能登半島地震の直後、交流サイト(SNS)上には被災者を装って救助要請するなど悪質な投稿が相次いだ。ほとんどが閲覧回数(インプレッション)に応じた収益を狙う投稿者「インプレッションゾンビ」の仕業とみられ、大半が海外からの投稿だった。1日で地震から2カ月。こうした偽情報は迅速な救助活動の妨げにもなり、政府も対策を急いでいる。
《息子がタンスの下に挟まって動けません。私の力では動きません。頼みの綱がXしかない。助けて》
元日の地震直後、X(旧ツイッター)には石川県七尾市の実在する住所地とともに、救助を求める内容が日本語で投稿された。少なくとも20以上のアカウントがこの投稿を拡散し、中には36万回以上閲覧されたケースも。海外のアカウントにも全く同じ文面の投稿が散見された。
この住所地には40代女性が住んでいたが、女性に息子はおらず、すぐに偽情報と判明。女性宅は被災したが被害は小さかった。ただ、投稿をもとに通報を受けた警察は、女性宅を訪問するなど確認に追われた。
これ以外にも虚偽の救助要請に基づき、消防が出動したケースが少なくとも2件あった。
X仕様変更影響
偽情報への対策について、総務省はインターネット事業者らも参加する検討会で議論を進めている。2月22日の会合に出席したLINEヤフーは地震に絡み、偽情報を含む不適切な投稿1821件を1月末までに削除したと説明。偽情報とすぐに判断するのが難しいケースもあり、「具体的な情報交換の枠組みがあれば」と訴えた。
偽情報の拡散は平成23年の東日本大震災でも確認。28年の熊本地震では「動物園からライオンが逃げた」とのデマを投稿した男が偽計業務妨害容疑で逮捕された。
目立つ途上国発
今回の地震後、X上では地震や津波といったキーワードが急浮上。投稿者は話題に便乗して収益を得ようと、地震と全く関係のない投稿にまで、検索目印「#(ハッシュタグ)」とともに、「地震」や「津波」などのキーワードを添えた。
こうした便乗投稿者は「インプレッションゾンビ」と呼ばれ、急増している。分配される収益は多くて数万円と高額ではないが、途上国では貴重な収入源になっているとされる。実際、アジアの途上国からも便乗投稿があった。
40代女性の関係者を装った偽情報の投稿も海外のアカウントが拡散し、キーワードとして「SOS」「能登地震」との表記があった。村上氏は「日本語が分からなくても救助を求める投稿だと判断し、文面をコピー&ペーストして投稿したのだろう」と推察する。
有効活用の側面も
SNSの分析に詳しい東京大大学院の鳥海不二夫教授(計算社会科学)によると、能登半島地震で実際に救助を求めたとみられるXの投稿は数十件程度だった。ただ、救助を求めた投稿が14万回拡散されたケースもみられ、情報を早く広く迅速に伝えられた側面もあった。
地震発生後、「助けて」や「SOS」「拡散希望」などの単語を含むX上の投稿について鳥海氏が解析したところ、地震当日だけで約17万件あったことが判明。拡散分も含めると全体で約235万件にのぼった。
投稿内容の大半は地震とは無関係で、キーワードに便乗した「インプレッションゾンビ」も一定数含まれているとみられる。こうした投稿は地震が発生した元日夕方以降に爆発的に投稿・拡散されたが、2日には約100万件、3日には約50万件にまで減少した。
実際に地震による救助を求めたとみられる投稿は100件に満たなかった。ただ、「生き埋めになった」との投稿が約14万回にわたって拡散され、後に本人から生還できたことが報告されるなど、被害の実情が迅速に伝わる側面もあった。
鳥海氏は「(救助要請の)情報の中には誤ったものも含まれていたが、全体から見れば極めて多かったというわけでもない。災害時には誤った情報には注意しつつも、SNSを情報発信ツールとして有効に活用することが望ましい」としている。
産経新聞