被災地の人員だけではとても追い付かない。
患者移送に注力
DMAT事務局(東京)によると、能登半島地震で全国から累計で650隊、3千人以上のDMATが派遣された。厚生労働省のまとめでは、22日時点で輪島市や珠洲市を中心に149隊が活動している。
地震から1週間、各隊は早急に治療が必要な重症患者や透析患者の病院搬送に集中。2週目以降は、水や暖房がないといった劣悪な環境の福祉施設に入所する高齢者の避難・移送に移る。
活動全体の指揮を執るDMAT事務局の近藤久禎(ひさよし)次長(53)は「高齢者は重症化しやすく、災害関連死に至る恐れもあるため、対応が特に重要だ」と言い切る。
ただ、能登半島では多くの道路が土砂崩れなどで通行止めになり、一部道路に車両が集中。渋滞で患者の移送などに想定以上の時間を要した。空路や海路も限られ、近藤次長は「過去の災害で1週間で終わる作業が、今回は2週間余りかかった」と打ち明ける。
負担減らす役割
阪神大震災から10年後の平成17年に生まれたDMAT。被災地で急性期(おおむね48時間以内)の医療活動に当たる印象が強いが、今は病院支援や被災地外への患者搬送など役割が広がる。
生理用品やおむつ、嚥下(えんげ)食などの物資が、被災地の医療・福祉施設に混乱なく届いたかチェックするのもDMATの任務という。横浜市大DMATの一員で同大付属病院の小川史洋医師(46)は「病院や施設を支える人たちも被災で精神的な負担が大きい。彼らの負担を減らすのも私たちの役割」と話す。
今回の地震はインフラ復旧にも時間を要し、避難生活は長期化する見通しだ。DMATが搬送した高齢者らの多くは金沢市周辺の施設に「2次避難」中で、中長期的なサポートが必要となる。近藤次長は「今後は避難先周辺での医療体制拡充がDMATの任務の中心になる」としている。(北野裕子、鈴木文也)
「連携不十分、組織戦で対応を」
杏林大の山口芳裕教授(救急医学)の話
各チームは発生から間もなく、迅速に態勢を整えて現場に向かい、過酷な状況下で懸命に活動している。ただ、一部のチームは道路状況や地震直後の混乱などから、思うように医療活動に当たれなかったとも聞く。災害には医療も含めた関係機関が連携して対応すべきだが、今回も連携はまだ十分とはいえない。各機関が連携しての組織戦が実現してこそ、医療の力も100%生かされ、救える命を救うことにつながるはずだ。
米国には大規模災害時、関係機関が迅速に初動対応に入れるよう、対応を一元的に担う米連邦緊急事態管理庁(FEMA)がある。日本も南海トラフ地震など大規模災害が今後予想される。今回の地震を教訓に、日本版FEMAの創設も視野に入れ、議論を進めていくべきではないか」(聞き手 小川恵理子) 産経新聞