首都圏を中心に相次ぐ強盗などのうち、千葉県市川市の住宅が複数の男性に押し入られ、住人女性(50)が連れ去られた事件で、実行役が住人の女性からキャッシュカードの暗証番号を聞き出そうとしていたことが捜査関係者への取材で判明した。
口座からは現金が引き出された形跡があり、千葉県警は、暗証番号を確かめるため、女性を車に乗せて連れ去ったとみて調べている。
事件は17日朝、帰宅した住人の母親(72)が室内が荒らされているのに気付いて判明した。同居の女性は連れ去られており、17日夜に埼玉県内で保護された。
千葉県警は女性と一緒にいた職業不詳の藤井柊(しゅう)容疑者(26)を監禁容疑で逮捕。また、自称・内装工の高梨謙吾容疑者(21)を強盗致傷容疑で逮捕し、住宅に押し入った実行役とみている。 捜査関係者によると、女性は住宅で就寝中に、3人組の男性に粘着テープで体を縛られ、殴られるなどした。実行役は女性からキャッシュカードの暗証番号を聞き出そうとしていたという。
住宅からはクレジットカードや携帯電話、軽乗用車などが盗まれていたが、キャッシュカードも奪われていた。そのカードを使って現金が引き出されたとみられる。
女性の家族によると、女性は実行役に暗証番号を伝えたが、その後も暴行を受けたという。
千葉県警は、実行役らが逃走中にカードを使って現金を引き出したとみている。高梨容疑者は市川市の事件の前日16日に千葉県白井市であった強盗致傷事件への関与をほのめかす供述をしており、千葉県警は同一の指示グループがいるとみて関連を調べている。
【林帆南】毎日新聞
7日投開票の東京都知事選に立候補し、次点となった前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏(41)が、2020年の広島県安芸高田市長選に立候補した際の選挙ポスターの製作などの報酬代金の一部が未払いだとして、広島市の印刷会社から石丸氏が約73万円の支払いを求められた訴訟で、最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は、石丸氏側の上告を受理しない決定をした。石丸氏に全額の支払いを命じた二審広島高裁判決が確定した。4人の裁判官全員一致の意見。
◆請求108万円のうち、公費負担の35万円だけ支払い
一、二審判決によると、印刷会社は石丸氏側の依頼を受けてポスターと法定ビラを製作・納入し、報酬代金を計約108万円と見積もって請求した。石丸氏側は、市条例に基づく公費負担の上限額約35万円だけしか支払わず、会社側が差額分を求めて提訴した。石丸氏側は、代金を公費負担の範囲内とする合意があったと反論していた。
二審判決は、双方のやりとりなどから「業務内容に見合う額を報酬額とする共通認識を持っていた」と判断。見積額にも相当性があるとし、石丸氏に差額分を全額支払うよう命じた一審広島地裁判決を支持した。石丸氏側が判決を不服とし、上告していた。
尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海外側にある接続水域で22日、中国海警局の船4隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認した。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは18日連続。
第11管区海上保安本部(那覇)によると、4隻とも機関砲のようなものを搭載。領海に近づかないよう巡視船が警告した。
8月ごろから相次ぐ強盗事件。これまでに実行役など約30人が逮捕されたが、指示役の姿はいまだ見えず、社会に不安が広がっている。捜査の鍵を握るのが実行役らのスマートフォンと資金の流れの解明、反社会的勢力などの情報だ。合同捜査本部は「ルフィ」などと名乗る指示役による一連の広域強盗事件で培った「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」に対抗する捜査手法を生かし、指示役ら首謀者の解明を急ぐ。
構図は同じ
事件は8月以降、首都圏を中心に14件発生。当初は質店などが狙われていたが、9月ごろからは一般住宅に押し入って住民を縛って暴行するなど凶悪化している。今月15日には横浜市青葉区で男性が殺害される強盗殺人事件、17日には千葉県市川市の住宅から女性が連れ去られる事件が発生した。
警視庁と神奈川、千葉、埼玉の3県警が18日に合同捜査本部を設置し、約300人体制で捜査に当たる。約30人を逮捕したが、実行役や運転役などで指示役には至っていない。警視庁の親家和仁刑事部長は同日の合同捜査本部会議で「日本の警察の総力を挙げ、実態解明、首謀者らを一掃する」と指示した。
念頭に置くのが、令和4、5年に「ルフィ」などと名乗る指示役らによって繰り返された広域強盗事件だ。警視庁などの合同捜査本部は当時、秘匿性の高い通信アプリの解析と証拠の積み上げで指示役4人を突き止めた。
