日本で働く外国人労働者は204万人(昨年10月時点、厚生労働省発表)と、過去最多となった。このうち41万人と約2割を占めるのが技能実習生だ。劣悪な環境などを理由に昨年は過去最多の9753人が実習先から失踪している。当事者の「告白」からは、さまざまな産業で安価な労働力として使われている日本の外国人労働者の「歪み」が透けて見える。
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技能実習先から失踪した経緯を語るチャン・ティー・タインさん=東京都内© 産経新聞
「職場で嫌がらせを受けて、つらかった」。ベトナム籍のチャン・ティー・タインさん(28)は、実習先から姿を消した理由を、こう打ち明けた。
「お金を稼いで家族をサポートしたい」と友人から60万円ほどの金を借り、母国の送り出し機関に支払って令和4年9月に来日した。
実習先は、兵庫県・淡路島の農業関係施設。送り出し機関では「室内で野菜の箱詰めや袋詰めの作業をする」と説明を受け、手取りで月20万円ほどの先輩実習生の給与明細も見せられたという。
ただ、実際には屋外での野菜の収穫や運搬作業などもあった上、手取りは平均で12万円ほど。「土日は基本的に休み」と聞いていたが、実際には週休1日で、前日に突然、翌日が休日だと告げられる形だった。
出勤停止の間は無給という重い処分。外泊や電話の使用についていずれも事前の説明はなく、後から「そういう決まりだから」と告げられた。
「仕事できないならやめて」
特に辛かったのが、職場の人間関係だった。
同じくベトナムから来た女性の先輩実習生と寮生活をしていたが、トイレットペーパーの交換を忘れたことを「掃除をちゃんとしていない」と会社に報告され、当番制だった掃除係を毎日させられることになった。
職場でも慣れない作業で時間がかかっていると、先輩から「仕事ができないならやめなさい」と追い詰められた。他の寮に移ることを希望したが聞き入れられず、事務所のスタッフからも「仕事が全然できない」と小言を言われた。
同じ時期にベトナムから来た同僚は、数カ月で失踪。我慢しながら働き続けていたチャンさんも「毎日のように『始末書を書くように』と言われ、何を書けばいいかもわからなかった」と、限界を迎えた。
来日から1年あまりが経った5年11月。始業時刻の2時間以上前にそっと寮を抜け出し、早朝発のバスに乗り込んだ。頼ったのは、「交流サイト(SNS)を通じて知り合った」という同郷の友人だった。
友人は、単純労働をする外国人を受け入れる制度として平成31年4月から運用が始まった「特定技能」の在留資格で来日していた。家事や掃除の手伝いをする条件で住まわせてもらいながら生活し、その後、失踪実習生らの支援を行っているNPO法人「日越ともいき支援会」(東京)の保護を受けることになった。
「もっと働きたい」
出入国在留管理庁によると、令和5年の技能実習生は約50万人。国籍別ではベトナムが最も多く、5481人だった。
技能実習制度は元々、日本で学んだ技術を母国へ還元させるのが目的だったが、実際には人手不足を埋める手段となっていたことが、長らく批判の的となってきた。人間関係に悩み、思い詰めた末に姿を消すチャンさんのようなケースは無数にある。
政府は令和9年から技能実習制度を廃止し、育成と就労の両方を目的とした「育成就労」の新制度を始める。特定技能へとスムーズに移行させ、外国人労働者を取り巻く問題を解消したい考えだが、そのためには個々の外国人を「労働力」としてだけでなく、一人の人間として扱うことが不可欠となる。
日本に来る際、友人から借りた金を返済し終えたというチャンさんは今、「もっと日本で働きたい」と思っているという。
「どんな仕事でも頑張れる。でも、後輩も先輩も、みんなが平等なところがいい」と語った。(梅沢直史) 産経新聞