初外遊で李首相と会談 存在感示そうとしたが…
石破茂首相は10日、ラオスの首都ビエンチャンで、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席した。その後、中国の李強首相との首脳会談では、中国による日本周辺での軍事活動の活発化などに深刻な懸念を表明し、9月に中国広東省深圳市で起きた日本人男児刺殺事件の説明を求めた。「15日公示・27日投開票」の衆院選を見据えて、就任後初の外遊で存在感を示そうとしたようだ。ただ、出発前に強行した、派閥裏金事件をめぐる旧安倍派議員らへの「非公認」「比例重複を認めず」という〝二重処分〟については、「安倍派潰し」「令和の大獄」などと党内外の批判も多い。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が考察した。
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石破政権の先行きに、早くも暗雲が漂っている。
27日の衆院選投開票日を待たずに、自民党内で「石破降ろし」が始まっていても、おかしくないほどだ。選挙で敗北すれば、「倒閣」の動きが一段と加速するだろう。
自民党の反乱は、地方から始まるのではないか。
7日付の読売新聞が、そんな予感を抱かせる記事を掲載した。政治資金規正法で定められた収支報告書に不記載があった議員の大半について、「所属する党都道府県連が衆院選の公認を党本部に申請した」という。
石破首相は、旧安倍派の西村康稔元経産相や萩生田光一元政調会長ら6人を「非公認」とした(=9日に12人に拡大)ほか、不記載があった40人程度の議員について「比例区での重複立候補を認めない」考えを示した。この決定は、都道府県連にとって「寝耳に水」だったに違いない。
中には、公認はもちろん、比例区への重複立候補も前提にして、選挙準備を進めていた都道府県連もあったはずだ。いや、多くの県連がそうだったろう。石破首相は、そんな地元の意向をひっくり返してしまった。
これで、地方の県連が怒らないはずはない。多くの人は「政治は永田町の政治家がやるもの」と思っているが、個々の政治家を支えているのは、言うまでもなく、地元の党員や支援者である。
平時であれば、政治は国会議員の判断で動いていくが、いまは明らかに乱世だ。こうなると、国会議員も地元の意向を反映して動かざるを得なくなる。「地方の怒り」が「石破政権に対する本格的な反乱」につながっていく可能性は十分にある。
処分された候補者の「非公認」や、「比例区での重複立候補を認めない」のは、衆院選で石破政権にプラスに働くだろうか。
私は決断を評価する声より、結果的に「議席を減らす効果の方が大きいのではないか」とみる。
西村氏や世耕氏らの動向に注目
もともと、「政治とカネ」のスキャンダルにまみれて、「ダメ自民党」という逆風があった。岸田文雄政権に代わって誕生した石破政権は、相次ぐ公約の棚上げで「ダメダメ石破」という評価が定着した。「ダメの3連発」である。
そんな政権が、問題を抱えた候補者の「非公認」や「重複立候補を否定」したところで、「よくやった。それなら投票してやる」という話になるか。ならないだろう。ダメの3連発が2連発になった程度だ。
それよりも、候補者が選挙で苦戦したり、比例復活がなくなって、自民党は全体として議席を減らすだろう。自民党の単独過半数(233議席)はおろか、公明党と合わせても、連立政権の維持が難しくなる可能性すらある。
与野党のどれもが単独で過半数をとれない状態になれば、総選挙後は「連立の組み合わせゲーム」が始まる。加えて、私は無所属で戦う西村氏らや、同じく自民党を離党して無所属になった世耕弘成元参院幹事長らの動向に注目している。
彼らは当選したら、自民党にすんなり戻るだろうか。そうは思えない。彼らは自民党復帰を「石破首相の辞任」と引き換えにするかもしれない。石破政権が衆院選で敗北し、政権維持がギリギリの状態になっていれば、十分、あり得る展開ではないか。
政局は、まさに「一寸先は闇」の局面に突入した。
長谷川幸洋
はせがわ・ゆきひろ ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。