警視庁幹部は今回の事件について「犯行の構図はルフィ事件と同じだ」と話す。逮捕された実行役の多くが秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」を使用していることが判明。米国で開発されたアプリでセキュリティー上の安全性が高く、メッセージが消去されたら復元は困難だという。
反社専門の捜査員も投入
今回、スマホなどの解析はルフィ事件でデジタルフォレンジック(電子鑑識)技術でメッセージの復元を成功させた警視庁捜査支援分析センター(SSBC)が担う。迅速な押収と解析が捜査の行方を左右するが、SSBCは合同捜査本部設置前から関係するとみられる事件の容疑者から押収したスマホの解析を始めている。
また、ルフィ事件では強盗によって得たカネが送金された口座を追跡し、フィリピンで引き出されていたことを端緒に収容中の男らが指示役として浮上した。奪われた被害品の流れの解明もポイントになる。
合同捜査本部には反社会的勢力の実情に通じた組織犯罪対策部門の捜査員を投入。特殊詐欺グループとの関連も疑われることから、知能犯捜査を担う捜査2課の捜査員も組み込まれている。さまざまな犯罪グループに関する情報を幅広く収集し指示役につながる情報を掘り起こしている。(内田優作)
地球温暖化対策が急務となるなか、二酸化炭素(CO2)を排出する火力発電への逆風が強まっている。だが、CO2を排出しない一方で、天候や季節に左右される太陽光や風力といった再生可能エネルギーを増やせば増やすほど、その欠点をカバーする〝調整電源〟としての火力発電の重要性はむしろ高まっている。さらに、エネルギー資源を海外に依存し多様な電源をバランスよく組み合わせる「エネルギーミックス」を基本政策とする日本は、将来的にも火力発電を重要な電源と位置づけている。火力発電が、その重要な役割を果たしていく上で、カギを握るのが〝脱炭素化〟だ。
強まる石炭火力への逆風
世界各国が地球温暖化対策について話し合う「国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)」が11月11~22日にアゼルバイジャンの首都バクーで開かれる。CO2など温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の実現に向け、化石燃料からの移行を確認するとともに、石炭火力発電の取り扱いが焦点の一つになる可能性がある。
石炭火力をめぐっては欧州で英国が9月に全廃し、フランス、ドイツなども年限を定めて全廃を表明している。日本は昨年のCOP28で岸田文雄首相が、排出削減対策が講じられていない石炭火力の建設を終了すると表明。非効率な石炭火力は段階的に閉鎖していく方針を打ち出した。
安定供給支える火力
ただ、日本では電力の安定供給の上で、火力発電は欠かせない電源となっている。東日本大震災以降、原子力発電の再稼働が一部にとどまっているためで、電源構成における火力の割合は22年度で約73%を占める。石炭火力は、そのうち約4割を占めており、「ベースロード電源」として、安定供給を支えている。エネルギー源を海外に依存し「エネルギーミックス」を基本政策とする日本にとってはエネルギー安全保障の観点からも石炭を含む火力発電は重要な電源だ。
また、電気を安定的に供給するには周波数を一定に保つ必要があり、タービンを回転させて発電する火力発電は周波数を安定させる役割(慣性力)も備えている。回転エネルギーを持たない再エネが大幅に増えると、供給網が不安定になり停電リスクが高まるため、ここでも火力の〝力〟が重要となる。
将来的にも活用
脱炭素への移行(トランジション)期においても火力発電は欠かせない電源だ。火力発電の重要な役割の一つが「調整力」。火力発電は出力をコントロールすることができ、電力需要の変動に柔軟に対応することができる。一方で、再エネは発電が天候に左右され、供給が不安定だ。需給バランスの崩れによる「ブラックアウト」(大規模停電)を避けるためには、火力発電の調整力を利用したバックアップが必要だ。脱炭素に向け、再エネを増やせば増やすほど、それをカバーする火力の役割も高まることになり、現行の第6次エネルギー基本計画に基づく30年度の電源構成目標でも火力は全体で41%、石炭火力は19%を見込んでいる。
一方で、脱炭素に向けて、火力発電のCO2排出量の削減は大きな課題となる。人工知能(AI)の普及による電力需要の増大も見込まれている中で、将来にわたって火力発電を活用していくために必要なのが、火力の脱炭素化だ。CO2を排出しない水素やアンモニア発電への転換のほか、CO2を回収・貯蔵する「CCS」や回収したCO2を利用する「CCU」などの技術開発が加速している。全国各地で実証実験などによるイノベーションが進んでおり、50年のカーボンニュートラル実現を目指す。
政策的後押し不可欠
