能登半島地震に関する「デマ」や「偽情報」が出回っている。注意も呼びかけられているが、嘘ならバレるのでまだマシで、タチが悪いのは、もっともらしく語られる「論評」だ。政権批判に利用したい意図があるのだろう。中には、「自衛隊が遅い」などと批判の相手を取り違えている人もいるようだ。
「東日本大震災以降、国民の自衛隊に対する理解が高まった」と言われている。本当だろうか。私からすれば、「誤解が高まっている」ようにしか見えない。
自衛隊は国防の組織であり、他国の侵攻を防ぐことが第1の任務である。災害派遣の途中でも、万が一、有事が起れば被災地を離れなくてはならない。それなのに、自衛隊は「いつでも助けに来てくれる」スーパーマンのように思っている人が多すぎる。
災害対処の責任は、地元自治体にある。ただし、自治体職員も被災者となり、冷静な判断ができない状態に陥っている可能性がある。自衛隊が足らざる部分を補い、「要請を提案する」ことはあり得る。しかし、あくまで自治体機能が回復するまでの一時的措置でなければならない。
誤った論評の中で、「初動が遅い」というのは逆に驚かされる。
自衛隊では発災の約20分後に千歳基地のF15戦闘機が偵察のため離陸し、陸海空自衛隊の航空機が飛び、約1時間後には陸自の金沢14連隊が前進を開始している。29年前の阪神淡路大震災では、自治体からの要請が4時間後にしか出ず自衛隊派遣が遅くなった。現在は、要請を待たずに自主派遣できるよう自衛隊法が明確化された。
今回は元日という、ほとんどの隊員が休暇だったが動きは速かった。単身赴任の隊員には、久しぶりに家族と過ごす時間だった。大みそかまで勤務で、単身先から帰宅した瞬間の地震だった人もいる。「おかえりなさい」を言い終えることもできず、用意した料理を前に多くの家族は隊員たちを送り出したのだ。 初動1000人という人数も批判されている。
ただ、これまで早々に派遣規模を発表したため、その数に縛られて、人員を出したのに結果的にすることがなく、長い間、待機するしかなかったという前例が多々ある。今回の判断は妥当だろう。
「戦力の逐次投入」という批判もあるが、道路が寸断されて近づくことができないのに、一気に隊員を入れてどうするのか。「展開地域や兵站は行ってから考えればいい」というのか。被災地に総監部などが所在した熊本地震と比べて状況は異なる。小規模の自衛隊しかない今回のケースでは、状況判明に応じて増やしていく方法が最善だ。
「空から物資投下はできないのか」との批判も聞くが、可能な場所にはヘリから物資輸送は行われている。今回ほど航空力が投入されていることはないのだろう。ヘリの飛行可能時間、ギリギリのところで任務を行っている。そもそも、ヘリが下りられない場所に上から物を落とすのは、地上の人には大変危険だ。
陸自第1空挺団の降下訓練始めを見てか、「被災地にパラシュートで降りるべきだ」などという声まで出たという。仮に、そこに降下した隊員はどうやって戻るのか、一人が運べる限定的物資を運んだ後は、被災者とともに支援を待つというのか。
「災害に見舞われても国の防衛は決して怠っていない」という姿を示すことが極めて重要であり、「今なら油断している」と思わせてはならない。被災地である日本海側は北朝鮮による拉致の現場でもある。災害時だからこそ、「二度と主権侵害を許さない」という高い防衛意識を持ってしかるべきだろう。
桜林美佐 産経新聞