火力発電をめぐっては、世界的な脱炭素の流れや再エネ拡大による稼働率の低下、自由化による競争激化を背景に新規投資が停滞する一方で、老朽化した火力発電所の休廃止により、供給力の減少が続いている。新規投資や脱炭素化の技術開発のための資金を調達する融資などのファイナンスも困難な状況にある。
課題を抱えつつも、日本にとって重要な電源である火力発電を将来も活用していくためには、現在策定中の第7次エネルギー基本計画で、その役割と重要性をしっかりと明記し、政策的に後押しすることが不可欠だ。
アンモニア発電「脱炭素へ先頭走る」 JERA碧南火力発電所 坂所長
愛知県碧南市にある日本最大の石炭火力発電所で、アンモニア発電への転換という世界初の挑戦が進んでいる。
「火力発電の脱炭素化の先頭を走る、まさに〝一丁目一番地〟。プレッシャーとやりがいの両方を感じている」
火力発電を主力とするJERA(ジェラ)の碧南火力発電所の坂充貴所長は、こう力を込める。
東京電力と中部電力の燃料・火力発電事業を統合して発足した同社は2020年に脱炭素化の道筋を示した「ゼロエミッション2050」を公表した。その柱の一つが、アンモニア発電への転換だ。
水素と窒素で構成されるアンモニアは燃やしてもCO2を発生しない。燃料の石炭をアンモニアに置き換えれば、その分だけCO2排出量を減らすことができる。
今年4~6月に出力100万キロワットの4号機で、燃料の20%をアンモニアに転換する実証実験が行われた。20%転換は世界初の試みで、これほど大規模な設備での実験も前例がない。
アンモニア転換は、燃料を吹きつけて燃やすバーナーを交換するなど既存設備を活用し低コストで迅速に実施できるというメリットがある。実際、実験のための改造工事は定期点検期間中の3カ月で完了した。
約3カ月の実証実験では、最大出力に到達し出力調整も問題なく行えることを確認。有害な窒素酸化物の発生量も従来と同等以下という良好な結果が得られた。実験成功を受け、本格導入に向けた工事に着手。20年代後半に商用運転を開始する計画だ。さらに28年度までに50%以上転換の実証実験を行い、30年代前半の商用運転を目指す。
最終目標は、50年までにアンモニアに100%転換しCO2排出量をゼロにする「専焼化」だ。実現には蒸気を発生させるボイラーを一から開発する必要もあり、越えるべきハードルは低くない。それでも、坂所長は「今回の実験でわれわれの想定は間違っていなかったと確認でき、自信が持てた」と手応えを感じている。
火力発電への逆風が強まるなか、「火力発電は変化に対し臨機応変に対応できることが強み。電力の安定供給の上でも、エネルギー安全保障の上でも、欠かせない重要な電源。だからこそ火力発電のゼロエミッションが重要になる」と、決意を新たにしていた。
ゼロエミッション火力は〝地球防衛軍〟 国際大学学長 橘川武郎氏
日本は昨年も今年も猛暑で、電力需給はギリギリだった。何とか乗り切れたのは火力発電のおかげだ。原子力発電は再稼働が進まず、天候に左右される再エネは稼働率が低く、電源構成の7割を火力が占めている。世界的にも最も多い石炭火力と、次いで多い天然ガス火力で約半分を占め、新興国では石炭火力のウエートがさらに高くなる。日本も世界も電力供給は火力によって支えられているというのが現実だ。石炭を〝悪者〟にする世界的な風潮は大きな誤りだ。一方で、カーボンニュートラルを実現するには化石燃料は減らさなければならない。そこに大きな矛盾がある。
日本として2050年のカーボンニュートラル実現には、天候任せの変動電源である再エネを増やさなければならないが、その分、バックアップ電源が必要になる。蓄電池もまだ限定的であり、原料のレアアースとレアメタルを中国に握られているという問題もあるため、結局は火力でカバーしていくしかない。火力を使いながらカーボンニュートラルを実現する大きな武器となるのが、ゼロエミッション火力だ。20年に火力発電を主力とするJERAがCO2排出量をゼロにするという驚くべき宣言を出した。石炭は燃え方が似ているアンモニア混焼から専燃に、天然ガスも水素専燃に移行するというもので、これでカーボンニュートラル実現がみえてきた。JERAが〝ゲームチェンジャー〟になったと思う。
ゼロエミッション火力はまさに〝地球防衛軍〟だ。欧州は石炭を廃止しろと言うが、新興国にとっては非現実的だ。日本は石炭を使いながらアンモニアに転換していくという建設的な提案をしている。これが世界を救うと言っても過言ではない。
しかし、世界的には評価されていない。日本は石炭にしがみつく悪者で、アンモニアはその言い訳と受け止められている。日本と同じように石炭が約3割を占めるドイツが評価されているのは、廃止の期限を示しているからだ。日本もまずは廃止期限を宣言してはどうか。だからといって実際に使える道が閉ざされるわけでもない。政策は柔軟で良い。その方がアンモニアへの転換に本気であると伝わるし、石炭を批判されずに活用できる。アジアの国でアンモニアへの転換を進めていく上でも大きな意味を持つと考えている。